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本編
天才×人災
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「とりあえず、店に入らないか」
「ええ、そうね。ここで、選書のルールについて話しても無駄だわ」
「ああそですか。じゃあ、いつもの決め方で文句ないな」
「ええもちろんよ。いくわよ」
お互いに構えて相手の様子をうかがう。
今行われているのは自身の経験則と統計からなる、無数のシュミレーションだ。一瞬の気のゆるみが結果的には大ダメージにつながる。だから、シュミレーションのパターンが一つももれないように入念に確認する。
二人の間には街の喧騒すら入ってこない、それ故に殺伐としていて沈黙がながれる。
「いくぞ!」
お互いいつでも動き出せるように構える。
「最初はグー!じゃんけん、ポン」
お互いにパーを出している。つまり、あいこだ。
あぶなかった、いつもならグーでくるのに今日は変えてきた。なんだろう、これはブラフなのか。いつものパターンではなく今日は変えますってことなのか。それとも、今日の私は一味違います的な感じのやつなのか。
いつもならグーが最初に必ず来るのに。
まあいい、グダグダ考えるほうが相手の罠に引っかかっている。ここはシンプルにただただじゃんけんをすればいい。
「じゃあ、次は私のかけ声でいい?」
「もちろん」と答える。
「次で勝つ」
急に背筋が凍る感じがする。
まさか、こいつ。どういう方法かはわからないけど成長したんだ。俺に勝てるじゃんけんレベルまで。
「最初は、グー」
いや落ち着け、じゃんけんのレベルなんてそうそう変わるもんじゃない。あくまでも、弱すぎたものが一般的な勝率に変わっただけだ。いつもはグー確定が初対面の人とする時と同じ三分の一になっただけだ。直前の相手の力み具合、技を出すまでのコンマ数秒の誤差さえ見抜ければ勝てる。
いや、勝つんだ。
「じゃ、じゃんけん」
こいつ、噛んだ感じをだして一拍ずらしてきやがった。だがまだ大丈夫だ。超高速じゃんけんに比べればまだ何とかなる。よく見ろ、よく感じろ、何を出したいかを見抜け。
このコンマ数秒に中仁は全神経を集中させていた。いや、集中するというレベルではなかった、無意識下で日頃読み取れないレベルの気や筋肉の力みまですべてが手に取るようにわかった。
つまり、ゾーンである。
極限の状況で己のすべてを出し切るために発動されるそれは、一部では天才にのみ許された高集中状態だとされている。その高みにじゃんけんでいたったのだ。
だが、世界は非情なものである。
「じゃんけん、グー(物理)」
「かはっ」
途切れかけた意識の中で中仁は安堵していた。
よかった。じゃんけんという枠から外れることでしかできない技。二度とじゃんけんしてもらえなくてもいいというほどの決意と覚悟。じゃんけんの才を持つものがそのすべてを投げ出して得られる方法。それを見れたこと。また、ゾーンにいたってもなお勝てなかったのはじゃんけんではなかったという事実。
そして、毎日腹筋背筋腕立て伏せを各三十回こなしていてよかった。
最後に小さくつぶやいた。
「いいセンスだ……」
完
「ええ、そうね。ここで、選書のルールについて話しても無駄だわ」
「ああそですか。じゃあ、いつもの決め方で文句ないな」
「ええもちろんよ。いくわよ」
お互いに構えて相手の様子をうかがう。
今行われているのは自身の経験則と統計からなる、無数のシュミレーションだ。一瞬の気のゆるみが結果的には大ダメージにつながる。だから、シュミレーションのパターンが一つももれないように入念に確認する。
二人の間には街の喧騒すら入ってこない、それ故に殺伐としていて沈黙がながれる。
「いくぞ!」
お互いいつでも動き出せるように構える。
「最初はグー!じゃんけん、ポン」
お互いにパーを出している。つまり、あいこだ。
あぶなかった、いつもならグーでくるのに今日は変えてきた。なんだろう、これはブラフなのか。いつものパターンではなく今日は変えますってことなのか。それとも、今日の私は一味違います的な感じのやつなのか。
いつもならグーが最初に必ず来るのに。
まあいい、グダグダ考えるほうが相手の罠に引っかかっている。ここはシンプルにただただじゃんけんをすればいい。
「じゃあ、次は私のかけ声でいい?」
「もちろん」と答える。
「次で勝つ」
急に背筋が凍る感じがする。
まさか、こいつ。どういう方法かはわからないけど成長したんだ。俺に勝てるじゃんけんレベルまで。
「最初は、グー」
いや落ち着け、じゃんけんのレベルなんてそうそう変わるもんじゃない。あくまでも、弱すぎたものが一般的な勝率に変わっただけだ。いつもはグー確定が初対面の人とする時と同じ三分の一になっただけだ。直前の相手の力み具合、技を出すまでのコンマ数秒の誤差さえ見抜ければ勝てる。
いや、勝つんだ。
「じゃ、じゃんけん」
こいつ、噛んだ感じをだして一拍ずらしてきやがった。だがまだ大丈夫だ。超高速じゃんけんに比べればまだ何とかなる。よく見ろ、よく感じろ、何を出したいかを見抜け。
このコンマ数秒に中仁は全神経を集中させていた。いや、集中するというレベルではなかった、無意識下で日頃読み取れないレベルの気や筋肉の力みまですべてが手に取るようにわかった。
つまり、ゾーンである。
極限の状況で己のすべてを出し切るために発動されるそれは、一部では天才にのみ許された高集中状態だとされている。その高みにじゃんけんでいたったのだ。
だが、世界は非情なものである。
「じゃんけん、グー(物理)」
「かはっ」
途切れかけた意識の中で中仁は安堵していた。
よかった。じゃんけんという枠から外れることでしかできない技。二度とじゃんけんしてもらえなくてもいいというほどの決意と覚悟。じゃんけんの才を持つものがそのすべてを投げ出して得られる方法。それを見れたこと。また、ゾーンにいたってもなお勝てなかったのはじゃんけんではなかったという事実。
そして、毎日腹筋背筋腕立て伏せを各三十回こなしていてよかった。
最後に小さくつぶやいた。
「いいセンスだ……」
完
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