妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠

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第1章

第17話 救助

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「どうして……来ちゃったの?」

 その言葉に俺は驚愕した。あたかも来て欲しくなかったかのように。

 見てはいけないものを見せてしまったかのように。

「どうしてって……そんなの後だよ!  中に人は!?  お母さんは!?」

「お母さん以外……いる……」

 泣き崩れ、見たこともない表情をした彼女を見て、俺は何をすればいいか分からなかった。

 思考が追いつかない。何故彼女だけ外にいるのか。

 でも、身体は勝手に動いていた。目的無しに燃え盛る炎の元へと走っていく。

 熱い熱い……目も開けてられねぇ……くっそ!

 俺は玄関のドアを蹴り飛ばした。燃えていたおかげか、軽く吹っ飛び、中の様子が見えた。

 家の中も炎でいっぱいだった。

「勢いで来ちまったけど……こんなとこ入れねえ……」

 燃え広がる炎を前に立ちすくむ俺。何のためにこの中へとはいるのか。そんなの考える暇もなかった。

 ただの偽善かもしれない。いや、かもじゃない。これは偽善だ。この中にいる人を助ける。それがケイトにとって良いことなのか悪いことなのかは関係ない。

 もし、ケイトがこの火を起こしたというのなら。死人が出てしまったら。

 身体は勝手に動いていた。

「……くっそ!  どうすればどうすれば……!  ワンチャン試してみるか……!」

 身体中に神経を集中させる。血液の流れに。
 俺は流れるところになら魔力を流せる。止めることだってできるようになった。だったら……

「身体中に魔力を……流せ!」

 この行動は普通の人なら恐らくすぐ動けなくなるだろう。

 でも、俺ならできる。俺の魔力量なら。唯一人より優れているこの点で。

「これならまだ熱いけど……耐えられる!」

 俺は家の中へと走って入っていった。ポケットから、いつから入っているか分からないハンカチを取りだし口を抑え、1度訪れたお城の中へと入った。

 どこに誰がいるのかは分からない。とりあえず、入ってすぐの螺旋階段は登らず、1階の左側の部屋を手当り次第探索し始めた。

 手前から扉を壊し中へとはいる。それを2回3回と繰り返す。そして、3つ目の部屋。

「……うわっ!  人……なのか?」

 なにかに躓き、転びそうになった身体を何とか立て直した。

 振り返り、床を見てみると、ほぼ原型をとどめてない人が倒れていた。

 途端に気分が悪くなる。

 これ……見たことある服……もしかして……

 辛うじて残った服の特徴。白と黒。恐らく……メイドの服だ。この死体はあの舌打ちメイドかラストラさんなのだろうか。

 この調子じゃ恐らく誰も生きていられていない。諦めかけていたその時だった。

 ……!

 魔力だ。魔力を感じる。多分1階から一つ……2階にも一つだ。

 これが人の魔力なら……行くしかないだろ。

「……もし、本当にもし、これがケイトのせいだって言うなら……」

 被害は最小限にだ。これが俺に出来る最大の助け。まだ信じていない。でも、本当に彼女だとしたら。

 罪は償わなければいけない。今俺のやってる行為はただの私情だ。この街の人からしたら反逆者だ。

 でも……でも。俺は信じるって決めたんだ。

「あっちぃなぁーー!  こんにゃろ!」

 俺は1階の魔力を感じる部屋へと走って行った。

 その部屋の前まで着くと、やけにこの部屋のドアだけ綺麗に保たれていた。

 ドアに……魔力?

