鬼アクマの小川くんと猫とイヌのわたし

やまの龍

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第4話 マゾなわたしになりそうです

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 でも、六つの係のタイムテーブルなんて22時までに終わるだろうか?

無理そうな気がする。

 午後の授業、こっそりタイムテーブルについて考えながら、朝の出来事を思い出す。


あれ、キス、されたよね?勘違いじゃないよね?

 公園の広場で、鳩同士のキスみたいな突っつき合いは見たことあるけど、まさか自分にそんなことがあるとは思わなかった。それもあんな急に。

それからハッと思い出す。

「クマ!」

 慌てて洗面所に駆け込み、鏡を覗き込む。

──うーん、うーん、うーん。想像してたよりは酷くないけど、やっぱり眠そうな顔。マヌケだ。こんな顔にキスされたかと思うとゲンナリする。いやそれより、、何でこんな顔に?分かってたらもっとマシな顔に……。

 考えたら、ボッと顔が燃えそうになる。

よし、寝よう!授業中は寝よう。覚悟を決めて教科書を立てて、その陰で頬杖をつく。背が小さくて良かったぁ。先生に見つかりにくい。

 でも授業終わりに先生がやって来て小声で言った。

「森さん、今日の課題は授業中に観たビデオの感想です。来週までにちゃんと観て四百字詰で2枚分、提出するように」

「はい」

 バレてた。でも小声で言ってくれる所が優しい。センセ、ありがと。

「おい、森みや、居眠り終わったか?議会室行くぞ」

大声で言う小川くんは優しくない。しっかり鬼アクマ。
 でも議会室でメモを渡してくれた。

「さっき観たビデオのタイトル。YouTubeで検索してとっとと観ろ。30分くらいだから睡気覚ましにちょうどいいだろ」

わーん、やっぱり小川くんも優しい。
と思ったら、ドサッと紙束が隣に置かれた。

「それを横目で観ながら、これをクラスごとに仕分けろ」

「み、観ながら?」

 わたし、ながら作業ってあんまり得意じゃないんですけど、と言いたいけど言えない。

「イヤホン持ってるだろ?それで耳だけそっちにして、目はこっち。ほら、書類を数えるんだ。早く」

「はぁ」

 言われた通りに素直にイヤホンを耳に入れる。確かにこれは集中しやすいかも。

「わぁ、ありがとう。これで来週には提出間に合いそう」

 そう言ったら、小川くんははぁ?と目を剥いた。

「感想なんか、観てすぐに書け。800字ならすぐだろ」

「え、すぐ?」

「論文じゃねぇぞ。感想でいいんだぞ。すぐじゃねぇか」

そう言って小川くんは、手持ちのPCの画面を見せてくれた。そこには多分、今観てる途中の動画の感想がズラズラズラ。

「え、もう書き終わったの?提出は来週までなのに?」

「感想には賞味期限があんだよ。早い方がいいに決まってんだろ。あ、観ながらちゃんとメモ取っとけよ。後で使うからな」

 そう言って、ニッと笑う小川くん。彼はサドで鬼アクマのオレ様だけど、そうなるからにはちゃんと理由があるんだなぁと感心する。その賢さの半分とは言わないけと、4分の1くらいあったらいいのになぁ。

