地獄▶︎転生 もう地獄を見たくない俺はこっちの世界で最強を目指します

橋本 悠

文字の大きさ
21 / 29
第2章 少年期 剣術・魔術成長編

第18話 中央都市ケントルム

しおりを挟む
 リューネの誕生日パーティーから数日が経ち今、俺とリューネはお父さんの部屋にいる。

「なるほどなぁ。確かにそれは良いかもな」

「だからお父さん!  明日俺とリューネをケントルムに連れて行って!」

「私からもお願いします!」

 俺たちが今何をお願いしているのか。それは、

「エイミーの二十歳のお祝いをしたいんだ!」

 そう。明後日でエイミーは二十歳になる。
 この世界では女性は二十歳で立派な大人と認められる。
 それを今まで世話になった恩返しとしてお祝いをしたかったのだ。

 リューネの次はエイミー。彼女にはしっかりお祝いをしたい。プレゼントもだ。

「まぁ母さんもお祝いしようとしてたからいいと思うが、グラリスとリューネは何してあげようと思ってるんだ?」

「大きな花束とか買ってあげようかなと」

「お金は?」

「僕たちの貯めてたお小遣いからだします」

 俺はポッケから銀硬貨4枚、リューネは銀硬貨3枚を取り出した。

 この世界での銀硬貨の価値で言うと、現実世界で言う1000円位の価値だろう。
 銅、銀、金硬貨があって、それぞれ、100円、1000円、10000円と言ったところか。

「僕とリューネはほとんど家の敷地から出ないので、お手伝いとかでもらったお小遣いを消費するタイミングがないので結構溜まっちゃいました」

 俺はニコニコしながらお父さんにそう伝えた。

「グラディウスさん。お願いします」

「……よし。パーティメンバーには明日は急遽休みだと伝えておくよ。くれぐれも俺から離れちゃダメだからな!」

「「ありがとう!」」

 こうして俺たちは明日、エイミーへ送る為の花束を買いに行くこととなった。

 ──────

 ここは中央都市ケントルム。
 中央大陸のど真ん中に位置し、この世界最大の都市だ。

「うわ~すっげぇ~!」

 どこを見ても人!  人!  人!
 久しぶりにこんなに人を見た気がする。

 家を出る時、「ええええ!  グラリス様たちケントルムに行くんですか!?   私も連れてってくださいよ~」と駄々をこねたエイミーをなだめるのにかなり時間がかかったが、まぁなんとか、祝うってことをバレずに家を出ることに成功した。

 建物やお店は全部白っぽいレンガ造りになっていて、ヨーロッパとかそっちの方をイメージさせられる。

「二人とも迷子になるなよ」

 お父さんは俺とリューネと手を繋ぎ、大通りを歩く。

「ケントルムはこんなに人がいるのね……」

「いやぁ、俺は毎日ここに来てるけど今日はいつもより少ない方だな」

「え、これで少ないんですか?」

 家族みたいな話を、いや、俺たちは家族なんだ。
 なんだかんだこうやってお父さんと出かけるのも初めてだ。
 普通に嬉しいし、楽しい。

 やっぱり俺はお父さんが大好きなんだ。

「確か、そこがお花屋さんだな。ほら俺は待ってるから二人で選んでこい」

 そう言ってお父さんは俺たちの背中をポンと、押し出した。

「いらっしゃい。どんなのが欲しいんだい?」

 お店の中に入ると、ブワッと、花の匂いに包まれ、壁の至る所に花が飾られていた。

 お店の人はおじさん、いや、おじいちゃんと言った感じの優しそうな人だった。

「えっと……銀硬貨7枚で大きくて綺麗な花束を作りたいんですけど……」

 俺がそう伝えた瞬間だった。

 ドォォォォオン!!

 その音に合わせて店内が揺れた。

「な、なんじゃね!?」

「なんだ今の音!」

「グラリス!  見に行くわよ!」

 俺とリューネはすぐにドアを開け外に出た。
 すると目の前には───

「な、なんで安全区域なのにモンスターがいるんだよ!」

 怯える街の人たちの中にいたのは、四足歩行のモンスターだった。
 四足歩行と言っても犬や猫みたいに可愛いもんじゃない。

「な、何だこの大きさ」

 高さは俺の三倍はあるだろう。見上げてしまうくらいだった。

「おい!  二人とも危ねぇぞ!」

 お父さんが俺たちに怒鳴る。
 そこで俺たちは初めてお父さんがこのモンスターと戦っていることに気が付いた。

「お、お父さん!」

 俺が叫んだ。その時だった。

「グラァァァァア!!」

 モンスターが俺とリューネ目掛けて突進してきた。

「きゃぁぁあ!」

 俺はすかさずリューネを【風属性】の魔法で吹き飛ばし、俺も反対方向に飛んで逃げた。

 ドーーン!

 モンスターはさっき俺たちがいたお花屋さんに激突した。
 激突した店の壁はまるで豆腐のように崩れ落ちた。

 中からおじいちゃんの「なんでーーーー!!」と言う悲鳴が聞こえた気がしたがそれどころじゃ無かった。

 ……危ねぇ!  こんなのに当たったら命なんてないぞ……

 俺はお父さんの前に尻もちを着いて着地をした。

「お父さん……」と、呼ぼうとした時、お父さんは俺の襟を掴んでリューネの元に投げ飛ばした。

「えええ!  なんで投げるの!」

「俺はお前を信じてる!  だから絶対リューネを危険な目に合わせんなよ!!」

 そう言ってお父さんはモンスターに向かって【火属性】の魔法を放つ。そして、腰につけていた魔剣を右手に構えた。

 あーもう!  分かったよ!  リューネは俺が守るよ!!
 俺はリューネのいるところに着地をした……が、

「リューネ!  ……リューネ?   どこ行ったんだ!?」

 そこにいるはずのリューネは既にどこかに消えてしまっていた。

 やばい!  どこ行ったんだ!?  リューネが一人で逃げたのか!?  いや、そんなことはありえないはず。 探せ……探せ……!

 その時、俺の中でビビっと来るものがあった。

「……リューネの魔力だ!」

 リューネの魔力を感じた方に目を向ける。
 俺の目に映ったのは、モンスターの騒ぎでごった返している遠く離れたところで、男二人組に捕まっているリューネが居た。

「……なんでこんな時に!!」

 俺はそれを見た瞬間足元に巨大な風を起こし、全力で追いかけた。
 片方の男がリューネを担ぎ、もう一人が道を選び移動している。

 何度も曲がり逃げる二人の男はある裏路地に入っていった。
 その路地はかなり狭く、薄暗い目立たない場所だった。

 その路地に入ると、目の前はすぐに行き止まり。リューネは縄で腕を縛られ拘束されている。

 その前に二人の男が立ちはだかっていた。

「やっぱりつけられてたか」

「でも、こっちもこんなガキだぜ?」

「いやでも見てみろよあの魔力の量。きっとこっちも捕まえればあの方喜ぶぜ?」

 二人はニヤニヤながら何か話していた。

 俺がつけていたことがバレていたのか?

 さっきまで大丈夫だった身体が急に震えだす。
 ───恐怖だ。

 俺はリューネを守らなきゃ行けないんだ。
 ここで……ここで引いたらダメなんだ!

 でも……怖い。あの二人に勝てるのか?
 身体はゴツイしでかい。俺の魔力量だってお見通しだ。

 どうしようどうしよう……どうすればいいんだ……

 俺がグダグダ考えているうちに二人の男がこっちに近付いてくる。

 やばい……どうしよう……身体が固まって……動けない!
 動け動け動け!  馬鹿野郎!!  グラリス・バルコット!!

 その時だった───

「た、す……けて!  グラ……リス!」

 リューネの声だった。リューネが俺に助けを求めていた。
 そんなこと今まであるはずがなかった。

 ……何怖がってんだよ、俺は。

 今まで俺はなんのために練習してきたんだ。
 大丈夫。大丈夫だ。俺なら勝てる。

「……リューネ遅れてすまん!  今……助ける!」

 俺は目にも止まらぬ速さで二人の男に近付いた。

「……!  はっや!」

 一瞬にして二人の前までたどり着いた俺は、二人の間に巨大な竜巻を起こし、道を開けた。

 空いた道をブウォンっと、大きな音を立てて通る。

 木でできた箱がつまれている場所に座らされているリューネの元に初めに向かい、リューネの安全を確保しようとした。

「大丈夫か?  リューネ」

 そう聞いたが少し様子がおかしかった。
 リューネが縛られているのは手だけであった。

 口も足も自由に使うことが出来る状況で正直、この二人にリューネが捕まることなんてないと思った。
 恐らくリューネ一人でも勝てそうな相手だと俺は判断してしまっていた。

「き……つ……」

 リューネが苦しそうに何かを伝えようとしていた。

「どうした?  リューネ」

「き……つけ……て」

 きつけて?  ……!

 

「……!!」

 気が付いた時には一人の男が俺の真後ろにまで近付いており、彼の右手にはなにか粉のようなものが握られていた。

「……ガキ二人にこれを使うとは思わなかったぜ」

 その粉をかけられた俺はみるみるうちに身体の力が抜けていき、立つことすらも出来無くなっていた。

「な……んだ……これ……」

「ははははは!   教えるかばーか」

 男が俺に向かって腕を振り下ろした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...