妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

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第1章

第15話 手紙

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「後で渡されるが……金貨100枚だ」

「金貨……100枚!?!?」

 ゴスイの学費を丸々払えてしまうくらいの大金を聞いた俺は、一瞬、時が止まったように感じた。

「そうだ。親御さんにも、もう伝えてある」

「そうですか……てか、俺どのくらい寝てました?」

「丸々2日間くらいかな」

「2日間!?」

 そんなに寝ていたのか……魔力の使いすぎ恐るべし。ストローグさんに怒られちゃうかなぁ……

「んで、それが1つ目だ。次に2つ目」

「ケイトの……ことですよね」

「そうだ」

 俺は気持ちを切り替え、話を聞き始めた。

「まず、あの事件のことだが、実際に家に火をつけたのは彼女で間違いない。でも、君のおかげで被害は最小限で抑えられた。死人も出ていない」

「え、死人なしですか?」

「焼け跡から私たちが調査したけど、焼死体は見つからなかったよ」

 じゃあ、俺がつまずいたあれは人じゃなかったのか……良かった……

「それで、彼女のこれからのことなんだが、一応、保護という形で警察署の寮に3年程住んでもらうことになった」

「という事は……?」

「罪は罪だ。そこはきちんと償ってもらう。でも、まぁ、事情も全て聞いていたし、死者も出ていないから懲役という形では無いって事だ」

「そうなんですか……」

 3年となれば学校には通えない。通えたとしても一緒には無理だ。

 ……未来は変わっていない。でも、両親の死は回避した。

 これが良かったのか悪かったのかは俺には分からない。

 俺にとっては、どちらかと言えば良かったのかもしれない。この一件全てを見れば。

 でも、彼女にとってはどうだろうか。本当に両親を殺そうとして火をつけたのだろうか。

「話はまだある。次は彼女の両親の事についてだ」

「教えてください」

「まず、今2人は別々のところで生活してもらっている。話は聞いたって言ったしな。そういう事だ」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「君がお礼を言うのはおかしな話だよ」

 でも、ひとまず良かった。あの2人に何かがあったのは間違いない。彼女の嘆きが全て物語っていた。

 あのメイドもちょっと気になるけど……まぁいいか。

「両親からも追加で話を聞いたけど、父親の方からは感情的になりすぎて何も分からなかったし、母親の方もあまり口を開いてくれなかったよ」

「ケイトにも、もう一度話は聞いたんですか?」

「あぁ。もちろん。彼女の口から今回の件と今まであったこと全て聞いたよ。調べたところ嘘はついてなかったみたいだ」

「そうなんですね……良かったです」

 この一件。丸く納まったように見えた。
 でも、俺にはひとつ心残りがある。

「あの。ひとついいですか?」

「あぁ。君のお願いならできる限り聞くよ」

「もう一度……一回だけでいいから……ケイトに会えませんか」

 その時、スペルさんの表情が少し暗く変わった。
 そして、スペルさんは上着の内側のポケットからあるものを取りだし、俺に渡した。

「これは……」

「彼女から君に当てた手紙だ」

「今……読んでもいいですか?」

「……止めはしないよ」

 俺は恐る恐る手紙を開いた。

 バッド君へ
 まず初めに、本当にごめんなさい。私情に巻き込んでしまって本当に申し訳ない気持ちしかありません。

 この件は全部私が悪いです。私のわがままで起きた事です。こんな私の事なんて忘れて、これからの人生楽しく送って欲しいです。

 正直、バッド君に直接忘れてと伝えた時、この覚悟は出来ていました。

 だから、もう会えません。



「どうして……なんで……そんな……こと……」

 涙が止まらなかった。手に持った彼女からの手紙にポタポタと垂れる涙は、最後の言葉を濡らし続けた。

「バッド君。まだ、続きが」

「へ……?」

 そう言われ確認すると、手紙は1枚ではなく、2枚、3枚と重なっていた。

 涙でいっぱいの目を擦り、再度読み始める。



 でも、バッド君が私の家に来ちゃった時は、どうして来たのか少し謎で、見られたくないところ見られちゃって嫌だったけど、でも、それ以上にまた会えて凄く嬉しかった。

 あんな状況なのに嬉しかったなんておかしいよね。

 出会った時からバッド君は優しくて、面白くて、強くて。そんなバッド君が私と仲良くしてくれて、友達だと思ってくれて、すごく嬉しかった。

 それと同時に、こんな私なのにって気持ちが強くなってた。

 全然釣り合ってないって毎回思ってた。

 でも、助けてくれたあの日から、私はバッド君の事が毎日忘れられなかった。

 たった2週間。すごく短かったけど、私はバッド君と出会えて本当に良かったよ。

 これで最後です。最後くらい直接話したかったけど、そんな贅沢できません。

 短い間だったけど、私はすごく楽しかったし、幸せでした。

 こんな私と友達になってくれて、本当にありがとね。
                                                         
                                                     ケイト
                      



「なにが……ありがとねだよ……なぁ……」

 言葉にならない何かが、俺を苦しめた。

「まだしたいこと全然してないのに……美味しいものまた食べようって言ったのに……買い物だって行こうって……」

 病床で泣いて泣いて悔やんだ。

 今考えて見れば、デートの誘いも全部ケイトの方からだった。

 自分が小さく、ダサく見える。そして、惨めに。

「これじゃ……これじゃ……ほぼ変わらねぇじゃねぇかよ……」

 俺は今何を求めていたのか。
 好きな子がこの手からいなくなってしまうことを悔やんでいるのか。

 それとも。人生のリスタートを失敗してしまったことを悔やんでいるのか。

 ……何最低なこと考えてんだ。どう見ても好きな子いなくなっちまったからに決まってんだろ。

 かなり泣いた。10分は経っただろうか。
 涙でぐしゃぐしゃになった手紙をもう一度読み返す。

 ……何諦めてんだよ。
 ケイトはまだいるじゃねぇか。

 どれだけ時間がかかってもいい。どれだけ俺がダサくて、惨めでもいい。

「スペルさん。すいませんでした」

「いや、大丈夫だよ。少し……落ち着いたかな」

「はい。かなり落ち着きました」

「彼女の希望で面会はしない方向で進んでる。でも……なんとかして私の方から……」

「いえ。大丈夫です。彼女が望んでることですから」

 今じゃなくていい。たしかに今は会えないかもしれない。いや、会わない方がいいが正解かも。

 でも、もし、ケイトとが俺に少しでも会いたいって思ってくれてるのなら。

 まだ、人生終わったわけじゃねぇだろ。俺もケイトも。

 ケイトがもし、どんなに悪であろうと。俺は彼女の口から真相を聞くまで、俺も悪にだってなってやる。

 俺は手紙を二つ折りに戻し、サイドテーブルに置いた。

「すまない」

「なんでスペルさんが謝るんですか。手紙を渡してくれただけで充分です。3年って……言いましたよね?」

 あぁ。充分だ。充分……充分。

 この気持ちを忘れるな。バッド。また彼女と出会う時のために。

 次、俺がデートに誘う時の為に。


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