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第7章『人外の里オルミナ』
第四十六話『地震』
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オルミナに帰還してから、翌日。
朝靄の残る街の外れで、イセリオはハルトを見送っていた。
「……行くのか」
低く、どこか名残を含んだ声だった。
「ああ。イセリオの話を聞けただけで、オルミナに来れてよかったよ」
ハルトはそう言って、静かに答える。
「すまんのぉ。大した歓迎もしてやれんで」
「いや、仕方ないさ」
短い沈黙の後、イセリオは空を見上げるようにして呟いた。
「やはり難しいの……人間との共存は」
「ああ。でも――」
ハルトは迷いなく言った。
「いつか必ず叶うさ」
「それが、いつになるやら……」
「大丈夫だって――」
その言葉の途中だった。
――ゴゴッ。
足元から、鈍く重い衝撃が伝わってきた。
次の瞬間、地面が大きくうねる。
「……ッ!?」
ドン、ドン、と大太鼓を叩くような振動が連続し、立っていることすら難しくなる。
建物の壁が軋み、石と木が悲鳴を上げた。
「地震だ!」
誰かの叫び声が街に響く。
直後、轟音とともに石造りの建物が崩れ落ちた。
屋根が砕け、壁が裂け、粉塵が一気に空を覆う。
「うわあああっ!」
悲鳴。
怒号。
何が起きているのかわからないまま、人々が必死に逃げ惑う。
地面はなおも揺れ続け、道は波打ち、塔の上部がゆっくりと傾いたかと思うと次の瞬間、轟音を立てて崩壊した。
「くっ……!」
ハルトは踏ん張り、即座に周囲を見渡す。
オルミナの街は、まるで巨大な獣に踏み荒らされたかのように、次々と壊れていった。
土煙の向こうで、人影が倒れ、瓦礫に埋もれていく。
イセリオも杖を突き、必死に体勢を保っていた。
「これは……ただの地震ではない……」
揺れはまだ、収まる気配を見せない。
静かだったオルミナの朝は、
一瞬にして――災厄の只中へと変わった。
「リヴィア、防御魔法」
「はい」
短い返事と同時に、リヴィアの詠唱が終わる。
三人を包むように淡い防護の光が広がり、その直後、地面が激しく跳ね上がった。
建物が悲鳴を上げるように軋み、瓦礫が転がり落ちる音が町中に響く。
揺れは容赦なく続き、立っているだけで精一杯だった。
それでも、二分、三分と時間が経つにつれ、次第に揺れは弱まっていく。
「……おさまったか?」
ハルトが慎重に周囲を見渡す。
町は、ひと目で分かるほどの被害を受けていた。崩れ落ちた家屋、裂けた地面、呆然と立ち尽くす人々。
「イセリオ。崩れた建物の中に、人がいるかもしれない。手分けして助けよう」
「わかった」
「俺に強化魔法を」
「はい」
リヴィアの魔力がハルトの身体に流れ込み、全身が軽くなる。
「リヴィアは病院へ行って、怪我人の回復を」
「はい」
「命に関わるほどひどい人だけだ」
一瞬、リヴィアの動きが止まる。
「でも……」
「軽い怪我まで回復してたら、魔力が足りなくなる。一人でも多く救いたいなら、そうしろ」
少しの沈黙のあと、リヴィアは静かに頷いた。
「……わかりました」
「ルドも、手分けして建物の中の人を助けてくれ」
「わかった」
「中に人がいたら、錬金術で建物を上から少しずつ分解していけ」
「了解」
ハルトは腰の道具を指さす。
「何かあったら、これ――『トランシーバー』で連絡」
「「わかった」」
こうして三人は散り、崩壊したオルミナの町を駆け回った。
瓦礫の下から助けを求める声を拾い、倒れた建物を慎重に崩し、負傷者を運ぶ。
時間の感覚は失われ、ただ目の前の命を救うことだけに集中していた。
やがて、夕暮れの中でイセリオが深く頭を下げた。
「三人とも、本当にありがとう。おぬしらのおかげで、被害は最小限で済んだ」
そう言って、簡素な食事を差し出す。
「今はこれくらいしかできんが……食べてくれ」
「ありがとう」
三人は並んで腰を下ろし、パンを口にした。
「……ん?」
ハルトが眉をひそめる。
「わぁ……」
「すごい……魔力が、どんどん湧いてきます」
体の奥から力が溢れてくる感覚に、リヴィアが目を見開く。
「……あのジジイ。この飯になんか仕込みやがったな。どんな魔法だよ」
文句を言いながらも、三人は食事を平らげた。
すると、抗えないほどの強い眠気が一気に押し寄せる。
