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第二話「宗教勧誘にご用心」
2-3 彩芽side
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「そこの学生さん!」
「はい、何ですか?」
男子学生がおばさんに話しかけられた。
「ちょっとね、お時間あるかなー?」
「いや、あんま無いんですけど」
男子学生がおばさん二人組に捕まった。
なんか聞き覚えがあるような無いような。まぁ、でも、とりあえず今のうちに横をすり抜けよう。
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからお話していいかなー?」
「いや、そういうのはちょっと……」
ほら、やっぱりやばい奴じゃん、多分だけど。
「あー、ぎん――」
「ちょっとお姉ちゃん」
彩香の手を引っ張り歩く。
「お、おお、彩芽どうしたのー」
男子学生の隣で足を止めようとする彩香を無理矢理引っ張って学内に無事辿り着いた。後ろの方で聞こえる声に耳を澄ませる。
「いや、だからそういうの興味無いんで……」
「ね、いいから。きっと貴方にも良い事が起きるから!」
「いや、既に良い事あったんで大丈夫です」
「ちょっとだけでもお話を……」
おばさんの攻撃に必死に抵抗している男子学生の声。
ほら見たことか。しつこい宗教勧誘だったじゃないか。まぁ、申し訳ないけど貴方の事は忘れないわ。最後に顔だけは覚えていてあげなくちゃ可哀そうかな。
「なっ……!」
――彩芽が振り向いた時、捕まっていたのは銀治であった。
え、まさか同じ道だったの……確かに見覚えのある格好だったし声だったけど、まさかのぎ、ぎ、銀……。
「お、彩芽どしたー?」
「う、ううん。何でもないよ。早く行こ」
「?」
疑問符を浮かべて頭を傾ける彩香をそのまま引っ張りつつ、一限目の英語の教室へと向かった。
「――ワッツアップはつまり、ワッツとアップに分けるのではなくワッツァップと言います」
先生が懸命に話すも真面目に聞いているのは二列目までの生徒だけなようで、五列目辺りに座っている私の周りはスマホをいじったり隣の人とのお喋りに夢中のようだ。
「……」
それにしても、一限あたり一時間半の講義……長過ぎない? まだ三十分も経ってないし……。
中高の教室に似た空間でざっと二十人くらいの人達と英語の講義。机は二人分の幅で横に三列、後ろまでは十列以上並んでいる。席は半分も埋まっていない。
こう見ると高校とあんまり変わんないなぁ。
「――であるからして、これからの日本の社会も英会話というものが必要不可欠になってくるのでありますよ」
「……」
じー……。先生の坊主頭に目が行ってしまう……。
英語の先生が坊主頭で教卓に立っている違和感がすごくてあんまり授業に集中できない……。如何にも体育会系の学年主任みたいな人がどうして英語の教師になったんだろう。授業よりもそっちの方が気になるわ。
彩香は隣で授業開始五分で寝息立て始めたし……。スポーツ出来て勉強がいまいちってどんだけテンプレなの……。
「彩香……彩香起きなさいってば……」
先生に分からないように彩香の足を蹴る。
「すー……すー……」
横目でチラッと確認すると机の外側に彩香の胸がぶら下がっているのが見える。
どうやったそんなものぶら下げて寝れるの……。頭の位置変える度に揺れてるし……嫌がらせか、嫌がらせなのか。
「……」
そういえば朝見かけた銀……あの人大丈夫だったかな。学内で全然見かけなかったしどうしてたん……――
「っ……!」
――ふと彩芽の記憶に浮かんだのは階段から銀治に顔面ダイブした瞬間であった。
せっかく忘れてたってのに……くっそー……。あのせいで二日間くらい脇とま、ま……股……ごほん……。ダメだダメだ。授業に集中しなきゃ……。
結局授業終わりまで寝続けた彩香の分まで教卓に置かれた課題を受け取りに行く。
「ん?」
教卓に手をついて見下すようにこちらを見つめてくる先生。ああ、そうですよ、小さいですよ……子どもみたいな体型でどうもすみませんねー……。
くそっ……じっと見やがってぇ……今に見てろ……絶対大きくなってやる……。
プリントを握る手に力を込めながら席に戻る。
「……彩香、次行くよ」
「……ん?」
「ん、じゃなくて次のとこ」
彩香を叩き起こす。
「え……ちょちょ、彩芽痛いってばー」
「ふんっ……」
クリアファイルにプリント二部を挟んでと。
「んじゃ」
次の心理学の講義室の場所へと向かう。
「彩芽ー待ってー」
廊下に出て数歩で慌てた彩香が追いついてきた。
「ふぁ~……」
大学の廊下を誰よりも眠たそうに歩く彩香。
「……彩香さ、私より寝てたよね」
ジト目で横を歩く彩香を見つめる。
「いやー、夜中まで色々やってたからさー」
色々……?
