闘心、かつ、劣等

小鳩 小麦

文字の大きさ
3 / 3

冒険綺譚

しおりを挟む
昨日はあまり寝付けなかった。
病室には雑音が届かないようになっているから音で寝れないなんてことは無い。

言うならば今後の自分の境遇について、ひたすら考えを巡らせていた。
このまま身体の具合が良くならないまま死んでいくか、それかこの窓から飛び降りて自殺でもするか。

どちらにせよ、死ぬという選択肢は変わらない。生きることに飽きているという訳では無いが、この世界に僕が居なくてもいいんじゃないかと諦めている。

そんなこんなで、気がついたらカーテンの隙間から日差しが差し込み、雀の囀りが聞こえて、暖かな春の1日がスタートしていた。
目覚まし時計はセットせずに、自力で起きるようにしている。

起きてすぐ、ドアからノックが聞こえた。

「…逢沢さん、朝食持ってきました。」

無愛想な看護婦さんが和食の朝食を運んできた。作りたてなのか白いご飯からは湯気が立っている。患者の健康を考え、この病院では和食を出すのがセオリーのようだ。

「…どうも。」
さっとお礼を済ませた。看護婦さんはスタスタと歩いていき、音を立てずにドアを閉めた。朝から看護婦の仕事は忙しい。わざわざ患者に朝食を運ぶということも仕事の一環なのである。

帰った看護婦さんを見送ってから、運ばれた朝食を一瞥して橋に手をつけた。

魚はほどよく柔らかさでとても食べやすいと感じた。
和食の割に量がとても多くすべてを食べ切ることは出来ない。

三口ほど食べて、することも特にないので窓からの景色を眺めることにした。

すると、誰かがよじ登る音が聴こえた。

「…よいっしょっとおお!!  お、もう起きてんのか!早いなあー! おはよう!
今日も元気に、俺が来てやったぜ?
もっとテンション上げろよー!?」

「いや、来て欲しいなんて一言も言ってないし、こんな朝っぱらから人の病室に侵入するやつがいるか。
というか、どっから来たんだよ?普通にロビーから来ればいいだろ?」

「それがよー、まだ面会時間じゃねーんだよなー笑   おっそいよなー。朝飯食ったか?俺まだなんだよー。」

そう言ってこいつはパーカーのポケットからメロンパンを取り出した。
近所のコンビニのレシートも一緒に出てきて床に音も立てずに落下して行った。

「…おまえはあ、うっほここにいうけどなんかすうこここかねえーお?」

「…飲み込んでから言え。きたねえな。てかなんて言った?」

「お前さあ、ずっとここにいるけど、なんかすることとかねえの?」

「ないよ。あったら窓から見える変わらない景色を1日中眺めたりなんかしないだろ。 」

「ふーん。退屈じゃねえの?」

「別に。たまに鳥が飛んでるの数えたり、車のナンバー覚えたり工夫はしてる。」

「ぶっはw  おまw  くっそつまんねえことやってんなあー!  くっくっくっw久々にこんなアナログなやつ見たわw」

「…! はあ?!いいだろ別に!すること無くて寝たきりになるよりマシだあほ!」

自分のしてることがアナログだということを他人に腹を抱えて笑われるのがこんなにも屈辱的だとは。
笑ってるあいつの目尻には笑いすぎて出た涙が浮かんでいた。

というか、いつまで笑ってるんだこいつは…。

「なあなあ、充?だっけ?俺と抜け出すか、ここを。」

そんなセリフを聴いた時、心がざわついた。予感がした。

「…そんなことしたら、看護婦さんに見つかった時おこられるだろ。母さんも来るかもしれないし…。」

「いいだろちょっとくらいー! なあなあー!!30分でいいから?な?」

無邪気な目で懇願されると僕だってきっぱりと断る気になれなかった。
それに、僕自身では気づいてなかったが、心のざわつき、動悸が激しかった。


「あーーもうわかった。わかったからおんな目で僕を見るな!!ただし、面会時間までの30分だけだからな。」

「わあってるって!!とっておきの場所案内してやるよ!」

言われるがまま僕は、あいつの登ってきた外壁に吊るされたロープをつたって病院の裏の庭にたどり着いた。
まだ早朝ということもあり、寝ている患者がほとんど。
カーテンの閉まっている窓が閉ざされた患者の心を、具現化してるのではないかと、つまらない冗談を思いつつ、あいつの行先について行った。

着替える暇もないので病院特有のエメラルドグリーンの服に身を包んで歩き回っている。
傍から見たら、病室から抜け出した悪ガキと同じだ。

しかもスニーカーもないのでスリッパのまま冷たいアスファルトの道を歩いてる。

「なあ?まだつかないのか?かれこれ15分は歩いてる気が…。帰る時間も考えたらここらで終わりにしよう?……おい、聞いてる…」

「おっし、着いたぞ!!そこ、座って見てみろよ。」

僕のセリフを無視しやがった。
言い終わる前に遮られた僕は、言われた通りあいつが指差した場所に座ってみた。

ついた場所は小さな公園の裏にある小さな山の頂上だった。遊具の至る所が錆びて何年も使われてない形跡が垣間見える。

そして、座った場所から見えた景色は僕の想像を遥かに超えていた。

僕の視界に映ったそれは、僕の混凝土の心をゆっくりと、じんわりと、溶かしていった。
余韻が微かに目の前を通り過ぎた気がした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...