 ドアには魔力が流れており、結界のようになっていた。さっき感じた魔力はこの結界魔法だろう。かなりの魔力量だ。
 恐らく、内側から開けられないようになっている。

 俺は急いでドアを開けた。

「お、おい!  助けが来たぞ!」

「……た!  助けてください!」

 そこに居たのは見覚えのある男と女であった。

 その男はまさにケイトのお父さんであった。
 でも、その姿に目を疑った。隣にいるのはライトさんではなく、裸の舌打ちメイドであった。

 部屋の中には火の手はまだわずかであり、原型もまだ留めている。

 恐らく、結界のおかげで中まで火が回っていないのだろう。
 内側から開けられないって言うのは少し疑問だ。

 お父さんは上半身裸。女は全裸で、俺が入ってきた途端、毛布をくるみ、身体を隠した。

「……怪我はないですか」

「あぁ!  ないから早く助けてくれ! 火傷で体が痛いんだ!」

 俺は溢れ出す感情を抑え、ハンカチをくわえ、2人を抱えて部屋を出た。

 そこから1番近い窓を突き破り、外へと出た。そこから、ケイトの方へと走り、抱えていた2人を投げ捨てるように少し荒く手放した。

「ケイト。もう少し待ってて」

 ケイトは小さく震えながら首を縦に振った。

 俺はまた走り出す。さっき感じたもうひとつの魔力の所へと。

 階段を駆け上がり、その部屋までたどり着いた。

 ここも魔力の結界が……誰がこんなこと……

 急いでドアを開ける。するとそこには一人の女性がベッドの上に座っていた。その女性は紛れもなく、ケイトの母親、ライトさんであった。

 ケイトはさっきお母さん以外いると言っていた。でも、俺の目の前にはライトさんがいる。

 そんなライトさんの様子は、焦りでなく、ただ、死を待つだけの装いだった。

「大丈夫ですか!?」

「……あら、バッド君……助けに来たなら私はいいから……他に行ってちょうだい……」

 その様子は以前会ったライトさんとは全く違う雰囲気だった。

「恐らく、ライトさん以外助けました。……助けられなかった命もあります」

「……そう」

 ベッドへと駆け寄り、俺は抱えようとした。

「本当に私はいいから」

「良くないです!  早く!」

 俺を拒絶するライトさんは本当に生きる気力を無くしていた。まさに、寝取られた時の俺のようだった。

「どうして……そんなに助けようとするの?  ……私はいいから」

「じゃあ……!  これだけ教えてください!」

 さっきの部屋と同じ様に、結界のおかげで、まだ火の手は大きくは広がっていなかった。

 そのため部屋の原型もまだあった。
 俺の目線の先には1つ、額縁があり、そこに入っていた写真に写っていた人を見て、ある質問を決心した。

「前会った時のライトさんの笑顔は本物だったはずです!  あなたには……1人でも大切な人がいますか!!」

「……!」

 その質問を聞いた瞬間、ライトさんは俺がさっき見た写真の方へと目を向ける。

 その写真に写っているのは、紛れもなく、このライトさんとケイトのツーショットであった。まだ幼いケイトが両手でピースを作り、それを後ろから抱きしめるライトさん。2人の顔はとても楽しそうで……幸せそうだ。

 写真を見て、ライトさんは涙を流す。
 そして、小さく頷いた。

「だったら今回くらい死ぬこと諦めてください!!!」

 こうして俺はライトさんを担ぎ、部屋を出た。

「あっつ!!」

 魔力を纏っていても耐えられないくらいに火の手は回っていた。

 階段を降りてる暇は無い。こうなったら。

「おーーりゃーーー!」

 俺は窓を突き破り、2階から飛び降りた。

 足に魔力足に魔力足に魔力!!

 ドンっ!!!

「痛ってぇ……けど行ける!」

 着地に成功した俺はもう一度、ケイトの元へと向かった。

 ライトさんは気を失っており、俺は優しく安全な石の道へと寝転ばせた。

 今ここにいるのは、俺、ケイト、ケイトのお父さん、裸の女、そして、ライトさんだ。

 パチンっ!

「おい!  お前がやったのかと聞いているんだ!」

 戻ってきた時に起きていたのは、家族喧嘩だった。

「……」

 ビンタされても何も言わないケイトが俺に気が付く。

「どうして……お母さんが……?」

 驚きを見せたケイトにまだ怒りをぶつけようとする彼女のお父さん。

「一旦……待ってくださいお父さん」

「君には関係ないだろ!  これは家族の話だ!」

「俺はあなたを助けた!  その事くらいは分かってください!」

「その話は後だ!  今は違う話を……」

「だったら尚更静かにしろよ!!!!」

「……!」

 何が尚更だ。今更、家族ぶるなよ……俺。
 俺の叫びで、場が静まりかえる。

「消防です!  怪我人は!」

「あっ……この3人だけです。みんな軽傷なんで。後はもう……」

「……分かりました。先に消火活動を行います」

 複数人の消防隊員が魔法で水を発生させ、消火活動を始めた。

 俺は会話を再開させる。

「ケイト。お母さんは無事だよ」

「良かった……」

「お前……!」

 また話しを遮ろうとしたお父さんに睨みを聞かせ、最後にもうひとつ質問をした。

「……この火事。ケイトがやったのかな」

「……」

 長い沈黙が続く。そして、やっとケイトが口を開いた。

「ごめんなさい……私が……私がやりました……」

 考えうる中で一番最悪で、一番可能性の高かった回答が返ってきてしまった。
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