「……あのじじい……」
ハルトの意識は、その言葉を最後に闇へと沈んでいった。
朝靄の残る街の外れで、イセリオはハルトを見送っていた。
「……行くのか」
低く、どこか名残を含んだ声だった。
「ああ。イセリオの話を聞けただけで、オルミナに来れてよかったよ」
ハルトはそう言って、静かに答える。
「すまんのぉ。大した歓迎もしてやれんで」
「いや、仕方ないさ」
短い沈黙の後、イセリオは空を見上げるようにして呟いた。
「やはり難しいの……人間との共存は」
「ああ。でも――」
ハルトは迷いなく言った。
「いつか必ず叶うさ」
「それが、いつになるやら……」
「大丈夫だって――」
その言葉の途中だった。
――ゴゴッ。
足元から、鈍く重い衝撃が伝わってきた。
次の瞬間、地面が大きくうねる。
「……ッ!?」
ドン、ドン、と大太鼓を叩くような振動が連続し、立っていることすら難しくなる。
建物の壁が軋み、石と木が悲鳴を上げた。
「地震だ!」
誰かの叫び声が街に響く。
直後、轟音とともに石造りの建物が崩れ落ちた。
屋根が砕け、壁が裂け、粉塵が一気に空を覆う。
「うわあああっ!」
悲鳴。
怒号。
何が起きているのかわからないまま、人々が必死に逃げ惑う。
地面はなおも揺れ続け、道は波打ち、塔の上部がゆっくりと傾いたかと思うと次の瞬間、轟音を立てて崩壊した。
「くっ……!」
ハルトは踏ん張り、即座に周囲を見渡す。
オルミナの街は、まるで巨大な獣に踏み荒らされたかのように、次々と壊れていった。
土煙の向こうで、人影が倒れ、瓦礫に埋もれていく。
イセリオも杖を突き、必死に体勢を保っていた。
「これは……ただの地震ではない……」
揺れはまだ、収まる気配を見せない。
静かだったオルミナの朝は、
一瞬にして――災厄の只中へと変わった。
「リヴィア、防御魔法」
「はい」
短い返事と同時に、リヴィアの詠唱が終わる。
三人を包むように淡い防護の光が広がり、その直後、地面が激しく跳ね上がった。
建物が悲鳴を上げるように軋み、瓦礫が転がり落ちる音が町中に響く。
揺れは容赦なく続き、立っているだけで精一杯だった。
それでも、二分、三分と時間が経つにつれ、次第に揺れは弱まっていく。
「……おさまったか?」
ハルトが慎重に周囲を見渡す。
町は、ひと目で分かるほどの被害を受けていた。崩れ落ちた家屋、裂けた地面、呆然と立ち尽くす人々。
「イセリオ。崩れた建物の中に、人がいるかもしれない。手分けして助けよう」
「わかった」
「俺に強化魔法を」
「はい」
リヴィアの魔力がハルトの身体に流れ込み、全身が軽くなる。
「リヴィアは病院へ行って、怪我人の回復を」
「はい」
「命に関わるほどひどい人だけだ」
一瞬、リヴィアの動きが止まる。
「でも……」
「軽い怪我まで回復してたら、魔力が足りなくなる。一人でも多く救いたいなら、そうしろ」
少しの沈黙のあと、リヴィアは静かに頷いた。
「……わかりました」
「ルドも、手分けして建物の中の人を助けてくれ」
「わかった」
「中に人がいたら、錬金術で建物を上から少しずつ分解していけ」
「了解」
ハルトは腰の道具を指さす。
「何かあったら、これ――『トランシーバー』で連絡」
「「わかった」」
こうして三人は散り、崩壊したオルミナの町を駆け回った。
瓦礫の下から助けを求める声を拾い、倒れた建物を慎重に崩し、負傷者を運ぶ。
時間の感覚は失われ、ただ目の前の命を救うことだけに集中していた。
やがて、夕暮れの中でイセリオが深く頭を下げた。
「三人とも、本当にありがとう。おぬしらのおかげで、被害は最小限で済んだ」
そう言って、簡素な食事を差し出す。
「今はこれくらいしかできんが……食べてくれ」
「ありがとう」
三人は並んで腰を下ろし、パンを口にした。
「……ん?」
ハルトが眉をひそめる。
「わぁ……」
「すごい……魔力が、どんどん湧いてきます」
体の奥から力が溢れてくる感覚に、リヴィアが目を見開く。
「……あのジジイ。この飯になんか仕込みやがったな。どんな魔法だよ」
文句を言いながらも、三人は食事を平らげた。
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ハルトの意識は、その言葉を最後に闇へと沈んでいった。
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