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第四話「銀髪美少女三原則その三、悲しませない」
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買い物袋をベンチに置いて再び着席して、ベンチの両端に俺と彩芽が座る。
「……」
いざこうなると話題が思い浮かばない……。
「……あ、そういえば、なんで絡まれていたんですか?」
ふとした疑問を彩芽に問いかける。
彩芽は一瞬こちらを見た後に足元を見つめて俯いた。
「まぁ、ああいうのは昔からだから……」
少し笑ってはいるものの、その表情はどことなく悲しそうに見えた。
「昔から?」
「うん、昔から……。彩香ってさ、スタイル良いでしょ……だから、いつも一緒に居る私に連絡先とか聞いてくるんだよね……」
なんと見る目の無い奴らなんだ。こんなにも可愛いツンデレ天然の天使が目の前に居るというのに……。国宝級の女の子が目の前に居るのに気が付かないとは、なんと哀れな……。
この尊さを――
「何も分かってないですね」
「え?」
視線をこちらに向ける彩芽と目が合わないように目線を逸らす。
「……あ、いや、こっちの話です」
「そう? ……まぁ、悪気はないんだろうけどさ。でも私、男の人ダメだから……触られると怖くて震えちゃうんだ……」
「……」
悲愴に満ちた面持ちで呟く彩芽にかける言葉が思い浮かばなかった。
まぁ、誰にだって一つや二つ言いたくても言えない事はある。無理に問いかけた所で相手を傷付けるだけなら聞かない方が良いこともある。
「そうだったんですね」
俺は何事もなかったかのように淡々と返事を返した。
人とあまり関わって来なかったおかげか、心に壁を隔てることは案外得意らしい。
高まる鼓動も今のうちに自制心で押さえつけなければ……。
彩芽がベンチの端からほんの僅かにだがこちらににじり寄ってくる。視界の端で微かに動いて近付いてくる。
「そ……」
「そ?」
聞こえた声に反応して顔を向ける。
「そっちが聞いて来たから私も質問っ!」
ベンチの椅子に手を置いて彩芽の顔が近くに接近した。麦わら帽子の下にはまだ赤い目と鼻先、潤んだままの青い瞳がこちらを見つめている。
ドクンと心臓が跳ねる。
くそっ……平常心……平常心だ……。
「ど、どうぞ」
「そ、その……」
こっちを見たり逸らしたりする動作一つひとつが可愛い……。
「ぎ、銀……銀治はなんで関西弁だったり敬語だったりするのかなって……」
「……ん?」
あれ、もしかして今初めて名前呼ばれたのか?
そういえば出会ってから一回も名前言っても無いし呼んでもないのか……。
「ちょっと、聞いてるんですけど……」
上目遣いで覗き込んでくる彩芽にまたドキドキし始める。多分、これを俗に魔性と言うんだろうな。こんなのを照れながらされたら健全な男としては我慢できないぞ……。
「聞いてるんですけどー」
「あ、ああ、すみません……」
彩芽から距離をとろうとして下がろうとするが、ベンチから落ちそうになってガクッと身体が揺れる。
「だ、大丈夫っ?」
「だ、大丈夫です」
今更、俺は何に緊張しているんだろうか……。
「なんかあんたと一緒だと調子狂うなぁ……もう……」
前を向き直して麦わら帽子のつばを両手で持って深く被りなおす彩芽。
今のうちに深呼吸……深呼吸だ……。
「質問の答え、聞いてないんだけど……」
口をムッとさせ、ジト目でこちらを見つめてくる姿に俺は平静を装って言葉を返す。
「その……父が警官で言葉が硬くて……なのに母が関西弁を使うからごちゃごちゃになってしまってこんな事に……」
「ふ、ふーん……そうなんだ」
彩芽はベンチに手をついて両足をぶらぶらさせながら呟いた。
「やっぱり変、ですよね……」
ボソッと本音が零れる。
「い、いや、変じゃないよ! ……なんで関西弁なのかなって単純な質問で……敬語使われるのが嫌だったっていうかさっきの思い出したら確かに言い方きついかもしれないけど守ってくれたし怒った時ちょっとカッコ良かったなっていうかなんというか……」
「ん? すみません、早口で聞き取れないです」
何を言っているのか聞こえづらいので体をベンチの真ん中に寄せていく。
「い、いや、なんでもないっ! なんでもないから!」
