妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

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第1章

第16話 やる気

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 ケイトと会ってから3日後のことだ。

「ちょ、おい!  集中しろ!  魔力流しすぎだ!」

「あっ!  ごめんなさい」

 全く集中できない。修行に身が入らない。やる気が出ない……

 あーーー!  だってさ!?  よく考えてみてよ!!

 私のこと忘れて?  無理無理無理。無理だっつーの!!

 しかもあの言い方、絶対来週こないじゃん!!
 俺には分かるよ!?!?

 ……前世の俺の知らなかった事実。彼女にはこのことがどれほど重たい事なのだろうか。

「なんだ?  ココ最近ずっと浮かない顔してるけど……好きな子に振られたか?」

「ち、違いますよ!」

「図星だな」

「本当ですって!  振られては!  ないですから!」

 俺はストローグさんに細かく事情を説明した。
 気になってる子が小さな国の領主の娘であったこと、忘れてと宣言されたこと、そして、領主である父に対して恐怖していること。

「そうかぁ……まぁ、そーゆー事あんま分かんねぇけど、モヤモヤして心配するくらいなら俺は約束前に会いに行っちまうけどな」

「それって迷惑じゃないですかね……」

「そんなもん考えてちゃキリがねぇだろ?  男ならもっと自信持て」

 パン、っと俺の背中を叩くストローグさん。

「確かに。じゃあ……今日行ってみます」

「それはだめだ」

「なんでですか!?」

「今日明日で魔力の使い方マスターしたら行ってもいいぞ?  やる気になったか?」

 確かに今、俺はケイトのことが心配だ。ストローグさんの話を聞いて、納得してしまった。

 今、俺はケイトの所へ向かいたい。できることは全部やった方がいい。

 次、また戻ってこれるとは限らないのだから。

 でも、修行を疎かにしていい理由にはならない。ストローグさんにも失礼だ。

「分かりました!  やってみせます!  男ですから!」

 翌日。

「お前……すげぇな……ほんとに出来ちまうのかよ……」

「どんなもんだい!」

 俺は魔力の出し入れをマスターした。何故だろう。あっさり出来てしまった。

 今までやる気がなかったのだろうか……

「もっと初めっからやる気出しとけよ……」

「あはは……」

「まぁいい。川での修行は今日で終わりだ。明日の午前中から応用ってことで木刀に流してもらう。流動性の無いものにってことだな」

「え……てことはまだケイトの所に行っちゃダメってことですか……?」

「うるせぇ。午後行きゃいいだろ」

「ストローグさん素敵!!」

 こうして俺は、修行の第1ステップをクリアしたのであった。

 ☆☆☆

「むにゃむにゃ……はっ!」

 今何時だ!?

 11時43分……終わった。寝坊だ。大遅刻だ。

「やばいやばいやばい!!  今日こそ寝坊しちゃダメだって言うのに!!」

 流石に疲れすぎていたのか、珍しく寝坊してしまった。異例の11時間睡眠。寝すぎて頭が痛い。

 とか考えてる暇は無いバカバッド。

「急げ急げ!!!」

 速攻着替え、寝癖なんて治す訳なく、歯磨きだけ済まし、ストローグさんの元へと向かった。

 ☆☆☆

「まぁ、そんな事かとは思ってたけど……寝すぎだアホ」

「すいません……」

 木刀を投げつけられた俺は謝ることしか出来なかった。

「とりあえず基礎だけは教えるから。その後は好きにしろ」

「ありがとうございます……」

「あぁもう!  シャキッとしろ!」

「痛っ!!」

 木刀で頭を打たれた俺は、頭を抱えながらストローグさんの話を聞いた。

「まず、やることは一緒だ。手に魔力を集中させて流す。そん時にもう1個意識するのは剣先だ。そこに向かって流すようにする。やってみろ」

 俺は木刀を拾い、手に魔力を集中させた。
 剣先剣先剣先……剣先?

「ビビるほど流れないんですけど……」

「あはははは!  そりゃそうだ。初めてで出来るわけないからな」

「なら笑わないでくださいよ!」

「今日は、そうだな……人差し指1本分くらい流せれば合格だ」

 こうして俺の第2の修行が始まった。

 初めはなかなか上手く流せなかったが、ストローグさんの手本を見たり、コツを聞いたりしてだんだん掴めてきた。

「ストローグさん!  見て見て……って遅いよ!」

「あ、あぁ、すまんすまん。出来てたのか?」

「第一関節分位は行きました!」

「不合格」

「なんで!?」

 昼から始まった修行が終わったのは日が落ちる直前だった。

「ダメだぁ……」

「仕方ねぇから今日はここまでだな。今から俺はお前の行動は全部見なかったことにする」

「え? あ、は、はい!」

 俺はストローグさんに小さくお礼を言い、木刀を返し、走り出した。

「今から行っても何も無いかもだけど……」

 できることはやる。そう決めたんだ。

 疲れた身体にムチを打ち、ケイトのいる街まで走った。

「この森をぬけたら宮殿が見えたはず……って、……え?」

 森を抜け、宮殿を確認し、街へと向かおうとしたその時だった。

 俺の知っている宮殿は純白で、美しい建物だ。

 でも、今目の前に写っているその宮殿は、真っ赤に燃え、今にも崩れ落ちそうな風貌をしていた。

 ……え?  どうして?  どうなってんだ?

 真っ直ぐ、宮殿へと続く石造りの道には、悲鳴を上げ、逃げていく人々でごったがえしていた。

 足が止まった。て言うか動かなかった。衝撃的な光景に目を疑った。

「……何してんだよ俺!」

 俺はすぐさま走り出した。メインストリートまで着くと、俺以外の人達はみんな逆方向へと走っていく。

 そんな人混みをかき分け、ジリジリと上がる気温に耐えながら、宮殿の前へとたどり着いた。

 鍵のかかっていない門を押し開け、敷地内へとはいる。

 石造りの階段をかけ登ると、燃え上がっている宮殿が目の前に現れた。

 そして、その前に立っている人影がひとつあった。

 その正体は一瞬で分かった。

「ケイト!!」

 俺は叫んだ。その正体の名前を。
 彼女は振り向く。俺は走る。そして、泣いている彼女の肩を掴み、もう一度口を開いた。

「これ……!  どういう事だよ……怪我は!?」

 そして、やっと彼女は口を開いた。

「どうして……来ちゃったの?」

 涙を浮かべながら、彼女はそう言い放った。
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