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3. 天才魔術師の地味なお仕事
3-5 結界のメンテナンス②
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結界のメンテナンスは、静かに順調に進んでいた。魔法陣の真ん中に杖を当てて、作動状態をチェックして、次の木へ。そんなことを繰り返していた最中。
「……む」
アッシュ様が小さく呟いて、手を止めた。
そしておれの方を振り返って、一つの木の幹を指し示す。
「見ろ。ここの魔法陣、薄くなっているだろう」
「あ、本当だ!」
「今から描き直す。……鞄の中に、青いラベルの瓶と紙包みが入っているから、それを出してくれ」
「了解ですー」
カチャリと金具を外して、鞄を開く。
その中には――銀のハサミとか、蝋燭とか、砕いた石?が詰められた瓶とか、多種多様な品々が綺麗に整頓されて詰め込まれていた。
おお。神秘的な道具類ばっかりで、見ているだけでわくわくしちゃうぜ……!
「……おい、早くしてくれないか」
「あっはい」
ということで、おれはアッシュ様に言われた二つのものを手に取った。
青いラベルが巻かれた瓶の中には、キラキラと輝く銀色の粉が詰まっている。物語の中でしか見ないような、幻想的な見た目だ。
紙包みの方は……開けてみると、白くて細長い塊がいくつか入っていた。何だろう、これ。
それらをアッシュ様に渡しながら、尋ねてみる。
「これ、どうやって使うの?」
「そうだな。この瓶の中身は『星の粉』といって、下準備に使うものだ」
「ふんふん」
「これを撒くことで、魔法陣を描く面を浄化する。余計な魔力を除去しなければならないからな」
珍しくしっかり解説してくれるアッシュ様の言葉を、効き漏らさないように耳を立てる。
アッシュ様は瓶から出した『星の粉』を手に取って、薄くなった魔法陣の表面をざらりと撫でた。何度か同じ場所を擦るうちに、魔法陣の模様はすっかり消えてしまう。
「それから、必要に応じて下描きをした上で、この『聖なる白墨』で魔法陣を描いていく」
紙包みに入っていた塊を、木の表面にすうっと滑らせると……白い線が引かれていく。なるほどね、『聖なる白墨』って、チョークみたいなものかぁ。
「力を入れすぎないのがコツだ」
「へぇー。てっきり杖の先っぽでこう、ガリガリって削って描くのかと思ってた」
「……それは古代のやり方だな。くっきりと描くことはできるが、杖が傷むだろう」
「あー、確かに」
そんなやり取りをしながら、アッシュ様はどんどん線を足していく。す、すごい……線にまるで迷いがない。描くべきものが完璧に頭の中に入っているみたいだ。
いや。っていうか。
「……アッシュせんせー。下描きナシで描いてないですかぁ?」
「描き慣れていれば造作も無い」
うーん、流石は天才魔術師。さらっと言ってのけちゃう。
ブレずに円を描くのも直線を引くのも、簡単なことじゃないと思うんだけど。しかも平たい紙の上じゃなくて、木の幹の表面にって。
そうやってすらすらと線を描いていくうちに、綺麗な白い魔法陣が出来上がった。
アッシュ様は先程までと同じように、中央に杖を当てて……。
「――光よ。此処に宿り、加護を与えたまえ」
そう唱えると、魔法陣がカッと光を放つ。光はすぐに弱まっていったけれど、『聖なる白墨』で描いた線が濃く、はっきりとしたように見える。たぶん、魔力が込められたってことなんだろう。
(呪文だぁ……!)
思えば、アッシュ様が魔術を使っているところを見るのは、初めてのことだ。
これがアッシュ様の仕事かぁ。確かに地味だけど、一見地味だからこそ……やっぱりおれ、すごいと思うな。
街のみんなの生活を、人知れず守ってるんだから。
そんな調子で、端の木までメンテナンスが終了しまして。
「お疲れ様でしたぁ。……やー、何だかんだ集中のいる仕事なんだねぇ」
「そうだな」
鞄を地面に置いて、ぐうっと伸びをする。後ろをついて行って、必要な時に道具を渡して……ってだけのおれが、こんなに疲れた気分でいいのかって気はしますが。アッシュ様は、慣れたお仕事だからなのか、あんまり疲れた感じに見えないな。
するとアッシュ様が、おれの顔を見て言う。
「……少し、寄り道でもするか?」
「え!」
願ってもない提案に、ぴん、と猫耳が立ち上がる。尻尾もしゅるりんと興味を示す。
疲れた気分、一瞬で吹き飛んじゃいました。
「街の様子も気になるだろう」
「うん! 行く行く!」
初めてのお出かけ、もうちょっと続きます!
