105 / 125
本編
チャリD legend stage1
しおりを挟む
「いいか、ここから坂を下って抜けた先のコンビニがゴールだ。いいな」
坊主ヘアの少年がコースの確認をする。少年は峠下克上という、自転車走り屋集団の代表だ。
「わかった」
その場に居合わせた全員が返事をする。
「よし、誰が出る」
コースの確認をした少年はいかにも余裕そうである。それもそうで、すでにのぼりの勝負は勝っている。しかも、数回走っただけでぶっちぎる程の早さだった。
「もう少し待ってくれないか」
と、一人の少年が提案する。
しかし、
「ダメだ。すでに三十分立っている。そこでへたり込んだやつも体力が回復しているはずだ」
と断った。
チームの誰もがあきらめ始めたその時、一本の電話が坊主少年に入った。
「どうした?」
〈一台、そっちに向かっている〉
「車か?」
〈いや、チャリだ。さっき、猛スピードであがっていった〉
「ならほっとけばいいだろ」
「ちょっと待ってくれ、どんなチャリだった」
〈荷台付きの黒のボディーに白のカゴだ〉
「もう少しだけ待ってくれ。そのチャリがうちの助っ人だ」
そう言った少年は希望に目を輝かせていた。
(ついに、来てくれたんだ。あの峠最速と言われたママチャリが)
「すいません、お待たせしました」
「あれ?中仁じゃないか」
目の前に現れたのは同級生の中仁だった。
「姉ちゃんは?」
「なんか、用事があるって」
終わった、そう思った。
「ここの下りなら毎回親戚の家に何か届けるのに通ってるので問題ないと思います」
「ちょっと待て、ここ最近はお前《・・》が走ってるんだよな」
「ええまあ」
つまり、ここ最近聞く噂は中仁ということになる。もしかしたら、いけるかもしれない。
「よしじゃあ、もういいか」
「ああ」
二人が白線を基準に並ぶ。
「お前、名前はなんて言うんだ」
「中仁」
「なあ、中仁今のうちに止めとかないか?恥かかずに済むぞ」
少し馬鹿にしたような言い方に中仁は少し腹が立っていた。
たかが、野良の自転車レースで粋がる意味がわからない。
せっかくだし本に書いてあった通りに動いてみよう。
「そういえば、名前を聞いてなかったや」
できるだけ、笑顔で友好を求めるように言う。
「俺は、下村だ。よろしく」
「よろしく下村君。ところでさ、下村君もこの勝負降りなくていいの?」
「ないね。負けるつもりもない」
「でも、ママチャリに負けたら恥ずかしくない?」
少しだけの挑発。効果はわからないけど、これで乗ってくるようなら楽勝だ。
「悔しいけど、恥ずかしくない。むしろ、うれしい」
「うれしい?」
「だって、それは自分が知らないところまで行っている人がいるってことだろ。そういうのわくわくしない?」
意外に、いいやつみたいだ。
「なんとなくだけど、仲良くなれそな気がするよ」
「おれも、そんな気がする」
でも、負けられない理由はある。向こうにもあるだろうけど、こっちは副賞の図書カード五千円分が待っている。
『とある』まとめ買いしてゴールデンウィークは本三昧にするぞ。
「よし、カウントはじめっぞ。5…4…3…2……1。GO!」
両者勢いよく飛び出す。
「おおっ、すごい飛び出しだ!でも、スポーツ車の下村のほうが加速は有利か!?」
「中仁には悪いがこのままちぎらせてもらうぜ」
全速力で下り始める。
すでにギアは2×7から3×6にシフトチェンジしていた。あとはこの勢いをいかに殺さずに進むか。下村はそう確信していた。
しかし、現実はそうはいかない。
シャー―ッ
「何の音だ?」
「わるいな、追いついた」
「なんだと!」
まさか、そんなはずはない。
いくら、スピードを殺さずに進むことを前提にしていたとはいえこぐのをやめていたわけではない。
コーナーもできるだけ最短コースで進んでいる。
中継担当も車がいないことはセクションごとに伝えてくれている。ギリギリに突っ込んでいるのになんで。
