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第1章 エリック・ブラッドストーンの目覚め
1-7 悪役令嬢という運命
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翌日。
「ヘンリー、モリス」
「はいっ!」
「何でしょう、エリック様」
俺は手始めに、取り巻きの二人から情報を得てみることにした。
授業開始前の教室。教科書や筆記用具を準備していた二人は、すぐに俺の方に向き直ってくれる。
「ルイス・アンバーという生徒を知っているか?」
「ああ……あれですよね。転入生の」
すかさずそう言ったのはモリスだった。あまりぴんときていない様子のヘンリーに、彼は小声で説明する。
「……ほら、隣のクラスのさ……ふわふわの茶髪で、ペンダントを下げてる奴。見たことあるだろ」
「あー、あの人ですか! 思い出しました!」
ぽん、と手を打つヘンリー。二人とも、顔は見たことがあるようだ。
この名門校たるコランダム魔術学院に、二年になってから転入してくる生徒なんて珍しいからな。転入生というだけで、何やら特別な生徒だとして噂が流れることだろう。
「聞いたことあります。何でも、地方からはるばるこの学院にやって来たそうですよね!」
「あと、光魔術の適性があるんだとか。それも、かなり強力なものだと……」
「そうか」
うーん……ゲームの序盤で判明する情報しか出てこないな。まあ、この二人もあんまり接点はないだろうし、仕方ないか。
ルイーズは地方貴族の生まれで、限られた人にしか使えない光属性の適性を持っている。それを王都の人間に見出され、この魔術学院にスカウトされたのだ。知らない人ばかりの中で初めは心細く思うも、持ち前の優しさとメンタルの強さで、攻略対象たちと交流を深めていく……というのがゲームのあらすじ。
この世界の『ルイス』も、たぶん同じなのだろう。
「もう結構だ」
俺は二人にそう言って、会話を打ち切る。
うーん、やっぱり冷たい言い方になっちゃうな……。ヘンリーとモリスは今の時点では俺の確実な味方なわけで。ルイスやセオドアほど優先度は高くないにしろ、二人ともそれなりに仲良くしたいんだけど。
でも、俺(エリック)のこういう態度は今に始まったことじゃない。二人はあからさまに落ち込むという様子もなく、各々授業の準備に移っているようだ。ごめんな……本当はこんなことに慣れさせちゃいけないんだけどな……。
すると……どこかから、クスクスと冷笑が聞こえる。
「エリックっていつもあの調子だよなぁ。さっすが『北風令息』」
「ヘンリーもモリスもよく付き合っていられるもんだ」
「おい止めとけって、あんま言うと第六王子様に怒られるぞ」
「そうだったそうだった」
……もう既に一部からは嫌われてるみたいだなぁ、俺。
ちなみに『北風令息』というのは、俺の冷たい性格と、魔術適性が風属性であることから、一部で囁かれているあだ名だ。まあ、その風魔術適性のおかげでちょっとばかり耳が良いから、あいつらの陰口もばっちり聞こえちゃうんだけど。
こういう時、エリカなら……そうだなぁ。ガタッと立ち上がって、陰口を言った奴らの方を睨みつけて。
『――全部聞こえているわよ。お望み通り、セオドアに言いつけて差し上げようかしら?』
とか言うんだろうな~~~~!
