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冒険綺譚
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昨日はあまり寝付けなかった。
病室には雑音が届かないようになっているから音で寝れないなんてことは無い。
言うならば今後の自分の境遇について、ひたすら考えを巡らせていた。
このまま身体の具合が良くならないまま死んでいくか、それかこの窓から飛び降りて自殺でもするか。
どちらにせよ、死ぬという選択肢は変わらない。生きることに飽きているという訳では無いが、この世界に僕が居なくてもいいんじゃないかと諦めている。
そんなこんなで、気がついたらカーテンの隙間から日差しが差し込み、雀の囀りが聞こえて、暖かな春の1日がスタートしていた。
目覚まし時計はセットせずに、自力で起きるようにしている。
起きてすぐ、ドアからノックが聞こえた。
「…逢沢さん、朝食持ってきました。」
無愛想な看護婦さんが和食の朝食を運んできた。作りたてなのか白いご飯からは湯気が立っている。患者の健康を考え、この病院では和食を出すのがセオリーのようだ。
「…どうも。」
さっとお礼を済ませた。看護婦さんはスタスタと歩いていき、音を立てずにドアを閉めた。朝から看護婦の仕事は忙しい。わざわざ患者に朝食を運ぶということも仕事の一環なのである。
帰った看護婦さんを見送ってから、運ばれた朝食を一瞥して橋に手をつけた。
魚はほどよく柔らかさでとても食べやすいと感じた。
和食の割に量がとても多くすべてを食べ切ることは出来ない。
三口ほど食べて、することも特にないので窓からの景色を眺めることにした。
すると、誰かがよじ登る音が聴こえた。
「…よいっしょっとおお!! お、もう起きてんのか!早いなあー! おはよう!
今日も元気に、俺が来てやったぜ?
もっとテンション上げろよー!?」
「いや、来て欲しいなんて一言も言ってないし、こんな朝っぱらから人の病室に侵入するやつがいるか。
というか、どっから来たんだよ?普通にロビーから来ればいいだろ?」
「それがよー、まだ面会時間じゃねーんだよなー笑 おっそいよなー。朝飯食ったか?俺まだなんだよー。」
そう言ってこいつはパーカーのポケットからメロンパンを取り出した。
近所のコンビニのレシートも一緒に出てきて床に音も立てずに落下して行った。
「…おまえはあ、うっほここにいうけどなんかすうこここかねえーお?」
「…飲み込んでから言え。きたねえな。てかなんて言った?」
「お前さあ、ずっとここにいるけど、なんかすることとかねえの?」
「ないよ。あったら窓から見える変わらない景色を1日中眺めたりなんかしないだろ。 」
「ふーん。退屈じゃねえの?」
「別に。たまに鳥が飛んでるの数えたり、車のナンバー覚えたり工夫はしてる。」
「ぶっはw おまw くっそつまんねえことやってんなあー! くっくっくっw久々にこんなアナログなやつ見たわw」
「…! はあ?!いいだろ別に!すること無くて寝たきりになるよりマシだあほ!」
自分のしてることがアナログだということを他人に腹を抱えて笑われるのがこんなにも屈辱的だとは。
笑ってるあいつの目尻には笑いすぎて出た涙が浮かんでいた。
というか、いつまで笑ってるんだこいつは…。
「なあなあ、充?だっけ?俺と抜け出すか、ここを。」
そんなセリフを聴いた時、心がざわついた。予感がした。
「…そんなことしたら、看護婦さんに見つかった時おこられるだろ。母さんも来るかもしれないし…。」
「いいだろちょっとくらいー! なあなあー!!30分でいいから?な?」
無邪気な目で懇願されると僕だってきっぱりと断る気になれなかった。
それに、僕自身では気づいてなかったが、心のざわつき、動悸が激しかった。
「あーーもうわかった。わかったからおんな目で僕を見るな!!ただし、面会時間までの30分だけだからな。」
「わあってるって!!とっておきの場所案内してやるよ!」
言われるがまま僕は、あいつの登ってきた外壁に吊るされたロープをつたって病院の裏の庭にたどり着いた。
まだ早朝ということもあり、寝ている患者がほとんど。
カーテンの閉まっている窓が閉ざされた患者の心を、具現化してるのではないかと、つまらない冗談を思いつつ、あいつの行先について行った。
着替える暇もないので病院特有のエメラルドグリーンの服に身を包んで歩き回っている。
傍から見たら、病室から抜け出した悪ガキと同じだ。
しかもスニーカーもないのでスリッパのまま冷たいアスファルトの道を歩いてる。
「なあ?まだつかないのか?かれこれ15分は歩いてる気が…。帰る時間も考えたらここらで終わりにしよう?……おい、聞いてる…」
「おっし、着いたぞ!!そこ、座って見てみろよ。」
僕のセリフを無視しやがった。
言い終わる前に遮られた僕は、言われた通りあいつが指差した場所に座ってみた。
ついた場所は小さな公園の裏にある小さな山の頂上だった。遊具の至る所が錆びて何年も使われてない形跡が垣間見える。
そして、座った場所から見えた景色は僕の想像を遥かに超えていた。
僕の視界に映ったそれは、僕の混凝土の心をゆっくりと、じんわりと、溶かしていった。
余韻が微かに目の前を通り過ぎた気がした。
病室には雑音が届かないようになっているから音で寝れないなんてことは無い。
言うならば今後の自分の境遇について、ひたすら考えを巡らせていた。
このまま身体の具合が良くならないまま死んでいくか、それかこの窓から飛び降りて自殺でもするか。
どちらにせよ、死ぬという選択肢は変わらない。生きることに飽きているという訳では無いが、この世界に僕が居なくてもいいんじゃないかと諦めている。
そんなこんなで、気がついたらカーテンの隙間から日差しが差し込み、雀の囀りが聞こえて、暖かな春の1日がスタートしていた。
目覚まし時計はセットせずに、自力で起きるようにしている。
起きてすぐ、ドアからノックが聞こえた。
「…逢沢さん、朝食持ってきました。」
無愛想な看護婦さんが和食の朝食を運んできた。作りたてなのか白いご飯からは湯気が立っている。患者の健康を考え、この病院では和食を出すのがセオリーのようだ。
「…どうも。」
さっとお礼を済ませた。看護婦さんはスタスタと歩いていき、音を立てずにドアを閉めた。朝から看護婦の仕事は忙しい。わざわざ患者に朝食を運ぶということも仕事の一環なのである。
帰った看護婦さんを見送ってから、運ばれた朝食を一瞥して橋に手をつけた。
魚はほどよく柔らかさでとても食べやすいと感じた。
和食の割に量がとても多くすべてを食べ切ることは出来ない。
三口ほど食べて、することも特にないので窓からの景色を眺めることにした。
すると、誰かがよじ登る音が聴こえた。
「…よいっしょっとおお!! お、もう起きてんのか!早いなあー! おはよう!
今日も元気に、俺が来てやったぜ?
もっとテンション上げろよー!?」
「いや、来て欲しいなんて一言も言ってないし、こんな朝っぱらから人の病室に侵入するやつがいるか。
というか、どっから来たんだよ?普通にロビーから来ればいいだろ?」
「それがよー、まだ面会時間じゃねーんだよなー笑 おっそいよなー。朝飯食ったか?俺まだなんだよー。」
そう言ってこいつはパーカーのポケットからメロンパンを取り出した。
近所のコンビニのレシートも一緒に出てきて床に音も立てずに落下して行った。
「…おまえはあ、うっほここにいうけどなんかすうこここかねえーお?」
「…飲み込んでから言え。きたねえな。てかなんて言った?」
「お前さあ、ずっとここにいるけど、なんかすることとかねえの?」
「ないよ。あったら窓から見える変わらない景色を1日中眺めたりなんかしないだろ。 」
「ふーん。退屈じゃねえの?」
「別に。たまに鳥が飛んでるの数えたり、車のナンバー覚えたり工夫はしてる。」
「ぶっはw おまw くっそつまんねえことやってんなあー! くっくっくっw久々にこんなアナログなやつ見たわw」
「…! はあ?!いいだろ別に!すること無くて寝たきりになるよりマシだあほ!」
自分のしてることがアナログだということを他人に腹を抱えて笑われるのがこんなにも屈辱的だとは。
笑ってるあいつの目尻には笑いすぎて出た涙が浮かんでいた。
というか、いつまで笑ってるんだこいつは…。
「なあなあ、充?だっけ?俺と抜け出すか、ここを。」
そんなセリフを聴いた時、心がざわついた。予感がした。
「…そんなことしたら、看護婦さんに見つかった時おこられるだろ。母さんも来るかもしれないし…。」
「いいだろちょっとくらいー! なあなあー!!30分でいいから?な?」
無邪気な目で懇願されると僕だってきっぱりと断る気になれなかった。
それに、僕自身では気づいてなかったが、心のざわつき、動悸が激しかった。
「あーーもうわかった。わかったからおんな目で僕を見るな!!ただし、面会時間までの30分だけだからな。」
「わあってるって!!とっておきの場所案内してやるよ!」
言われるがまま僕は、あいつの登ってきた外壁に吊るされたロープをつたって病院の裏の庭にたどり着いた。
まだ早朝ということもあり、寝ている患者がほとんど。
カーテンの閉まっている窓が閉ざされた患者の心を、具現化してるのではないかと、つまらない冗談を思いつつ、あいつの行先について行った。
着替える暇もないので病院特有のエメラルドグリーンの服に身を包んで歩き回っている。
傍から見たら、病室から抜け出した悪ガキと同じだ。
しかもスニーカーもないのでスリッパのまま冷たいアスファルトの道を歩いてる。
「なあ?まだつかないのか?かれこれ15分は歩いてる気が…。帰る時間も考えたらここらで終わりにしよう?……おい、聞いてる…」
「おっし、着いたぞ!!そこ、座って見てみろよ。」
僕のセリフを無視しやがった。
言い終わる前に遮られた僕は、言われた通りあいつが指差した場所に座ってみた。
ついた場所は小さな公園の裏にある小さな山の頂上だった。遊具の至る所が錆びて何年も使われてない形跡が垣間見える。
そして、座った場所から見えた景色は僕の想像を遥かに超えていた。
僕の視界に映ったそれは、僕の混凝土の心をゆっくりと、じんわりと、溶かしていった。
余韻が微かに目の前を通り過ぎた気がした。
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