「色々ってなに?」
「あ……」
「なに……その言っちゃまずかったような顔……」
「いえー、なんでもないよー? あはは、あはははー……」
彩香のぎこちない笑い声に大体の予想はつく。
「写真、勝手に撮ってたなら消してね」
「うっ……」
やっぱりかい。
「はぁ……コスプレしてる時はいいけど、基本的に撮らないでって言ってるじゃん」
「いやー、そのー、可愛くてつい」
テヘッと頭を片手で押さえてやっちゃいましたポーズをとる彩香。
「……魔が差して、みたいな万引きする人みたいな言い訳しないでよ」
「えへへ」
「えへへ、じゃないっ。まったく……」
写真を撮られるの基本苦手なのに、それを分かっていて彩香は夜中にスマホを片手に私の寝顔を撮ってくる……やめて欲しい……。
「次やったら全消しするから」
「そんなぁ……私の唯一のライフワークが……」
悲しそうな顔で彩香が肩を落とし目が潤み始める。
「どんだけ歪んだライフワークよ。ほら、すぐそこの教室が次の場所だから」
「……」
「彩香?」
彩香の足音がしないので振り返ってみると、立ち止まったまま俯いて動かない彩香が。
「どうしたの?」
「……写真撮って良いって言うまで動かないもん」
「あっそう」
無視して先程と似た形の教室に入る。
初日に使ったあの広い講義室は大勢の学生を集めた時だけ使うのかな。
「彩芽待ってぇええ!」
閉まりかけの扉の向こうから姉の悲鳴のような叫び声が聞こえる。
結局、心理学の授業も寝続けた彩香を放置して私はノートを書き続けた。
「はい、何ですか?」
男子学生がおばさんに話しかけられた。
「ちょっとね、お時間あるかなー?」
「いや、あんま無いんですけど」
男子学生がおばさん二人組に捕まった。
なんか聞き覚えがあるような無いような。まぁ、でも、とりあえず今のうちに横をすり抜けよう。
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからお話していいかなー?」
「いや、そういうのはちょっと……」
ほら、やっぱりやばい奴じゃん、多分だけど。
「あー、ぎん――」
「ちょっとお姉ちゃん」
彩香の手を引っ張り歩く。
「お、おお、彩芽どうしたのー」
男子学生の隣で足を止めようとする彩香を無理矢理引っ張って学内に無事辿り着いた。後ろの方で聞こえる声に耳を澄ませる。
「いや、だからそういうの興味無いんで……」
「ね、いいから。きっと貴方にも良い事が起きるから!」
「いや、既に良い事あったんで大丈夫です」
「ちょっとだけでもお話を……」
おばさんの攻撃に必死に抵抗している男子学生の声。
ほら見たことか。しつこい宗教勧誘だったじゃないか。まぁ、申し訳ないけど貴方の事は忘れないわ。最後に顔だけは覚えていてあげなくちゃ可哀そうかな。
「なっ……!」
――彩芽が振り向いた時、捕まっていたのは銀治であった。
え、まさか同じ道だったの……確かに見覚えのある格好だったし声だったけど、まさかのぎ、ぎ、銀……。
「お、彩芽どしたー?」
「う、ううん。何でもないよ。早く行こ」
「?」
疑問符を浮かべて頭を傾ける彩香をそのまま引っ張りつつ、一限目の英語の教室へと向かった。
「――ワッツアップはつまり、ワッツとアップに分けるのではなくワッツァップと言います」
先生が懸命に話すも真面目に聞いているのは二列目までの生徒だけなようで、五列目辺りに座っている私の周りはスマホをいじったり隣の人とのお喋りに夢中のようだ。
「……」
それにしても、一限あたり一時間半の講義……長過ぎない? まだ三十分も経ってないし……。
中高の教室に似た空間でざっと二十人くらいの人達と英語の講義。机は二人分の幅で横に三列、後ろまでは十列以上並んでいる。席は半分も埋まっていない。
こう見ると高校とあんまり変わんないなぁ。