そうこうしてる内にビデオが終わる。

メモは取ったか?」

 問われて頷く。ノートを覗き込んだ小川くんが笑った。

「お前、またイラスト描いてたのかよ。それメモじゃなくて、もう漫画じゃねぇか」

 そう言ってノートが取り上げられる。

「あ、雑だから」と取り返そうとするけど、頭を押さえられて近付けない。

「ふぅん、なかなか上手いじゃん。お前はイメージ式の方が合うんだろうな」


「イメージ式?」

尋ねたけど、答えはなかった。代わりにペラッと紙が渡される。


「それを使ってタイムテーブルを仕上げろ」

セカブトカと左端に縦に並んで図表化されたタイムテーブル。

なんだ、もう出来てるじゃない。ホッとしたわたしを睨んで小川くんは言った。

「それは去年の分。模擬店がなかったから。今年はあるから舞台係の上に追加して作り直せ」

ヒーン。

机に突っ伏したわたしの頭をポンポンとたたき、小川くんは言った。

「ま、後で簡単に直したデータを送ってやるから、それに一つ追加するだけだ。すぐ出来るだろ」

「え?ホント?」

 ぱぁっと笑顔になったわたしを見て小川くんは軽く口の端を上げた。

「森みやは可愛いな」

「え?」

「マジ、ワンコロみたい」

そう言って掌を差し出す。もしかして手を握ってくれるんだろうか?そうっと指先を乗っけたわたしに小川くんは言った。

「よしよし、お手。良い子だぞ」
そう言って、わたしの頭を撫でる。

「犬ですか」

軽く口を尖らせたわたしに小川くんは答えた。

「だって、俺の彼女はイヌみたいな性格の猫なんだろ」

言って、向こうを向いてしまう。

 今、俺の彼女って言った?言ったよね?認めてくれた?

「おい、そろそろ帰るぞ」


嬉しくて追いかける。

「あのっ、ちょっとだけ手を繋いでもいいですか?」

 階段の所で止まってた小川くんが振り返る。差し出される手に捕まろうとして、でも足を踏み外しかけたわたし。

「オイ!」

「きゃあ!」

——あ、落ちる。ヤバイ。

と思ったら支えられていた。

——ドサッ。ガチャン。バラバラバラ。

すごい音に目を下ろせば、肩に下げてたカバンが踊り場まで落ちて、その中に入っていたペンケースが弾け飛び、消しゴムやらシャーペンやらが階段の隙間を擦り抜けて一番下の階まで落ちていっていた。

ゾッとする。

「ご、ごめんなさい。ありがとう」

手摺を掴み、腰をしっかりと抱えてくれている小川くんの腕。細く見えてたのに自分のそれとは全く違って固くて太い腕。その横の手すりに掴まりながら、コロコロと転がり続ける消しゴムを目で追う。静寂の時間。

 ややして小川くんが口を開いた。

「森みや」


「はい」

「俺を殺す気か」

「い、いいえぇっ、そんな滅相もない!」

「お前が小さかったから良かったが、もっと気を付けろ」

「はいぃ!」

「イヌのように抱き着いてくるなら、もっと場所を選べ」

「はい!」

 返事してから顔を上げる。

「え、抱き着いていいの?」

尋ねたら、

「場所を選んだらな」

そう答えて彼はニヤリと笑った。

「ペタだと思ったけど、意外にあるじゃん」

「え?」

何が?ペタ?

ペタってペタって、もしかして、アレ?

よくよく見れば、わたしの身体は腰を抱えられて小川くんに密着状態。お腹から胸から太股まで丸わかり。

——ダイエットしなきゃ嫌われちゃう。


ガックリしたわたしの頭の上から天使が声をかけてくれた。

「そのまんまでいいよ」

え、今の小川くんの声?

よくわかんなかった。


「ま、心配なら揉んでやるよ。本当に大きくなるかは知らんけど」

 揉むって何を?セカンドってさっき言ったもの?

そ、それは、それはどういう意味なのでしょうか?わたしはどうなっちゃうのでしょうか?

聞けない。怖すぎて。

でもどんな顔して言ってるんだろう?

 恐る恐るチラと見上げたわたしの目の前で小川くんは少し顔を赤くしながら言った。

「ほら、早くしないと22時に間に合わないぞ。間に合わなかったら明日は2時間前登校だからな」

「はいぃ!」

鬼アクマでオレ様の彼が出来て、わたしの生活はスリル満点。でもこのドキビク感に快感を感じてしまいつつあるわたしは、もしかしてマゾなのでしょうか?



※※※

2話で完結のつもりでしたが、なんか続いちゃいました。また気が向くか何かネタが思い付いたら書くかもしれませんが、これ以上はヤバイ方に行ってしまいそうだから、とりあえず終わりです。読んで下さった方、ありがとうございました。










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