一番星をこの手に堕とせ!

阿月杏

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3 聖歌隊での時間

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 聖歌隊での授業は、まあ想像していた通りのものだった。
 俺が最初に受けたのは、子ども向けの物語を読みながら、教会の『教え』とやらについて学んでいく授業だった。我らの『神様』を信じなさい、人を救える人になりなさい、と。

(……まあ、俺はそんな甘言には騙されませんが)

 心の中で冷めた視線を送りながらも、授業自体は真面目に受ける。人間の都合で作られた『教え』などに染まる気は一切ないが、あまりに興味のなさそうな態度を取っていては、大人たちに怪しまれるからな。

「……」

 ちらりとシエルの様子を窺ってみる。
 彼は、熱心に教科書を読み込んでいるようだった。確かシエルは元々教会が運営する孤児院にいて、その後エレンゼ教会の神官に引き取られた……という話だから、神官と接する機会も多く、きっと信心深いのだろう。
 ……どうやってシエルを『堕とす』べきなのか。
 今のところ、信仰に疑いを抱いている様子はないし……真面目で素行も良さそうだし。
 まあ、まずはシエルのことや、教会のことを知ることからか。ゆっくりじっくり、計画を進めていかなければ。


 授業が終わって休み時間になると、教室の子どもたちがわっと俺の机に群がってきた。

「ねえねえ、ノアくんはどこから来たの?」
「好きな食べ物はある?」
「ノアくんって勉強は得意?」

 おお……次々に質問が飛んでくる……。
 どうやらこの地域には焦げ茶色の髪の人間が多いようで、聖歌隊の子どもたちもほとんどがその見た目をしている。一方の俺は真っ黒な髪色なので、彼らからしたら『未知の存在』に映るのだろう。
 そういえば、シエルも特徴的な髪色をしていた。ミルクが多めのカフェオレのような、淡い茶色で……。
 と、隣を見て。

(……あれ、)

 いつの間にか、隣に座っていたはずのシエルの姿が消えていることに気付いた。鞄は置いてあるから、帰ったわけじゃないと思うけど。

(まあ……人見知りのようでしたし)

 これだけの人に囲まれるのも、嫌だったのだろう。まあ、今は無理に追いかけなくてもいいか……かえって警戒させてしまいそうだし。
 すると、子どもたちの輪の外から声がかかる。

「ほらほら、ノアくんのこと困らせないの! 順番ね、順番」
「はあーい」

 見れば、制服を着たショートカットの少女が、俺を囲む子どもたちに呼びかけていた。皆、少女の言うことに素直に従い、列を作っていく。もしかして、子どもたちの間でのリーダー的存在なんだろうか?
 その様子を眺めていると……もう一人、ツインテールの少女が俺のもとにやって来た。

「ごめんね~。みんなノアくんのことが気になるみたい」
「ああ、いえ。大丈夫ですよ」

 そう返せば、「よかった~」と少女がにっこり笑う。

「あたしはリタ、それとあっちの子はソフィ! 今のところ、あたしたちが一番長く聖歌隊にいるから……分からないことあったら、何でも聞いてねっ」

 なるほど、古参というわけか。道理でしっかりした印象を受けるわけだ。言われてみれば、教室にいる子どもたちの中でも年齢が高そうである。

「あっでも、勉強のこととかはソフィに聞いた方がいいかもね~……ソフィはとっても優秀だからさ」
「ちょっとリタ、あんまりプレッシャーかけないでよ」
「え~? だって本当のことじゃんっ」

 ……明るく朗らかな方がリタで、落ち着いてリーダーシップがある方がソフィだな。やり取りを見るに、この二人は仲が良いようだ。生活で困ったことがあれば、頼らせてもらうことにしよう。

 ――こうして、エレンゼ教会聖歌隊での初日は、つつがなく過ぎていった。
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