身振り手振りで慌てふためく彩芽。
生まれてから今まで俺が人に固執するなんてなかったのに、出会ってからというもの、頭の中から彩芽が消えない……。最初の頃は確かに白パンと柔らかい太もものイメージが頭一杯に広がっていたが今は違う……。なんか意識すると良い香りがする。
怒っていても泣いていても、何をしていても、頭から離れないのは多分――
「す……っ――」
急いで口元を手の甲で押さえる。
危ない……出してはいけない言葉が口から出そうになった……。
「す……なに?」
「いえ、なんでもないです」
走り終わってから時間が経つというのに心臓の鼓動が収まらずに余計に激しくなる。緊張……ではない別の何かで体が強張っていく。
こういうのは慣れていないんだ……。
「その、同い年だからさ……」
俯きながら、もじもじしながら言う仕草がいちいち可愛いのでやめて欲しい……いや、やっぱりやめないで欲しい……。
「出来れば敬語はやめて欲しいんだけど……」
言い終えて振り向いた彩芽と視線が交じる。
「それは……」
覗き込むような体制の彩芽に思わず心臓がグッと掴まれる。
「ダメ……なの?」
身長差的にも上目遣いになるのは分かる……分かるが、手をついてこちらに体を寄せながら言われたら嫌でも意識してしまうだろう……。
「……」
耐え切れず視線を外す。
「ど、どう、なのよ……」
じりじりと近寄ってくる姿が視界の端に移り込む。
「俺は……」
そう呟きながら俺は目線を彩芽に映す。頬を染めて近寄ってくる彩芽にまた鼓動が速くなる。
「むぅ……」
言葉を崩してしまえば口からさっきの言葉が漏れそうで……。
高鳴っている胸の鼓動に任せて口を開けば自然に言ってしまいそうで……。
でも、今はまだ距離を置いておきたい。置いておかなければいけない――
「俺は紳士なので」
……だから作り笑いでごまかそう。
「何それ……」
眉をしかめてご機嫌斜めになる彩芽。
「今はまだ彩芽さんを守る紳士ということで良いですかね?」
「あ、彩芽って名前……」
「あ……」
彩芽の顔全体が真っ赤になる。俺もなんだか頬が熱くなりそっぽを向いた。
「……」
いざこうなると話題が思い浮かばない……。
「……あ、そういえば、なんで絡まれていたんですか?」
ふとした疑問を彩芽に問いかける。
彩芽は一瞬こちらを見た後に足元を見つめて俯いた。
「まぁ、ああいうのは昔からだから……」
少し笑ってはいるものの、その表情はどことなく悲しそうに見えた。
「昔から?」
「うん、昔から……。彩香ってさ、スタイル良いでしょ……だから、いつも一緒に居る私に連絡先とか聞いてくるんだよね……」
なんと見る目の無い奴らなんだ。こんなにも可愛いツンデレ天然の天使が目の前に居るというのに……。国宝級の女の子が目の前に居るのに気が付かないとは、なんと哀れな……。
この尊さを――
「何も分かってないですね」
「え?」
視線をこちらに向ける彩芽と目が合わないように目線を逸らす。
「……あ、いや、こっちの話です」
「そう? ……まぁ、悪気はないんだろうけどさ。でも私、男の人ダメだから……触られると怖くて震えちゃうんだ……」
「……」
悲愴に満ちた面持ちで呟く彩芽にかける言葉が思い浮かばなかった。
まぁ、誰にだって一つや二つ言いたくても言えない事はある。無理に問いかけた所で相手を傷付けるだけなら聞かない方が良いこともある。
「そうだったんですね」
俺は何事もなかったかのように淡々と返事を返した。
人とあまり関わって来なかったおかげか、心に壁を隔てることは案外得意らしい。
高まる鼓動も今のうちに自制心で押さえつけなければ……。
彩芽がベンチの端からほんの僅かにだがこちらににじり寄ってくる。視界の端で微かに動いて近付いてくる。
「そ……」
「そ?」
聞こえた声に反応して顔を向ける。
「そっちが聞いて来たから私も質問っ!」
ベンチの椅子に手を置いて彩芽の顔が近くに接近した。麦わら帽子の下にはまだ赤い目と鼻先、潤んだままの青い瞳がこちらを見つめている。
ドクンと心臓が跳ねる。
くそっ……平常心……平常心だ……。
「ど、どうぞ」
「そ、その……」
こっちを見たり逸らしたりする動作一つひとつが可愛い……。
「ぎ、銀……銀治はなんで関西弁だったり敬語だったりするのかなって……」
「……ん?」
あれ、もしかして今初めて名前呼ばれたのか?
