104 / 125
本編
チャリD
しおりを挟む
「ねね、おじさん」
「はい、なんでしょう」
「自転車が欲しい」
「なんでまた急に」
姪の急な提案に驚きを隠せないものの、できるだけ平然を装ってみた。
確かに、今まで徒歩で済ましていたから楽な移動手段が欲しいというのはすぐに思いついた。
(でもなあ、ケガとかすると俺が滅茶苦茶言われるからなあ。というか、殺されるよな)
「ないと困るか?」
「なくてもいいけど、もっといろんなところに行ける」
「みんなが、持っているとかではなく?」
「ではなく」
うーん、正当な理由もなしか。せめて、理由があればこじつけるぐらいはできるんだけどなあ。
この時、中仁としてはメイの願いを叶えたかった。しかし、姉への恐怖と過去のトラウマがそれを躊躇させた。
そう、それはメイと同じぐらいの中学の夏のことだった。
「おじさんちょっと待って、なんで回想にーー」
無視しよう
………
「いいか、ここから坂を下って抜けた先のコンビニがゴールだ。いいな」
坊主ヘアの少年がコースの確認をする。少年は峠下克上という、自転車走り屋集団の代表だ。
「わかった」
その場に居合わせた全員が返事をする。
「よし、誰が出る」
コースの確認をした少年はいかにも余裕そうである。それもそうで、すでにのぼりの勝負は勝っている。しかも、数回走っただけでぶっちぎる程の早さだった。
「もう少し待ってくれないか」
と、一人の少年が提案する。
しかし、
「ダメだ。すでに三十分立っている。そこでへたり込んだやつも体力が回復しているはずだ」
と断った。
チームの誰もがあきらめ始めたその時、一本の電話が坊主少年に入った。
「どうした?」
〈一台、そっちに向かっている〉
「車か?」
〈いや、チャリだ。さっき、猛スピードであがっていった〉
「ならほっとけばいいだろ」
「ちょっと待ってくれ、どんなチャリだった」
〈荷台付きの黒のボディーに白のカゴだ〉
「もう少しだけ待ってくれ。そのチャリがうちの助っ人だ」
そう言った少年は希望に目を輝かせていた。
(ついに、来てくれたんだ。あの峠最速と言われたママチャリが)
「すいません、お待たせしました」
「あれ?中仁じゃないか」
目の前に現れたのは同級生の中仁だった。
「姉ちゃんは?」
「なんか、用事があるって」
終わった、そう思った。
「ここの下りなら毎回親戚の家に何か届けるのに通ってるので問題ないと思います」
「ちょっと待て、ここ最近はお前が走ってるんだよな」
「ええまあ」
つまり、ここ最近聞く噂は中仁ということになる。もしかしたら、いけるかもしれない。
「よしじゃあ、もういいか」
「ああ」
二人が白線を基準に並ぶ。
「お前、名前はなんて言うんだ」
「中仁」
「なあ、中仁今のうちに止めとかないか?恥かかずに済むぞ」
ー現代ー
「って言われたから腹立ってぶっちぎってやったことがあるからなあ。自転車は不安だよ」
「なんの話?」
「はい、なんでしょう」
「自転車が欲しい」
「なんでまた急に」
姪の急な提案に驚きを隠せないものの、できるだけ平然を装ってみた。
確かに、今まで徒歩で済ましていたから楽な移動手段が欲しいというのはすぐに思いついた。
(でもなあ、ケガとかすると俺が滅茶苦茶言われるからなあ。というか、殺されるよな)
「ないと困るか?」
「なくてもいいけど、もっといろんなところに行ける」
「みんなが、持っているとかではなく?」
「ではなく」
うーん、正当な理由もなしか。せめて、理由があればこじつけるぐらいはできるんだけどなあ。
この時、中仁としてはメイの願いを叶えたかった。しかし、姉への恐怖と過去のトラウマがそれを躊躇させた。
そう、それはメイと同じぐらいの中学の夏のことだった。
「おじさんちょっと待って、なんで回想にーー」
無視しよう
………
「いいか、ここから坂を下って抜けた先のコンビニがゴールだ。いいな」
坊主ヘアの少年がコースの確認をする。少年は峠下克上という、自転車走り屋集団の代表だ。
「わかった」
その場に居合わせた全員が返事をする。
「よし、誰が出る」
コースの確認をした少年はいかにも余裕そうである。それもそうで、すでにのぼりの勝負は勝っている。しかも、数回走っただけでぶっちぎる程の早さだった。
「もう少し待ってくれないか」
と、一人の少年が提案する。
しかし、
「ダメだ。すでに三十分立っている。そこでへたり込んだやつも体力が回復しているはずだ」
と断った。
チームの誰もがあきらめ始めたその時、一本の電話が坊主少年に入った。
「どうした?」
〈一台、そっちに向かっている〉
「車か?」
〈いや、チャリだ。さっき、猛スピードであがっていった〉
「ならほっとけばいいだろ」
「ちょっと待ってくれ、どんなチャリだった」
〈荷台付きの黒のボディーに白のカゴだ〉
「もう少しだけ待ってくれ。そのチャリがうちの助っ人だ」
そう言った少年は希望に目を輝かせていた。
(ついに、来てくれたんだ。あの峠最速と言われたママチャリが)
「すいません、お待たせしました」
「あれ?中仁じゃないか」
目の前に現れたのは同級生の中仁だった。
「姉ちゃんは?」
「なんか、用事があるって」
終わった、そう思った。
「ここの下りなら毎回親戚の家に何か届けるのに通ってるので問題ないと思います」
「ちょっと待て、ここ最近はお前が走ってるんだよな」
「ええまあ」
つまり、ここ最近聞く噂は中仁ということになる。もしかしたら、いけるかもしれない。
「よしじゃあ、もういいか」
「ああ」
二人が白線を基準に並ぶ。
「お前、名前はなんて言うんだ」
「中仁」
「なあ、中仁今のうちに止めとかないか?恥かかずに済むぞ」
ー現代ー
「って言われたから腹立ってぶっちぎってやったことがあるからなあ。自転車は不安だよ」
「なんの話?」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる