天才魔術師様はかぁいい使い魔(♂)に萌え萌えですっ

阿月杏

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7. 召喚実演で大ピンチ!?

7-7 それぞれの気持ち

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 凜と響いた声と共に、人影が飛び込んでくる。

「ローレル……!」
「……はぁ。君って本当に、他人に頼るのが下手だよね」

 ああ、そうだった。この場にいるのは独りではないのだった。
 アッシュにとっての一番大切な存在が、危険な状態に晒されているかもしれないと思って……頭が回っていなかったのだ。
 孤高で孤独の天才魔術師アッシュには……確かに、味方がいる。

「ファーに救援を呼びに行かせたから……アッシュくん、君はメグムくんを!」
「……ああ」

 今は、丁寧に礼を述べている暇はない。アッシュはローレルに向けて軽く頷くと、すぐに魔法陣に向けて駆け出した。
 すぐにその後ろを追おうとするマグノリアを――ローレルは、手にした杖で制す。

「行かせないよ。君の相手は僕だ」
「おや、おやおや……ローレル殿。これは私とアッシュ殿の舞台でしたのに。邪魔しないで下さいませ」

 マグノリアは不機嫌そうに言う。
 そして、おもむろにローレルに近付くと……そっと、その耳元に囁いた。

「……良いのですか? これは、アッシュ殿を失脚させるチャンスですよ?」
「……!」
「本当は妬ましいのでしょう、恨めしいのでしょう。あなたより才能がありながら、名声に興味がないような態度を取って。しかも、その皺寄せはあなたにばかり行って」

 何を、事実無根なことを。
 そうとでも言って、すぐに否定すれば良かったことなのだろう。
 けれど、ローレルは……誤魔化しきれないほどに、動揺を見せてしまった。自分がなるべく他人に見せないようにしていた、黒い本性を言い当てられて。

「……どうして、そんなことを」
「アッシュ殿について調べていれば……自ずと、あなたについての情報も手に入りますからねぇ。アッシュ殿の同期で、唯一の『友人』である……ローレル殿」
「……」

 全てを見透かしているかのような微笑みに、何も言い返せない。
 マグノリアは、そろりとローレルの胸に手を添える。

「あなたは優秀な魔術師だ。ですが……あなたを凌駕する才能の持ち主がそばに居るがために、『天才』とは決して呼ばれることがないのでしょう。どうですか? ここは一つ、手を組みませんか?」

 ぐ、と唇を噛んで。
 ローレルは、その手を――強く振り払った。

「……!」
「残念だけど、その程度の誘惑には乗らないよ!」

 それは、確固たる意思で。
 一人の魔術師としてのプライドで。

「こんな形であいつのこと蹴落とすのは、不本意だからね。……アッシュくんのことは、俺が俺の手でこてんぱんに負かしてやるんだ。それまでは、易々とくたばってもらっちゃ困るんだよ」

 ローレルは、杖を掲げる。その先端は、ぴったりと目の前の『敵』に向いていた。
 その瞳には、もう迷いも惑いもない。

「僕は確かに『天才』じゃない。……でもその分、意地ってものがあるんだよ!」



「メグム……!」

 可愛らしいメイド服に包まれたその体からは、くったりと力が抜けていた。
 まずは抱きかかえて魔法陣の外に出す。そして、その状態をチェックする。

(呼吸は……ある。魔力も残っている)

 『捧げ物』として黒魔術に吸収された分、少し消耗してはいるが……起き上がれないほどではないだろう。
 しかし、その瞼はぴったり閉じたまま動かない。まるで、深い眠りの中にいるようだ。
 とはいえ……アッシュは天才魔術師である。

(……メグムは使い魔だ。人間とは体の構造が違う)

 冷静に、冷静に、適切な解法を導き出そうとする。
 使い魔は、魔力を多く持つ……いわば魔力で出来た生き物だ。黒魔術のために体内の魔力が流出したことで……おそらく今は、一時的にスリープ状態になっている。
 ということは。彼が持つ魔力に刺激を与えれば、また動き出すと考えられた。

(そのために、は……)

 頭の中の使い魔に関する知識をフル回転させていたアッシュの動きが、一瞬、ぴたりと止まる。
 魔力を少し注ぎ込むだけならば……わざわざ魔法陣を展開する必要のない方法が、あるわけだが。
 ……いや、今さら躊躇するようなことではないだろう。

「……」

 アッシュは、少しだけ周囲を確認すると。
 その唇に――軽く口付けた。
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