いや俺もバシッと言ってやりてぇよ。でもトラブルになるのが目に見えてるもんな。俺は嫌な奴らを制裁したいんじゃなくて、ほのぼの学園生活を送りたいだけなんだ。ここは我慢我慢。
と、手元に置いた教科書の表紙を見つめながら……俺は思う。
(……でも、なぁ)
エリカの棘のある物言いは、彼女の高いプライドと孤独から形成されたもので。……いやこれは二次創作の話だっけ? でもこの考察は、あながち間違ってはいないはず。
それもまた、エリカの個性。俺が好きになった『悪役令嬢エリカ』を構成する一部なのだ。
だから俺は……この個性と付き合っていかなくちゃいけない。彼女の意思を引き継いでいかなくちゃいけない。……なるべく角が立たないように。
(はは。難儀だなぁ……)
俺は心の中で、小さく苦笑した。
それはもう、昨日から散々思ったことではあるけれど。
……俺(エリック)にはエリカがついている。そう思うと、今は不思議と肩の力が抜ける気がしたのだ。
「ヘンリー、モリス」
「はいっ!」
「何でしょう、エリック様」
俺は手始めに、取り巻きの二人から情報を得てみることにした。
授業開始前の教室。教科書や筆記用具を準備していた二人は、すぐに俺の方に向き直ってくれる。
「ルイス・アンバーという生徒を知っているか?」
「ああ……あれですよね。転入生の」
すかさずそう言ったのはモリスだった。あまりぴんときていない様子のヘンリーに、彼は小声で説明する。
「……ほら、隣のクラスのさ……ふわふわの茶髪で、ペンダントを下げてる奴。見たことあるだろ」
「あー、あの人ですか! 思い出しました!」
ぽん、と手を打つヘンリー。二人とも、顔は見たことがあるようだ。
この名門校たるコランダム魔術学院に、二年になってから転入してくる生徒なんて珍しいからな。転入生というだけで、何やら特別な生徒だとして噂が流れることだろう。
「聞いたことあります。何でも、地方からはるばるこの学院にやって来たそうですよね!」
「あと、光魔術の適性があるんだとか。それも、かなり強力なものだと……」
「そうか」
うーん……ゲームの序盤で判明する情報しか出てこないな。まあ、この二人もあんまり接点はないだろうし、仕方ないか。
ルイーズは地方貴族の生まれで、限られた人にしか使えない光属性の適性を持っている。それを王都の人間に見出され、この魔術学院にスカウトされたのだ。知らない人ばかりの中で初めは心細く思うも、持ち前の優しさとメンタルの強さで、攻略対象たちと交流を深めていく……というのがゲームのあらすじ。
この世界の『ルイス』も、たぶん同じなのだろう。
「もう結構だ」
俺は二人にそう言って、会話を打ち切る。
うーん、やっぱり冷たい言い方になっちゃうな……。ヘンリーとモリスは今の時点では俺の確実な味方なわけで。ルイスやセオドアほど優先度は高くないにしろ、二人ともそれなりに仲良くしたいんだけど。
でも、俺(エリック)のこういう態度は今に始まったことじゃない。二人はあからさまに落ち込むという様子もなく、各々授業の準備に移っているようだ。ごめんな……本当はこんなことに慣れさせちゃいけないんだけどな……。
すると……どこかから、クスクスと冷笑が聞こえる。
「エリックっていつもあの調子だよなぁ。さっすが『北風令息』」
「ヘンリーもモリスもよく付き合っていられるもんだ」
「おい止めとけって、あんま言うと第六王子様に怒られるぞ」
「そうだったそうだった」
……もう既に一部からは嫌われてるみたいだなぁ、俺。
ちなみに『北風令息』というのは、俺の冷たい性格と、魔術適性が風属性であることから、一部で囁かれているあだ名だ。まあ、その風魔術適性のおかげでちょっとばかり耳が良いから、あいつらの陰口もばっちり聞こえちゃうんだけど。
こういう時、エリカなら……そうだなぁ。ガタッと立ち上がって、陰口を言った奴らの方を睨みつけて。
『――全部聞こえているわよ。お望み通り、セオドアに言いつけて差し上げようかしら?』
とか言うんだろうな~~~~!
いや俺もバシッと言ってやりてぇよ。でもトラブルになるのが目に見えてるもんな。俺は嫌な奴らを制裁したいんじゃなくて、ほのぼの学園生活を送りたいだけなんだ。ここは我慢我慢。
と、手元に置いた教科書の表紙を見つめながら……俺は思う。
(……でも、なぁ)
エリカの棘のある物言いは、彼女の高いプライドと孤独から形成されたもので。……いやこれは二次創作の話だっけ? でもこの考察は、あながち間違ってはいないはず。
それもまた、エリカの個性。俺が好きになった『悪役令嬢エリカ』を構成する一部なのだ。
だから俺は……この個性と付き合っていかなくちゃいけない。彼女の意思を引き継いでいかなくちゃいけない。……なるべく角が立たないように。
(はは。難儀だなぁ……)
俺は心の中で、小さく苦笑した。
それはもう、昨日から散々思ったことではあるけれど。
……俺(エリック)にはエリカがついている。そう思うと、今は不思議と肩の力が抜ける気がしたのだ。
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