10 / 31
第1章
第8-2話 ケイト
しおりを挟む
「バッド君。ちょっと入ってきてくれる」
私はバッド君を呼んだ。きっと普段よりも暗い声になっていたと思う。
恐る恐る入るバッド君。
「あ、あの! け、ケイト、ち、違うんだ……」
「バッド君ってさ……私といる時……私の事どんな風に思ってるの?」
私は何も考えずに質問をしてしまった。
本当の私を伝えるべきなのか。でも、もしこのことを伝えて嫌われたりしたら。
「ど、どんな風にって……?」
「私はね。バッド君といるとすごく楽しいし、安心するの」
嘘偽りのない事を言う。でも、私が伝えなきゃ行けないことはこれじゃない。
「だからさ。もし、今私が……」
その時私は無意識に脱ごうとしていた。バッド君とやりたい。そういう考えで脱ごうとしたわけじゃなかった。
実際、やりたいと言われたらやってしまうかもしれない。
でも、私は初めてじゃない。これが一番バッド君に伝えなければいけないことなのに。
だからと言って、大切な人としたことがあるかと言われたら。
答えはノー。
今、バッド君にしている行為は、私が押し付けられた当たり前が、本当に当たり前なのか確認したい、いや、当たり前じゃないと言って欲しかった。
私の下着姿を見たバッド君の表情は、私の見てきた男の人の誰よりも優しく見えたから。
「待って待って!」
「今……脱いであなたを誘ったら……どうするの……?」
止めてくれたバッド君の声はとても優しかった。
「何もしないよ」
私の初めては呆気なく奪われてしまった。
今でも思い出す。あの嫌な思い出を。
そして、今も続く最悪を。
「だから、どうにかして欲しい時はちゃんと教えて欲しい」
私は後ろから抱きしめられた。
暖かい腕が私を包み込む。
初めてだった。人の手がこんなにも暖かくて、優しくて、安心するものだと感じることが。
無意識に私は腕を掴んでいた。
「バッド君って本当に……優しいんだね」
「優しいとかの問題じゃない。俺は君を大切にしたいだけだよ」
バッド君に助けを求めていいのだろうか。
今、バッド君に伝えていいのだろうか。
今日じゃないかもしれない。また今度、しっかり聞いてもらおう。
いや、しっかり聞いてもらいたい。
ただ助けを求めてちゃダメなんだ。私も頑張らなきゃ。
「……ありがとね」
だんだんと身体の震えが止まっていく。それに気が付いたのか、バッド君はゆっくりと手を離した。もっと抱きしめてて欲しい、そんな事なんて言えるはずもなかった。
「俺もケイトといると楽しいし安心する。あと怪我、治してくれたしな。優しい人だって思うよ。これが最初の質問の答え」
涙をバレないように拭い、私は振り返る。
「ありがとっ!」
もう、大丈夫。
「ま、本気で誘ってくるって言うならもっと雰囲気が大事かな~?」
なにそれ……!
私は顔を隠してしまった。
「……まだ……はやい……よ? ……ダメっ!」
「ダメって俺は何もダメなんて言わせること言ってないぞ?」
はぁ……何やってるの私……恥ずかしい……
私は咄嗟にまた振り返った。なんだろうこの気持ち……落ち着こう。うん。大丈夫。
私はまたバッド君の方へと振り返った。
「まぁ……もうちょっと大人になったら。またそう言う話しましょ」
私は誤魔化すように少し顔を隠し、これからもよろしくね、と言うことを遠回しに伝えた。
「じゃ、忘れずにな」
「ふふ、忘れちゃうかもね。ベッド座っていい?」
私は彼のことが好きなのだろうか。まだ分からない。好きとか嫌いとかじゃなくて、なんだか一緒にいると安心出来る。
きっと彼は優しいから。優しすぎるから。私なんかが好きになっちゃダメだってわかってる。
でも、きっと、いつか。いや、絶対その日は来ちゃうんだろう。
今はどちらかと言えば好きかな。
☆☆☆
夕飯をご馳走になり、私が帰る前に彼がトイレに行っている間。
「今日は本当にありがとうございました。夜ご飯もすごく美味しかったです」
「いやいや、いいのよ」
「バッドも男らしくなったって事なのかなぁ」
両親もとてもいい人たちで、バッド君もこの人たちに似て育ったのかな、とか思ったりした。
加えて思ったのは、バッド君をとても大切にしているんだな、ということだ。
ちゃんと親から愛を受けて育つ。それが当たり前。でも、当たり前じゃない家庭だってある。
……何考えてるんだろう私。もし、私がこの家に生まれて、バッド君と兄弟で……
もうやめよう。よそはよそうちはうちだ。