「……む」
アッシュ様が小さく呟いて、手を止めた。
そしておれの方を振り返って、一つの木の幹を指し示す。
「見ろ。ここの魔法陣、薄くなっているだろう」
「あ、本当だ!」
「今から描き直す。……鞄の中に、青いラベルの瓶と紙包みが入っているから、それを出してくれ」
「了解ですー」
カチャリと金具を外して、鞄を開く。
その中には――銀のハサミとか、蝋燭とか、砕いた石?が詰められた瓶とか、多種多様な品々が綺麗に整頓されて詰め込まれていた。
おお。神秘的な道具類ばっかりで、見ているだけでわくわくしちゃうぜ……!
「……おい、早くしてくれないか」
「あっはい」
ということで、おれはアッシュ様に言われた二つのものを手に取った。
青いラベルが巻かれた瓶の中には、キラキラと輝く銀色の粉が詰まっている。物語の中でしか見ないような、幻想的な見た目だ。
紙包みの方は……開けてみると、白くて細長い塊がいくつか入っていた。何だろう、これ。
それらをアッシュ様に渡しながら、尋ねてみる。
「これ、どうやって使うの?」
「そうだな。この瓶の中身は『星の粉』といって、下準備に使うものだ」
「ふんふん」
「これを撒くことで、魔法陣を描く面を浄化する。余計な魔力を除去しなければならないからな」
珍しくしっかり解説してくれるアッシュ様の言葉を、効き漏らさないように耳を立てる。
アッシュ様は瓶から出した『星の粉』を手に取って、薄くなった魔法陣の表面をざらりと撫でた。何度か同じ場所を擦るうちに、魔法陣の模様はすっかり消えてしまう。
「それから、必要に応じて下描きをした上で、この『聖なる白墨』で魔法陣を描いていく」
紙包みに入っていた塊を、木の表面にすうっと滑らせると……白い線が引かれていく。なるほどね、『聖なる白墨』って、チョークみたいなものかぁ。
「力を入れすぎないのがコツだ」
「へぇー。てっきり杖の先っぽでこう、ガリガリって削って描くのかと思ってた」
「……それは古代のやり方だな。くっきりと描くことはできるが、杖が傷むだろう」
「あー、確かに」
そんなやり取りをしながら、アッシュ様はどんどん線を足していく。す、すごい……線にまるで迷いがない。描くべきものが完璧に頭の中に入っているみたいだ。
いや。っていうか。
「……アッシュせんせー。下描きナシで描いてないですかぁ?」
「描き慣れていれば造作も無い」
うーん、流石は天才魔術師。さらっと言ってのけちゃう。
ブレずに円を描くのも直線を引くのも、簡単なことじゃないと思うんだけど。しかも平たい紙の上じゃなくて、木の幹の表面にって。
そうやってすらすらと線を描いていくうちに、綺麗な白い魔法陣が出来上がった。
アッシュ様は先程までと同じように、中央に杖を当てて……。
「――光よ。此処に宿り、加護を与えたまえ」
そう唱えると、魔法陣がカッと光を放つ。光はすぐに弱まっていったけれど、『聖なる白墨』で描いた線が濃く、はっきりとしたように見える。たぶん、魔力が込められたってことなんだろう。
(呪文だぁ……!)
思えば、アッシュ様が魔術を使っているところを見るのは、初めてのことだ。
これがアッシュ様の仕事かぁ。確かに地味だけど、一見地味だからこそ……やっぱりおれ、すごいと思うな。
街のみんなの生活を、人知れず守ってるんだから。
そんな調子で、端の木までメンテナンスが終了しまして。
「お疲れ様でしたぁ。……やー、何だかんだ集中のいる仕事なんだねぇ」
「そうだな」
鞄を地面に置いて、ぐうっと伸びをする。後ろをついて行って、必要な時に道具を渡して……ってだけのおれが、こんなに疲れた気分でいいのかって気はしますが。アッシュ様は、慣れたお仕事だからなのか、あんまり疲れた感じに見えないな。
するとアッシュ様が、おれの顔を見て言う。
「……少し、寄り道でもするか?」
「え!」
願ってもない提案に、ぴん、と猫耳が立ち上がる。尻尾もしゅるりんと興味を示す。
疲れた気分、一瞬で吹き飛んじゃいました。
「街の様子も気になるだろう」
「うん! 行く行く!」
初めてのお出かけ、もうちょっと続きます!
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