「――であるからして、これからの日本の社会も英会話というものが必要不可欠になってくるのでありますよ」
「……」
じー……。先生の坊主頭に目が行ってしまう……。
英語の先生が坊主頭で教卓に立っている違和感がすごくてあんまり授業に集中できない……。如何にも体育会系の学年主任みたいな人がどうして英語の教師になったんだろう。授業よりもそっちの方が気になるわ。
彩香は隣で授業開始五分で寝息立て始めたし……。スポーツ出来て勉強がいまいちってどんだけテンプレなの……。
「彩香……彩香起きなさいってば……」
先生に分からないように彩香の足を蹴る。
「すー……すー……」
横目でチラッと確認すると机の外側に彩香の胸がぶら下がっているのが見える。
どうやったそんなものぶら下げて寝れるの……。頭の位置変える度に揺れてるし……嫌がらせか、嫌がらせなのか。
「……」
そういえば朝見かけた銀……あの人大丈夫だったかな。学内で全然見かけなかったしどうしてたん……――
「っ……!」
――ふと彩芽の記憶に浮かんだのは階段から銀治に顔面ダイブした瞬間であった。
せっかく忘れてたってのに……くっそー……。あのせいで二日間くらい脇とま、ま……股……ごほん……。ダメだダメだ。授業に集中しなきゃ……。
結局授業終わりまで寝続けた彩香の分まで教卓に置かれた課題を受け取りに行く。
「ん?」
教卓に手をついて見下すようにこちらを見つめてくる先生。ああ、そうですよ、小さいですよ……子どもみたいな体型でどうもすみませんねー……。
くそっ……じっと見やがってぇ……今に見てろ……絶対大きくなってやる……。
プリントを握る手に力を込めながら席に戻る。
「……彩香、次行くよ」
「……ん?」
「ん、じゃなくて次のとこ」
彩香を叩き起こす。
「え……ちょちょ、彩芽痛いってばー」
「ふんっ……」
クリアファイルにプリント二部を挟んでと。
「んじゃ」
次の心理学の講義室の場所へと向かう。
「彩芽ー待ってー」
廊下に出て数歩で慌てた彩香が追いついてきた。
「ふぁ~……」
大学の廊下を誰よりも眠たそうに歩く彩香。
「……彩香さ、私より寝てたよね」
ジト目で横を歩く彩香を見つめる。
「いやー、夜中まで色々やってたからさー」
色々……?
「色々ってなに?」
「あ……」
「なに……その言っちゃまずかったような顔……」
「いえー、なんでもないよー? あはは、あはははー……」
彩香のぎこちない笑い声に大体の予想はつく。
「写真、勝手に撮ってたなら消してね」
「うっ……」
やっぱりかい。
「はぁ……コスプレしてる時はいいけど、基本的に撮らないでって言ってるじゃん」
「いやー、そのー、可愛くてつい」
テヘッと頭を片手で押さえてやっちゃいましたポーズをとる彩香。
「……魔が差して、みたいな万引きする人みたいな言い訳しないでよ」
「えへへ」
「えへへ、じゃないっ。まったく……」
写真を撮られるの基本苦手なのに、それを分かっていて彩香は夜中にスマホを片手に私の寝顔を撮ってくる……やめて欲しい……。
「次やったら全消しするから」
「そんなぁ……私の唯一のライフワークが……」
悲しそうな顔で彩香が肩を落とし目が潤み始める。
「どんだけ歪んだライフワークよ。ほら、すぐそこの教室が次の場所だから」
「……」
「彩香?」
彩香の足音がしないので振り返ってみると、立ち止まったまま俯いて動かない彩香が。
「どうしたの?」
「……写真撮って良いって言うまで動かないもん」
「あっそう」
無視して先程と似た形の教室に入る。
初日に使ったあの広い講義室は大勢の学生を集めた時だけ使うのかな。
「彩芽待ってぇええ!」
閉まりかけの扉の向こうから姉の悲鳴のような叫び声が聞こえる。
結局、心理学の授業も寝続けた彩香を放置して私はノートを書き続けた。
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