妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

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第1章

第8-2話 ケイト

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「バッド君。ちょっと入ってきてくれる」

 私はバッド君を呼んだ。きっと普段よりも暗い声になっていたと思う。

 恐る恐る入るバッド君。

「あ、あの!  け、ケイト、ち、違うんだ……」

「バッド君ってさ……私といる時……私の事どんな風に思ってるの?」

 私は何も考えずに質問をしてしまった。
 本当の私を伝えるべきなのか。でも、もしこのことを伝えて嫌われたりしたら。

「ど、どんな風にって……?」

「私はね。バッド君といるとすごく楽しいし、安心するの」

 嘘偽りのない事を言う。でも、私が伝えなきゃ行けないことはこれじゃない。

「だからさ。もし、今私が……」

 その時私は無意識に脱ごうとしていた。バッド君とやりたい。そういう考えで脱ごうとしたわけじゃなかった。

 実際、やりたいと言われたらやってしまうかもしれない。

 でも、私は初めてじゃない。これが一番バッド君に伝えなければいけないことなのに。

 だからと言って、大切な人としたことがあるかと言われたら。

 答えはノー。

 今、バッド君にしている行為は、私が押し付けられた当たり前が、本当に当たり前なのか確認したい、いや、当たり前じゃないと言って欲しかった。

 私の下着姿を見たバッド君の表情は、私の見てきた男の人の誰よりも優しく見えたから。

「待って待って!」

「今……脱いであなたを誘ったら……どうするの……?」

 止めてくれたバッド君の声はとても優しかった。

「何もしないよ」

 私の初めては呆気なく奪われてしまった。
 今でも思い出す。あの嫌な思い出を。

 そして、今も続く最悪を。

「だから、どうにかして欲しい時はちゃんと教えて欲しい」

 私は後ろから抱きしめられた。
 暖かい腕が私を包み込む。

 初めてだった。人の手がこんなにも暖かくて、優しくて、安心するものだと感じることが。

 無意識に私は腕を掴んでいた。

「バッド君って本当に……優しいんだね」

「優しいとかの問題じゃない。俺は君を大切にしたいだけだよ」

 バッド君に助けを求めていいのだろうか。
 今、バッド君に伝えていいのだろうか。

 今日じゃないかもしれない。また今度、しっかり聞いてもらおう。

 いや、しっかり聞いてもらいたい。
 ただ助けを求めてちゃダメなんだ。私も頑張らなきゃ。

「……ありがとね」

 だんだんと身体の震えが止まっていく。それに気が付いたのか、バッド君はゆっくりと手を離した。もっと抱きしめてて欲しい、そんな事なんて言えるはずもなかった。

「俺もケイトといると楽しいし安心する。あと怪我、治してくれたしな。優しい人だって思うよ。これが最初の質問の答え」

 涙をバレないように拭い、私は振り返る。

「ありがとっ!」

 もう、大丈夫。

「ま、本気で誘ってくるって言うならもっと雰囲気が大事かな~?」

 なにそれ……!  
 私は顔を隠してしまった。

「……まだ……はやい……よ?  ……ダメっ!」

「ダメって俺は何もダメなんて言わせること言ってないぞ?」

 はぁ……何やってるの私……恥ずかしい……

 私は咄嗟にまた振り返った。なんだろうこの気持ち……落ち着こう。うん。大丈夫。
 私はまたバッド君の方へと振り返った。

「まぁ……もうちょっと大人になったら。またそう言う話しましょ」

 私は誤魔化すように少し顔を隠し、これからもよろしくね、と言うことを遠回しに伝えた。

「じゃ、忘れずにな」

「ふふ、忘れちゃうかもね。ベッド座っていい?」

 私は彼のことが好きなのだろうか。まだ分からない。好きとか嫌いとかじゃなくて、なんだか一緒にいると安心出来る。

 きっと彼は優しいから。優しすぎるから。私なんかが好きになっちゃダメだってわかってる。

 でも、きっと、いつか。いや、絶対その日は来ちゃうんだろう。

 今はどちらかと言えば好きかな。

 ☆☆☆

 夕飯をご馳走になり、私が帰る前に彼がトイレに行っている間。

「今日は本当にありがとうございました。夜ご飯もすごく美味しかったです」

「いやいや、いいのよ」

「バッドも男らしくなったって事なのかなぁ」

 両親もとてもいい人たちで、バッド君もこの人たちに似て育ったのかな、とか思ったりした。

 加えて思ったのは、バッド君をとても大切にしているんだな、ということだ。

 ちゃんと親から愛を受けて育つ。それが当たり前。でも、当たり前じゃない家庭だってある。

 ……何考えてるんだろう私。もし、私がこの家に生まれて、バッド君と兄弟で……

 もうやめよう。よそはよそうちはうちだ。

 そんなこと考えいると、お母さんがこっちに近付いて来た。

「もし、何かあったら教えてちょうだいね。あと……バッドの事よろしくね」

 私は何故か溢れ出てしまいそうな涙をグッ、とこらえた。

「はい。私で良かったら任せてください」

「ふふ。頼もしいわ~。こんなに可愛い子が」

 少し話をし、私は1人玄関で待っていた。
 その時やっとバッド君が帰ってきた。

「ごめん待たせた」

「全然大丈夫だし、本当に家まで送ってくれなくて大丈夫だよ」

「じゃ、隣町にだけでも」

 頑なに送ろうとする彼に、私は申し訳ないと思い意地を張っていた。

 本当は一緒に帰りたい。送って欲しいのに。

「また、いつでも遊びに来てね~。ご馳走するから~」

「バッドが変なことしたら……教えてくれよ……」

「はい!  今日は本当にありがとうございました!」

 深く頭を下げ、家を出る。外へ出た私は無言を貫いた。

「まぁ、ケイトが嫌ならここでバイバイだな」

「……嫌じゃない」

「ん?」

「じゃ、隣町まで送ってくれる?」

「あぁ。もちろんだよ」

 やっぱりダメだった……欲望には抗えない……
 でも、バッド君も送るって言ってくれてたし?  これはまだマイナス点じゃないかな?


 帰り道の30分。とても短く感じた。
 とくに楽しい話を沢山してた訳でもない。でも、何故だろう。疲れは無い。

「それじゃ……またね」

「おう。またな」

 ここで終わっちゃう。そんなのは嫌だ。

「次は来週ね」

 私はバッド君の耳元に近付き、小さな声でそう言った。
 驚いた表情のバッド君を見た私は、勝った、と思いすぐさまUターンして、手を振った。

「じゃ!  またね!!」

 私の友達はとても優しくて、安心出来る、最高の友達なんだ。
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