そんなこと考えいると、お母さんがこっちに近付いて来た。
「もし、何かあったら教えてちょうだいね。あと……バッドの事よろしくね」
私は何故か溢れ出てしまいそうな涙をグッ、とこらえた。
「はい。私で良かったら任せてください」
「ふふ。頼もしいわ~。こんなに可愛い子が」
少し話をし、私は1人玄関で待っていた。
その時やっとバッド君が帰ってきた。
「ごめん待たせた」
「全然大丈夫だし、本当に家まで送ってくれなくて大丈夫だよ」
「じゃ、隣町にだけでも」
頑なに送ろうとする彼に、私は申し訳ないと思い意地を張っていた。
本当は一緒に帰りたい。送って欲しいのに。
「また、いつでも遊びに来てね~。ご馳走するから~」
「バッドが変なことしたら……教えてくれよ……」
「はい! 今日は本当にありがとうございました!」
深く頭を下げ、家を出る。外へ出た私は無言を貫いた。
「まぁ、ケイトが嫌ならここでバイバイだな」
「……嫌じゃない」
「ん?」
「じゃ、隣町まで送ってくれる?」
「あぁ。もちろんだよ」
やっぱりダメだった……欲望には抗えない……
でも、バッド君も送るって言ってくれてたし? これはまだマイナス点じゃないかな?
帰り道の30分。とても短く感じた。
とくに楽しい話を沢山してた訳でもない。でも、何故だろう。疲れは無い。
「それじゃ……またね」
「おう。またな」
ここで終わっちゃう。そんなのは嫌だ。
「次は来週ね」
私はバッド君の耳元に近付き、小さな声でそう言った。
驚いた表情のバッド君を見た私は、勝った、と思いすぐさまUターンして、手を振った。
「じゃ! またね!!」
私の友達はとても優しくて、安心出来る、最高の友達なんだ。
私はバッド君を呼んだ。きっと普段よりも暗い声になっていたと思う。
恐る恐る入るバッド君。
「あ、あの! け、ケイト、ち、違うんだ……」
「バッド君ってさ……私といる時……私の事どんな風に思ってるの?」
私は何も考えずに質問をしてしまった。
本当の私を伝えるべきなのか。でも、もしこのことを伝えて嫌われたりしたら。
「ど、どんな風にって……?」
「私はね。バッド君といるとすごく楽しいし、安心するの」
嘘偽りのない事を言う。でも、私が伝えなきゃ行けないことはこれじゃない。
「だからさ。もし、今私が……」
その時私は無意識に脱ごうとしていた。バッド君とやりたい。そういう考えで脱ごうとしたわけじゃなかった。
実際、やりたいと言われたらやってしまうかもしれない。
でも、私は初めてじゃない。これが一番バッド君に伝えなければいけないことなのに。
だからと言って、大切な人としたことがあるかと言われたら。
答えはノー。
今、バッド君にしている行為は、私が押し付けられた当たり前が、本当に当たり前なのか確認したい、いや、当たり前じゃないと言って欲しかった。
私の下着姿を見たバッド君の表情は、私の見てきた男の人の誰よりも優しく見えたから。
「待って待って!」
「今……脱いであなたを誘ったら……どうするの……?」
止めてくれたバッド君の声はとても優しかった。
「何もしないよ」
私の初めては呆気なく奪われてしまった。
今でも思い出す。あの嫌な思い出を。
そして、今も続く最悪を。
「だから、どうにかして欲しい時はちゃんと教えて欲しい」
私は後ろから抱きしめられた。
暖かい腕が私を包み込む。
初めてだった。人の手がこんなにも暖かくて、優しくて、安心するものだと感じることが。
無意識に私は腕を掴んでいた。
「バッド君って本当に……優しいんだね」
「優しいとかの問題じゃない。俺は君を大切にしたいだけだよ」
バッド君に助けを求めていいのだろうか。
今、バッド君に伝えていいのだろうか。
今日じゃないかもしれない。また今度、しっかり聞いてもらおう。
いや、しっかり聞いてもらいたい。
ただ助けを求めてちゃダメなんだ。私も頑張らなきゃ。
「……ありがとね」
だんだんと身体の震えが止まっていく。それに気が付いたのか、バッド君はゆっくりと手を離した。もっと抱きしめてて欲しい、そんな事なんて言えるはずもなかった。
「俺もケイトといると楽しいし安心する。あと怪我、治してくれたしな。優しい人だって思うよ。これが最初の質問の答え」
涙をバレないように拭い、私は振り返る。
「ありがとっ!」
もう、大丈夫。
「ま、本気で誘ってくるって言うならもっと雰囲気が大事かな~?」
なにそれ……!
