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第5章 ランドバルク王国王女イグレーヌ

イグレーヌ23

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「逃げるぞ!」
「ああ、わかった」
 ランスロットの言葉にエヴァンスがうなづく。
 ランスロットはわたしを抱えて、窓を破る。
 そのまま、外に跳ぶ。
 ここは二階だ。
 それでも、2人の身のこなしなら大丈夫。
 ドラの町で修行をしてわたしでも跳べるんだけど、ランスロットは過保護だ。

 ひらりって感じで地面に降り立つ。
 外にも兵士がいた。
 まあ、逮捕するときは当たり前だが、窓から逃げられたことを想定する。
 
 その兵士をランスロットは右腕の一撃で眠らせる。
 ランスロットの右腕には黒い手が生えていた。
 この前、わたしを助けるために失った腕。
 それは黒鋼で作られた義手だ。
 これもブラックウッドさんの作ったものだ。
 魔力を流し込むことによって、普通の腕のように動く。

「こっちのほうがいいぐらいだぜ。
 黒鋼製だしな」
 ランスロットの弁だ。
 この人はプラス思考の塊のようなもんだ。

 馬車の近くの兵士はエヴァンスさんが撃退する。
 そのまま、馬車に飛び乗って準備をする。
 その間に追ってくる兵士の前に、わたしは雷を落とす。
 もちろん当たらないようにだ。
 わたしの得意な光魔法の一つだ。
 こっちに飛び道具があると知ったら、かんたんに近づけない。

 その間に馬車と馬をつないで、走れるようにしてくれる。
 そして出発する。
 予定とは違うけど、こういうこともあるだろう。
 たぶん、これで王都にも手配がされるな。
 でも、それもいい。
 イグレーヌ王女、ランスロット、エヴァンスが生きている。
 このニュースは人々に希望を与えるだろう。

 わたしたちは最高速度で王都に馬車を走らせる。
 手配もこの馬車のスピードを超えられないだろう。
 今はスピード勝負だ。

 そう思ったとたん、空を飛ぶ影。
 鳥?あんまり大きくない。
 人間くらいの大きさだ。
 鳥は馬車と同じスピードで飛ぶ。
 それから、馬車の窓を覗き込む。
 それは女性の身体に羽根が生えた生物。
 神話でしか聞いたことがない。たしかハーピー。

「みーつけた」
 ハーピーはわたしたちの顔を見て、歯を向きだして笑った。
 
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