そういえば出会ってから一回も名前言っても無いし呼んでもないのか……。
「ちょっと、聞いてるんですけど……」
上目遣いで覗き込んでくる彩芽にまたドキドキし始める。多分、これを俗に魔性と言うんだろうな。こんなのを照れながらされたら健全な男としては我慢できないぞ……。
「聞いてるんですけどー」
「あ、ああ、すみません……」
彩芽から距離をとろうとして下がろうとするが、ベンチから落ちそうになってガクッと身体が揺れる。
「だ、大丈夫っ?」
「だ、大丈夫です」
今更、俺は何に緊張しているんだろうか……。
「なんかあんたと一緒だと調子狂うなぁ……もう……」
前を向き直して麦わら帽子のつばを両手で持って深く被りなおす彩芽。
今のうちに深呼吸……深呼吸だ……。
「質問の答え、聞いてないんだけど……」
口をムッとさせ、ジト目でこちらを見つめてくる姿に俺は平静を装って言葉を返す。
「その……父が警官で言葉が硬くて……なのに母が関西弁を使うからごちゃごちゃになってしまってこんな事に……」
「ふ、ふーん……そうなんだ」
彩芽はベンチに手をついて両足をぶらぶらさせながら呟いた。
「やっぱり変、ですよね……」
ボソッと本音が零れる。
「い、いや、変じゃないよ! ……なんで関西弁なのかなって単純な質問で……敬語使われるのが嫌だったっていうかさっきの思い出したら確かに言い方きついかもしれないけど守ってくれたし怒った時ちょっとカッコ良かったなっていうかなんというか……」
「ん? すみません、早口で聞き取れないです」
何を言っているのか聞こえづらいので体をベンチの真ん中に寄せていく。
「い、いや、なんでもないっ! なんでもないから!」
身振り手振りで慌てふためく彩芽。
生まれてから今まで俺が人に固執するなんてなかったのに、出会ってからというもの、頭の中から彩芽が消えない……。最初の頃は確かに白パンと柔らかい太もものイメージが頭一杯に広がっていたが今は違う……。なんか意識すると良い香りがする。
怒っていても泣いていても、何をしていても、頭から離れないのは多分――
「す……っ――」
急いで口元を手の甲で押さえる。
危ない……出してはいけない言葉が口から出そうになった……。
「す……なに?」
「いえ、なんでもないです」
走り終わってから時間が経つというのに心臓の鼓動が収まらずに余計に激しくなる。緊張……ではない別の何かで体が強張っていく。
こういうのは慣れていないんだ……。
「その、同い年だからさ……」
俯きながら、もじもじしながら言う仕草がいちいち可愛いのでやめて欲しい……いや、やっぱりやめないで欲しい……。
「出来れば敬語はやめて欲しいんだけど……」
言い終えて振り向いた彩芽と視線が交じる。
「それは……」
覗き込むような体制の彩芽に思わず心臓がグッと掴まれる。
「ダメ……なの?」
身長差的にも上目遣いになるのは分かる……分かるが、手をついてこちらに体を寄せながら言われたら嫌でも意識してしまうだろう……。
「……」
耐え切れず視線を外す。
「ど、どう、なのよ……」
じりじりと近寄ってくる姿が視界の端に移り込む。
「俺は……」
そう呟きながら俺は目線を彩芽に映す。頬を染めて近寄ってくる彩芽にまた鼓動が速くなる。
「むぅ……」
言葉を崩してしまえば口からさっきの言葉が漏れそうで……。
高鳴っている胸の鼓動に任せて口を開けば自然に言ってしまいそうで……。
でも、今はまだ距離を置いておきたい。置いておかなければいけない――
「俺は紳士なので」
……だから作り笑いでごまかそう。
「何それ……」
眉をしかめてご機嫌斜めになる彩芽。
「今はまだ彩芽さんを守る紳士ということで良いですかね?」
「あ、彩芽って名前……」
「あ……」
彩芽の顔全体が真っ赤になる。俺もなんだか頬が熱くなりそっぽを向いた。
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