天才魔術師様はかぁいい使い魔(♂)に萌え萌えですっ

阿月杏

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2. ご主人様はクールで過保護

2-10 かぁいい、って

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「……分かった、今度外での仕事に連れていってやる。まずはそこで外の空気に慣れろ。外出許可も、段階を踏んで出してやるから」
「分かりましたぁ!」

 交渉の末、そんな条件で纏まった。
 やっと外に出られるんだ! この世界の街並みって、どんな感じになってるんだろうなぁ。
 そのうち、ブティックとか手芸用品店なんかにも行けるようになるかな? これからのことを考えると、今からわくわくが止まらない。

「……でもご主人様、やっぱりおれのこと心配しすぎだと思うけど」
「何を言う。お前は俺の、初めて喚んだ使い魔なんだぞ」

 まあ、確かに……使い魔ってそう簡単に召喚できるものじゃない、自然と長い付き合いになるもの、って話だったもんね。大事な存在ではあるか。
 アッシュ様は、おれの顔を見ながら言う。

「飼い猫と同じくらい、細心の注意を払わねばと思っている」
「猫!? おれってペット枠だったの!?」
「それか愛娘」
「性別変わっちゃってますけど!?」

 まあ、一から召喚した使い魔ですから、娘みたいなもの……なのかもしれないけど……。
 いや、だとしても娘ではないだろ。と、セルフツッコミする。

(アッシュ様って……ブレないところはブレないけど、新たな一面もどんどん見えてくるなぁ……)

 召喚されたての頃のそっけない態度を思うと、短い間にかなり印象が変わったなぁと感じる。クールと過保護って両立するんだな。新発見だぜ。
 するとアッシュ様は腕を組んで、はぁ、と息をついた。

「お前は、そこらの女よりずっと可愛い見た目なんだ。心配にもなる」
「……え」

 さらりと言われたその言葉に、おれは一瞬フリーズする。
 今。
 今、アッシュ様、とんでもないこと言わなかった?

「……かぁいい、って言った?」
「?」
「今、おれのこと、かぁいいって言った?」
「……可愛い、と、思うが」

 少したじろぎつつも、はっきりと『その言葉』を口にしたアッシュ様。
 どうやら、幻聴でも聞き間違いじゃないらしい。

 女の子よりかわいいって、それすっごい褒め言葉じゃない?
 さっきはおれの格好のこと『変だ』とか言ってたのに!

「……んふふ」

 思わず、笑みが零れる。
 そっか……そっかぁ。アッシュ様って、おれのこと『かわいい』って思ってるんだ。

「なんか、すごい嬉しいや……」

 思わず、両頬に手を当てる。ほんのりとした熱が、てのひらに伝わってくる。
 メイドさんたちにも『かわいい』って言われてるはずなのに……何が違うんだろうな。
 何かが、違うんだ。

 使い魔のおれにとってすごく大事な『ご主人様』だから?
 それとも、いつもクールで率直な物言いをする『アッシュ様』だから?

(どっちだとしても……)

 この嬉しさは、変わらないけどね。
 おれがそのままふと、アッシュ様の顔を見てみると。

「――……」

 アッシュ様は――何故か、ぽかんとした表情で、おれのことを見つめていた。
 ありゃ? アッシュ様の表情が明確に動いてるの、珍しいな。

「ご主人様……? もしかしておれ、変な顔してた?」
「……いや……」

 歯切れの悪い否定とともに、額に手を当てるアッシュ様。
 ……どうしたんだろう?
 まあ、今はいいか。何だか言いにくそうなことみたいだから、あんまり踏み込みすぎても良くない気がするし。

 とにかく今日は、外出の目処が立ったのと、アッシュ様に褒められたのと……このうきうきを胸にしまって、午後のお仕事も頑張ろうっと。
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