「知らないのか?ママチャリのほうが重い」
当然といえば当然だ。むしろ、その分加速が上がりやすくスピードが出る。
つまり、こげばこぐほどスピードが出るはずである。
「そして、F=ma。つまり、重くて加速度が大きいほうが力が大きい、つまり早い」
「なん………だと」
実際は全然違う。ただのにわか知識による妄言である。
というか、高度な計算もできるはずがない。なぜなら、中仁は数学が全然だめだからである。
しかし、それに動揺した下村が一瞬だけスピードを落とした。
「悪いが俺が勝つ」
「しまった」
待てよ、このママチャリよく見たらただのママチャリじゃねえ。
そのママチャリは、異様だった。マウンテンバイク用のタイヤに27段変速仕様である。
(どうりで早いわけだ。こいつのは市販品じゃない。カスタムオーダーだ)
「だからって、負けるわけにはいかない」
勝負は次の直角カーブ。あそこなら、絶対に減速する。その瞬間に加速度で有利なこっちがぶち抜いてやる。
しかし、中仁は全く別のことを考えていた。
(思った以上に差がつかない。まずいな。仕方ない、あれやるか)
ついに、勝負のカーブがやってくる。
少し外へと膨らみ、減速を開始する。
「あいつ馬鹿か。この先を知らないのか」
中仁が減速をしない。むしろ、スピードが上がっている。
「いや、知っているさ。だからだ」
「あいつなにを」
中仁の頭はすでにカーブ中のイメージでいっぱいだった。
自転車はFR車だ。つまり、カーブ直前でハンドルを九十度ひねると同時に後輪ブレーキをかける。この瞬間にドリフトが成立する。そして、慣性の法則で体が外に引っ張られる。だから、体をできるだけのぼり側に倒す。
あとは進行方向に全力でこぐ。
「ドリフトだと!!だがそれだと…タイヤがおじゃん……そうか、そのためのMTB仕様か!」
気づいたときにはもう中仁の姿はゴールまで見ることができなかった。
坊主ヘアの少年がコースの確認をする。少年は峠下克上という、自転車走り屋集団の代表だ。
「わかった」
その場に居合わせた全員が返事をする。
「よし、誰が出る」
コースの確認をした少年はいかにも余裕そうである。それもそうで、すでにのぼりの勝負は勝っている。しかも、数回走っただけでぶっちぎる程の早さだった。
「もう少し待ってくれないか」
と、一人の少年が提案する。
しかし、
「ダメだ。すでに三十分立っている。そこでへたり込んだやつも体力が回復しているはずだ」
と断った。
チームの誰もがあきらめ始めたその時、一本の電話が坊主少年に入った。
「どうした?」
〈一台、そっちに向かっている〉
「車か?」
〈いや、チャリだ。さっき、猛スピードであがっていった〉
「ならほっとけばいいだろ」
「ちょっと待ってくれ、どんなチャリだった」
〈荷台付きの黒のボディーに白のカゴだ〉
「もう少しだけ待ってくれ。そのチャリがうちの助っ人だ」
そう言った少年は希望に目を輝かせていた。
(ついに、来てくれたんだ。あの峠最速と言われたママチャリが)
「すいません、お待たせしました」
「あれ?中仁じゃないか」
目の前に現れたのは同級生の中仁だった。
「姉ちゃんは?」
「なんか、用事があるって」
終わった、そう思った。
「ここの下りなら毎回親戚の家に何か届けるのに通ってるので問題ないと思います」
「ちょっと待て、ここ最近はお前《・・》が走ってるんだよな」
「ええまあ」
つまり、ここ最近聞く噂は中仁ということになる。もしかしたら、いけるかもしれない。
「よしじゃあ、もういいか」
「ああ」
二人が白線を基準に並ぶ。
「お前、名前はなんて言うんだ」
「中仁」
「なあ、中仁今のうちに止めとかないか?恥かかずに済むぞ」
少し馬鹿にしたような言い方に中仁は少し腹が立っていた。
たかが、野良の自転車レースで粋がる意味がわからない。