私は顔を隠してしまった。
「……まだ……はやい……よ? ……ダメっ!」
「ダメって俺は何もダメなんて言わせること言ってないぞ?」
はぁ……何やってるの私……恥ずかしい……
私は咄嗟にまた振り返った。なんだろうこの気持ち……落ち着こう。うん。大丈夫。
私はまたバッド君の方へと振り返った。
「まぁ……もうちょっと大人になったら。またそう言う話しましょ」
私は誤魔化すように少し顔を隠し、これからもよろしくね、と言うことを遠回しに伝えた。
「じゃ、忘れずにな」
「ふふ、忘れちゃうかもね。ベッド座っていい?」
私は彼のことが好きなのだろうか。まだ分からない。好きとか嫌いとかじゃなくて、なんだか一緒にいると安心出来る。
きっと彼は優しいから。優しすぎるから。私なんかが好きになっちゃダメだってわかってる。
でも、きっと、いつか。いや、絶対その日は来ちゃうんだろう。
今はどちらかと言えば好きかな。
☆☆☆
夕飯をご馳走になり、私が帰る前に彼がトイレに行っている間。
「今日は本当にありがとうございました。夜ご飯もすごく美味しかったです」
「いやいや、いいのよ」
「バッドも男らしくなったって事なのかなぁ」
両親もとてもいい人たちで、バッド君もこの人たちに似て育ったのかな、とか思ったりした。
加えて思ったのは、バッド君をとても大切にしているんだな、ということだ。
ちゃんと親から愛を受けて育つ。それが当たり前。でも、当たり前じゃない家庭だってある。
……何考えてるんだろう私。もし、私がこの家に生まれて、バッド君と兄弟で……
もうやめよう。よそはよそうちはうちだ。
そんなこと考えいると、お母さんがこっちに近付いて来た。
「もし、何かあったら教えてちょうだいね。あと……バッドの事よろしくね」
私は何故か溢れ出てしまいそうな涙をグッ、とこらえた。
「はい。私で良かったら任せてください」
「ふふ。頼もしいわ~。こんなに可愛い子が」
少し話をし、私は1人玄関で待っていた。
その時やっとバッド君が帰ってきた。
「ごめん待たせた」
「全然大丈夫だし、本当に家まで送ってくれなくて大丈夫だよ」
「じゃ、隣町にだけでも」
頑なに送ろうとする彼に、私は申し訳ないと思い意地を張っていた。
本当は一緒に帰りたい。送って欲しいのに。
「また、いつでも遊びに来てね~。ご馳走するから~」
「バッドが変なことしたら……教えてくれよ……」
「はい! 今日は本当にありがとうございました!」
深く頭を下げ、家を出る。外へ出た私は無言を貫いた。
「まぁ、ケイトが嫌ならここでバイバイだな」
「……嫌じゃない」
「ん?」
「じゃ、隣町まで送ってくれる?」
「あぁ。もちろんだよ」
やっぱりダメだった……欲望には抗えない……
でも、バッド君も送るって言ってくれてたし? これはまだマイナス点じゃないかな?
帰り道の30分。とても短く感じた。
とくに楽しい話を沢山してた訳でもない。でも、何故だろう。疲れは無い。
「それじゃ……またね」
「おう。またな」
ここで終わっちゃう。そんなのは嫌だ。
「次は来週ね」
私はバッド君の耳元に近付き、小さな声でそう言った。
驚いた表情のバッド君を見た私は、勝った、と思いすぐさまUターンして、手を振った。
「じゃ! またね!!」
私の友達はとても優しくて、安心出来る、最高の友達なんだ。
20
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる