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第2章 異世界の始まり
第四話『恩人』
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……次に目を開けたとき、そこには見知らぬ天井があった。
石造りとも木造ともつかない、不思議な模様の天井。
「……ここは……」
ゆっくりと上体を起こす。
頭痛は嘘のように消えていた。むしろ、全身が軽い。筋肉も骨も、まるでしっかりと調整された機械のように滑らかに動く。
しばらく状況を整理しようとする間に、扉がきしむ音がした。
振り向くと、一人の女性が部屋に入ってきた。
彼女はハルトに気づき、ぱっと表情を明るくした。
「……◇※△……!」
明らかにこちらへ向けて話しかけている。しかし、何を言っているのかはまったく理解できない。
「……ごめん、わからない……!」
焦りながら、ハルトは両手を振ったり、首を横に振ったりして、言葉が通じないことを必死にジェスチャーで伝えた。
女性は少し驚いたように目を瞬かせ、それでもハルトの様子をじっと見つめていた。
必死に身振り手振りを繰り返す。言葉は通じないが、どうにか意思疎通を試みようとした。
女性もまた根気よくジェスチャーを返してくれる。指で数を示したり、胸に手を当てたり、絵を描くように手を動かしたり。
そのやり取りの中で、少しずつ状況が見えてきた。
俺はここで「二日間」眠っていたらしい。
女性は手で「2」を示し、両手を閉じる動作をしながら、寝顔をまねて見せた。どうやら気を失った俺を世話していたようだ。
彼女は胸に手を当ててから「エリナ」と名乗った。
やわらかな響きで、名前らしいことは直感的に理解できた。
さらに、エリナの身振りから察するに……俺ががあの原っぱでリリアたちの荷物を漁り、水と食料をむさぼった後、倒れて動かなくなったこと。
そして仲間と一緒に、気絶した俺を自分たちの住む家まで運んできたのだとわかった。
エリナは苦笑いのような表情を浮かべながら、手振りで「大変だった」とでも言いたげに肩をすくめる。
俺はその気遣いに胸が締めつけられるような思いがした。
ジェスチャーでのぎこちないやり取りが続く中、扉が再び開いた。
中に入ってきたのは、がっしりとした体格の青年と、少し細身で穏やかな雰囲気をまとった青年の二人だった。
エリナがぱっと立ち上がり、彼らに何かを告げる。
「……◇※△……!」
その言葉に二人は頷き、安心したように表情を和らげた。どうやら「目を覚ました」と伝えてくれたらしい。
屈強な方の青年が一歩前に出て、自分の胸に手を当てる。
「アレン」
短く、力強く名乗った。
続いて、穏やかな雰囲気の青年が微笑みながら同じ仕草をする。
「ダリオ」
二人が交互に自分の名を告げると、視線がハルトへと集まった。
(……自己紹介か……)
言葉が通じなくても、名乗ることはできる。
俺は少し躊躇したのち、胸に手を当てて口を開いた。
「――ハルト」
3人は驚いたように目を丸くし、次いで嬉しそうに頷いた。
どうやら伝わったらしい。
ハルトは両手を胸の前に合わせ、深く頭を下げた。
そして必死にジェスチャーで、あの原っぱで助けてもらったことへの「ありがとう」を伝えた。
エリナもダリオもアレンも、最初はきょとんとした顔をしたが、すぐに理解したのか穏やかな笑みを浮かべた。
部屋に、柔らかい空気が広がっていった。
和やかな空気の中、ふと――
「ぐぅぅ……」
静かな部屋に、主人公の腹の音が盛大に響いた。
一瞬の沈黙。次の瞬間、エリナが口元を押さえて笑い、ダリオもアレンも堪えきれず肩を揺らした。
ハルトは耳まで赤くしながら俯く。だが、すぐにエリナが「待っていなさい」と言うように手をひらひらさせて部屋を出ていった。
ほどなくして、温かい香りと共に料理が運ばれてくる。
焼かれた丸い薄パン、香草と共に煮込まれた野菜、骨付き肉の入ったスープ……見た目は少し異国風だが、香りは食欲をそそった。
「……ありがとう」
言葉は通じない。それでも心を込めて呟き、頭を下げてから食べ始める。ひと口かじれば、空っぽだった胃が歓喜の声をあげるようだった。
食事の途中、ダリオが机の上の木製のカップを指差し、はっきりと発音した。
「――ルア」
どうやら「これはカップ(器)」を意味するらしい。
ハルトは復唱するように声を出す。
「……ルア」
アレンが嬉しそうに頷くと、今度はエリナが椅子を指差し、言葉を告げた。
「――セレ」
ダリオはパンを掲げて「ドーン」と言い、さらに指で「1」「2」と数を数えてみせた。
エリナは料理を口にして、幸せそうに「ミア」と呟く。それが「美味しい」という意味らしいと、雰囲気で察せられた。
ハルトも同じ仕草をしてその言葉を繰り返す。
「……ミア」
すると3人が揃って微笑み、頷いた。
食事が一段落しても、ハルトの指差しは止まらなかった。
テーブルの皿を指差して「これは?」と目で問い、彼らが答えるとすぐに復唱する。
壁にかけられた布、窓、扉、棚、床……家の中にあるあらゆる物を次々に指差しては、言葉を覚えていった。
「――ラフ」
「――トゥナ」
「――ヴェル」
ひとつひとつ声に出すたび、頭の奥にスルスルと単語が滑り込んでいく感覚があった。
記憶が定着していくのが自分でもはっきりわかる。
エリナはくすくす笑いながら根気よく答え、アレンは時折例え話のように身振りを交えて説明し、ダリオは大げさなジェスチャーで面白おかしく教えてくれる。
彼らにとっても、謎多き少年に言葉を教えることが、ちょっとした遊びのように思えたのかもしれない。
気がつけば、外の空はとっぷりと暮れていた。窓の外に浮かぶ二つの月が淡い光を注ぎ込んでいる。
部屋の灯りが揺れる中、笑い声と新しい言葉が次々と飛び交い、そうしていつの間にか夜が更けていった。
石造りとも木造ともつかない、不思議な模様の天井。
「……ここは……」
ゆっくりと上体を起こす。
頭痛は嘘のように消えていた。むしろ、全身が軽い。筋肉も骨も、まるでしっかりと調整された機械のように滑らかに動く。
しばらく状況を整理しようとする間に、扉がきしむ音がした。
振り向くと、一人の女性が部屋に入ってきた。
彼女はハルトに気づき、ぱっと表情を明るくした。
「……◇※△……!」
明らかにこちらへ向けて話しかけている。しかし、何を言っているのかはまったく理解できない。
「……ごめん、わからない……!」
焦りながら、ハルトは両手を振ったり、首を横に振ったりして、言葉が通じないことを必死にジェスチャーで伝えた。
女性は少し驚いたように目を瞬かせ、それでもハルトの様子をじっと見つめていた。
必死に身振り手振りを繰り返す。言葉は通じないが、どうにか意思疎通を試みようとした。
女性もまた根気よくジェスチャーを返してくれる。指で数を示したり、胸に手を当てたり、絵を描くように手を動かしたり。
そのやり取りの中で、少しずつ状況が見えてきた。
俺はここで「二日間」眠っていたらしい。
女性は手で「2」を示し、両手を閉じる動作をしながら、寝顔をまねて見せた。どうやら気を失った俺を世話していたようだ。
彼女は胸に手を当ててから「エリナ」と名乗った。
やわらかな響きで、名前らしいことは直感的に理解できた。
さらに、エリナの身振りから察するに……俺ががあの原っぱでリリアたちの荷物を漁り、水と食料をむさぼった後、倒れて動かなくなったこと。
そして仲間と一緒に、気絶した俺を自分たちの住む家まで運んできたのだとわかった。
エリナは苦笑いのような表情を浮かべながら、手振りで「大変だった」とでも言いたげに肩をすくめる。
俺はその気遣いに胸が締めつけられるような思いがした。
ジェスチャーでのぎこちないやり取りが続く中、扉が再び開いた。
中に入ってきたのは、がっしりとした体格の青年と、少し細身で穏やかな雰囲気をまとった青年の二人だった。
エリナがぱっと立ち上がり、彼らに何かを告げる。
「……◇※△……!」
その言葉に二人は頷き、安心したように表情を和らげた。どうやら「目を覚ました」と伝えてくれたらしい。
屈強な方の青年が一歩前に出て、自分の胸に手を当てる。
「アレン」
短く、力強く名乗った。
続いて、穏やかな雰囲気の青年が微笑みながら同じ仕草をする。
「ダリオ」
二人が交互に自分の名を告げると、視線がハルトへと集まった。
(……自己紹介か……)
言葉が通じなくても、名乗ることはできる。
俺は少し躊躇したのち、胸に手を当てて口を開いた。
「――ハルト」
3人は驚いたように目を丸くし、次いで嬉しそうに頷いた。
どうやら伝わったらしい。
ハルトは両手を胸の前に合わせ、深く頭を下げた。
そして必死にジェスチャーで、あの原っぱで助けてもらったことへの「ありがとう」を伝えた。
エリナもダリオもアレンも、最初はきょとんとした顔をしたが、すぐに理解したのか穏やかな笑みを浮かべた。
部屋に、柔らかい空気が広がっていった。
和やかな空気の中、ふと――
「ぐぅぅ……」
静かな部屋に、主人公の腹の音が盛大に響いた。
一瞬の沈黙。次の瞬間、エリナが口元を押さえて笑い、ダリオもアレンも堪えきれず肩を揺らした。
ハルトは耳まで赤くしながら俯く。だが、すぐにエリナが「待っていなさい」と言うように手をひらひらさせて部屋を出ていった。
ほどなくして、温かい香りと共に料理が運ばれてくる。
焼かれた丸い薄パン、香草と共に煮込まれた野菜、骨付き肉の入ったスープ……見た目は少し異国風だが、香りは食欲をそそった。
「……ありがとう」
言葉は通じない。それでも心を込めて呟き、頭を下げてから食べ始める。ひと口かじれば、空っぽだった胃が歓喜の声をあげるようだった。
食事の途中、ダリオが机の上の木製のカップを指差し、はっきりと発音した。
「――ルア」
どうやら「これはカップ(器)」を意味するらしい。
ハルトは復唱するように声を出す。
「……ルア」
アレンが嬉しそうに頷くと、今度はエリナが椅子を指差し、言葉を告げた。
「――セレ」
ダリオはパンを掲げて「ドーン」と言い、さらに指で「1」「2」と数を数えてみせた。
エリナは料理を口にして、幸せそうに「ミア」と呟く。それが「美味しい」という意味らしいと、雰囲気で察せられた。
ハルトも同じ仕草をしてその言葉を繰り返す。
「……ミア」
すると3人が揃って微笑み、頷いた。
食事が一段落しても、ハルトの指差しは止まらなかった。
テーブルの皿を指差して「これは?」と目で問い、彼らが答えるとすぐに復唱する。
壁にかけられた布、窓、扉、棚、床……家の中にあるあらゆる物を次々に指差しては、言葉を覚えていった。
「――ラフ」
「――トゥナ」
「――ヴェル」
ひとつひとつ声に出すたび、頭の奥にスルスルと単語が滑り込んでいく感覚があった。
記憶が定着していくのが自分でもはっきりわかる。
エリナはくすくす笑いながら根気よく答え、アレンは時折例え話のように身振りを交えて説明し、ダリオは大げさなジェスチャーで面白おかしく教えてくれる。
彼らにとっても、謎多き少年に言葉を教えることが、ちょっとした遊びのように思えたのかもしれない。
気がつけば、外の空はとっぷりと暮れていた。窓の外に浮かぶ二つの月が淡い光を注ぎ込んでいる。
部屋の灯りが揺れる中、笑い声と新しい言葉が次々と飛び交い、そうしていつの間にか夜が更けていった。
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