妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

文字の大きさ
14 / 31
第1章

第12話 知りたい

しおりを挟む
 目の前にそびえ立つ宮殿とケイトの身分の真実を知り驚きを隠せないバッドである。

 家に沢山人がいるってそういう事だったのか……

「そ、それはちょっと驚きだな……」

「だよね。バッド君ごめんね」

「あ、あ、いや、謝らなくていいんだよ!」

 ケイトは宮殿の方を見つめる。その横顔からは少し寂しそうな雰囲気を感じ取った。
 正直何をすればいいかわからなくなっていた俺に、ケイトは質問をなげかけた。

「私の身分知っても……仲良くしてくれる?」

 寂しそうなケイトは宮殿を見つめながらそう聞いた。

 なんだ。そんなの当たり前じゃないか。

「あぁ。もちろんだよ」

「よかった。ありがとね」

 やっとこっちを見てくれたケイト。その表情は安堵に満ち溢れていた。

「じゃあ……俺はあのお家にお邪魔していいってことか?」

「そうだよ!  さ、行きましょ!」

 俺はケイトに手を引かれ、痛む身体にムチを打ち小走りでケイトの住む宮殿へと向かった。

 ☆☆☆

 街のメインストリートを抜け、階段を上る。するとそこには大きな門とその先に遠くからでも見えた宮殿が現れた。

 ケイトは門の鍵穴付近へと向かい、手をかざした。その瞬間、門には魔力が流れ、ゴゴゴっと門が開いた。

 そこからいくつかの噴水を抜けた先に小さなお城が待ち受けている。
 ……やっと着いた。こりゃ次来るのしんどいな……元気な時に来よう……

「じゃあちょっとここで待ってて。お母さんに聞いてくるから」

「あぁ。そこのベンチ借りてもいいか?」

「うん。疲れちゃったよねごめん。すぐ聞いてくる!」

 そう言ってケイトは玄関を開け、中へと入っていた。それを見届けた俺は数メートル先にあったベンチに腰かけ、一時休息を取った。

 数分が経ち、玄関がガチャっと開き中からケイトがでてきた。俺の目の前まで小走りで来るケイト。まるで小動物みたいで可愛い。

「お待たせバッド!」

 元気よくそう言った彼女は両手で大きな丸を頭の上に作り、「行こっ!」と言って俺を無理やり立ち上がらせた。

 俺は疲れた素振りなんて見せず、ケイトに引かれるがままについていった。

 ☆☆☆

「お邪魔します……って広ぉ……」

 玄関を開けて直ぐ目の前に大きな螺旋階段があり、左右にはいくつもの部屋があった。

「2階にリビングがあってそこにお母さんが待ってるから挨拶しに行こ!」

「そ、そうだね。あ、挨拶かぁ……」

「まぁ緊張しないで!  いつもお母さんにはバッド君のことお話してるから大丈夫だよ!」

「うん。頑張る」

 こうして俺とケイトは螺旋階段を昇って行く。そしてその途中の事だ。目の前から白を基調としたメイド服を着た女性が降りてくる。見た目はケイトとは正反対というのがわかりやすい。黒髪ショートである。

 まぁ分かりやすく言えば可愛いよって話だ。

「こ、こんにちは……」

「ちっ」

「え?  ちょ、え?」

 すれ違う瞬間、明らかに舌打ちをされた。更にケイトはそれを無視する。こんな状況に耐えられるわけが無い。

「大丈夫……なの?  めちゃくちゃ切れてたけど……俺来て大丈夫だった?」

 螺旋階段を登りながら小さな声で質問をする。

「うん。大丈夫ごめんね。私あのメイド嫌いだからあっちも私の事嫌ってるんだよ」

「あぁ……そうなんだ。まぁ、なんだろ。忘れるわ」

「うん、ありがたいかも」

 舌打ち女とすれ違ってからケイトの表情が重くなる。

「……あほ」

 俺は螺旋階段を登りった位でケイトの頭に弱めのチョップをした。

「あ、あほってなに!?」

「……ははは!  そーゆー顔でいいんだよケイトは」

「そーゆー顔……?」

「あぁ。そっちの方がずっと可愛い」

 勢いで可愛いとか言ってしまった。でも、後悔はない。欲を言えば……笑ってる顔がいちばんかわいいんだけどな。

「か、可愛いって言われても……あ、ありがとう……?」

 嘘です。照れてる顔が1番です。

「ま、まぁ……なんだ。あんまり暗い顔すんなよーってこと。思い詰めるのも良くないし、嫌なことあるなら全部吐き出してねって」

「……ありがとね。バッド君!」

 その瞬間、俺の中の時が止まる。

 急に抱きついてくるケイトに驚きを隠せなかった。俺の胸に顔を押し付け離さない彼女の表情はどうなっているのだろうか。

「ちょ、危ないって!  階段前だから!」

「危なく……ない!」

 少し声が震えているようにも感じられるケイトの声。気のせいかとも思える。

 でも、やっぱり引っかかること前の俺の家でのこと。

「俺さ……やっぱりケイトの全部知りたいや」

 抱きつくケイトの頭にポンッ、と手を乗せ聞いてしまった。これが正解なのかは分からない。でも、これが正解であって欲しかったんだ。

 しばらく沈黙を続けるケイト。何も言わずに待つ俺。

「……私もバッド君には伝えたいって思ってる」

 顔を隠しながら言葉を発したケイトの声はさっきよりも震えていた。

「……でもまた今度」

「そっか。分かった。俺はずっと待ってるから。ケイトが俺の事嫌いーってなるまで」

「嫌いになんてならないよ!」

 反射的に隠していた顔を露わにして訴える彼女と目が合う。

「……!」

 その途端ケイトは俺の身体から離れ、後ろを向いてしまう。

「バッド君には私しかいないように私にもバッド君しかいないんだよ」

「そうだよな。ぼっち同士仲良くしようぜ」

「うん!  ぼっちが2人集まればぼっちじゃないもんねっ!」

 明るく変わった声色。表情は見えない。何度目だろうか、この感情は。

 見たい。聞きたい。知りたい。

 前世に足りなかった事はこれなのだろうか。未来が変わっている今、成すべきことは彼女の秘密を知ることなのだろうか。

 でも、ただ今は。彼女を手放したくなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

処理中です...