せっかくだし本に書いてあった通りに動いてみよう。
「そういえば、名前を聞いてなかったや」
できるだけ、笑顔で友好を求めるように言う。
「俺は、下村だ。よろしく」
「よろしく下村君。ところでさ、下村君もこの勝負降りなくていいの?」
「ないね。負けるつもりもない」
「でも、ママチャリに負けたら恥ずかしくない?」
少しだけの挑発。効果はわからないけど、これで乗ってくるようなら楽勝だ。
「悔しいけど、恥ずかしくない。むしろ、うれしい」
「うれしい?」
「だって、それは自分が知らないところまで行っている人がいるってことだろ。そういうのわくわくしない?」
意外に、いいやつみたいだ。
「なんとなくだけど、仲良くなれそな気がするよ」
「おれも、そんな気がする」
でも、負けられない理由はある。向こうにもあるだろうけど、こっちは副賞の図書カード五千円分が待っている。
『とある』まとめ買いしてゴールデンウィークは本三昧にするぞ。
「よし、カウントはじめっぞ。5…4…3…2……1。GO!」
両者勢いよく飛び出す。
「おおっ、すごい飛び出しだ!でも、スポーツ車の下村のほうが加速は有利か!?」
「中仁には悪いがこのままちぎらせてもらうぜ」
全速力で下り始める。
すでにギアは2×7から3×6にシフトチェンジしていた。あとはこの勢いをいかに殺さずに進むか。下村はそう確信していた。
しかし、現実はそうはいかない。
シャー―ッ
「何の音だ?」
「わるいな、追いついた」
「なんだと!」
まさか、そんなはずはない。
いくら、スピードを殺さずに進むことを前提にしていたとはいえこぐのをやめていたわけではない。
コーナーもできるだけ最短コースで進んでいる。
中継担当も車がいないことはセクションごとに伝えてくれている。ギリギリに突っ込んでいるのになんで。
「知らないのか?ママチャリのほうが重い」
当然といえば当然だ。むしろ、その分加速が上がりやすくスピードが出る。
つまり、こげばこぐほどスピードが出るはずである。
「そして、F=ma。つまり、重くて加速度が大きいほうが力が大きい、つまり早い」
「なん………だと」
実際は全然違う。ただのにわか知識による妄言である。
というか、高度な計算もできるはずがない。なぜなら、中仁は数学が全然だめだからである。
しかし、それに動揺した下村が一瞬だけスピードを落とした。
「悪いが俺が勝つ」
「しまった」
待てよ、このママチャリよく見たらただのママチャリじゃねえ。
そのママチャリは、異様だった。マウンテンバイク用のタイヤに27段変速仕様である。
(どうりで早いわけだ。こいつのは市販品じゃない。カスタムオーダーだ)
「だからって、負けるわけにはいかない」
勝負は次の直角カーブ。あそこなら、絶対に減速する。その瞬間に加速度で有利なこっちがぶち抜いてやる。
しかし、中仁は全く別のことを考えていた。
(思った以上に差がつかない。まずいな。仕方ない、あれやるか)
ついに、勝負のカーブがやってくる。
少し外へと膨らみ、減速を開始する。
「あいつ馬鹿か。この先を知らないのか」
中仁が減速をしない。むしろ、スピードが上がっている。
「いや、知っているさ。だからだ」
「あいつなにを」
中仁の頭はすでにカーブ中のイメージでいっぱいだった。
自転車はFR車だ。つまり、カーブ直前でハンドルを九十度ひねると同時に後輪ブレーキをかける。この瞬間にドリフトが成立する。そして、慣性の法則で体が外に引っ張られる。だから、体をできるだけのぼり側に倒す。
あとは進行方向に全力でこぐ。
「ドリフトだと!!だがそれだと…タイヤがおじゃん……そうか、そのためのMTB仕様か!」
気づいたときにはもう中仁の姿はゴールまで見ることができなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる