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第五話「銀髪の幼馴染」

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「……」

 なんだかとても柔らかい枕だな……こんな枕買った記憶はないんだが、とても心地良い……。 手に触った感触もつるつるで少しひんやりしていて、なのに人肌のような温かさが奥の方から感じられる……気持ちいい……。

 それにしてもやけに柔らかい枕だな――

「ひゃんっ……」
「ん……?」

 聞き覚えのある声に薄目を開くと、見覚えのあるミニジーンズとTシャツが視界の大半を覆っていた。
 寝ぼけつつ、横向きになっていた身体を上に向けてみる。

「ぎ、ギン君のエッチ……♪」

 ふんわりと握った手を口元に寄せて顔を赤らめるミハイルが居た。

「なんだ……ミー君か……」

 柔らかいものは太ももだったんだな……。
 寝起きのせいでいまいちピンとこないが、俺は知らないうちにミハイルに膝枕されていたらしい……。
 頭を優しく撫でられながら未だに夢見心地な気分だ……。うん、夢かもしれないな……。

「ギン君ってさ、膝枕って初めてかなー♪」
「まぁ、そうだな……」
「そっかそっかー♪ ギン君の初めてゲットしたぞぉー♪ やったね♪」

 子どもっぽい無邪気な笑みを浮かべるミハイルの頭に手をそっと置く。
 よしよし。

「きゅ、急にどしたのかなっ?」

 ミハイルの顔が少し赤くなる。

「よく分からんが、ありがとう……」
「なにゃっ……⁉」

 真っ赤になったミハイルの顔を見ながらだんだんと意識がハッキリして……。

「――なっ!」

 俺は離れるように転がり一定の距離を置いて片膝をついてミハイルを睨みつけた。
 俺としたことが一体何をしていたんだ……。なぜミハイルに膝枕されて頭を撫でているんだ……。

 後悔と絶望が共に押し寄せてくる感覚に床に頭を叩きつけた。
 いくら女の子っぽいからと言って男の頭を撫でるなんて……男に膝枕されるなんて……。初めては彩芽が良かったのに……俺のファースト膝枕が奪われた……。

 ミハイルは膝の上で手をぐっと握ったまま俯いて硬直している。

「なんで今更お前が照れているんだ……」
「い、いや~……、好きな人に撫でられると、思ってたよりキュンとしちゃうもんですなー♪ なんちゃってー……♪」

 くそ……、寝起きでそんな「心に響く言葉ベストテン」みたいな単語をよくもつらつらと……。

「ってか、今何時だよ……」
「い、今は七時だよ!」
「そうか……」
「う、うん……!」

 さっきまで流暢(りゅうちょう)話していたのになぜ急にこいつはテンパっているんだ……。

「……」

 なんとも言い難い空気が部屋に流れ、とりあえず胡坐をかいて座り直す。

「あぁ……もう……最悪だ……」
「そ、そうかなぁ……えへへ……♪」

 膝の上に肘を乗せて頭を抱える。
 そういえば腹、減ったな……。そうか、朝も昼も食べていないのか……。

「とりあえず……飯でも食べて落ち着こう……」
「そ、そうだねっ!」

 とは言ったものの食材はないし、最近まともに食べてないからどうしたものか……。
 ピンポーン♪

「ん……誰だろう……?」
「ぼ、ボクが出てくるよ!」

 軽い身のこなしで立ち上がり玄関に向かうミハイル。

「お、おい、待て」
「だ、大丈夫だからギン君は座ってていいよ!」

 一つ屋根の下に男と男……の娘という状況は非常にマズい……。
 すぐにあとを追いかけて廊下でミハイルの手を掴む。

「待てって言ってるだろうが……」
「ぎ、ギン君っ……い、今襲うのはタイミングが違うと言うかなんと言うか……その、ボクは別に良いんだけど……むしろ本望と言いますか…………いや、でもダメ! 今はやっぱりダメッ!」

 照れたり笑ったり微笑んだり、頭を振って狂気乱舞するミハイルを居間の方へと引っ張る。

「やん……ギン君が強引に……♪」
「違う、お前が出たらややこしくなるから……。いいからじっとしてろ」
「そんなに強く言われたら断れないよぉー♪ ムフーッ♪」
「あー、はいはい……」

 とりあえず放置しないと先に進まん……。

 ピンポーン♪

 居間にミハイルを置き去りにして玄関まで歩きドアノブを握る。

「ギンくーんっ♪」
「うっ……!」
「やっぱりこの気持ちは抑えられないよぉー♪」

 後ろから飛びついてきたミハイルのせいでそのまま玄関が少し開いた。勢いに乗って開いていく扉の先に見えたのは――

「あ、彩芽さんに彩香さん……」
「ど、どうも……」
「銀治君、やっほー!」

 俺はその場で凍り付いた。

 ああ、今ならアニメのラブコメ主人公の気持ちが分かる気がする。

 詰んだ……。

「よこしょよこしょ……」

 足を胴体に巻かれ、ごそごそと背中で動いていたミハイルが俺の後ろから顔を覗かせた。

「ん?」

 …………。
 一同沈黙。

 それはそうだろう、一人暮らしの男の家に【女の子】ならぬ【男の娘】に抱きつかれた状態で鉢合わせたのだから……。
 二人の視線は完全にミハイルに向いている。

 幼馴染の女の子姿の男に背中に抱きつかれてるだけなんです、違うんです、イチャコラとかそういう相手じゃないんです。襲われている側なんです。俺を透かして後ろの奴の顔をまじまじと見ないでください……後生です……。
 なんて長い弁明が口から出ることも無く、俺は硬直したまま動けなかった。

「あれ、なんでミーちゃんココに居るのー?」

 宝物を見つけたような目で彩香が最初に口を開いた。

「おおー、彩香~♪ にゃっほー♪」
「にゃっほー♪」

 ミーちゃんとは? 彩香とは? にゃっほーとは⁉ にゃっほーってなんだ⁉

「彩芽もにゃっほー♪」
「にゃ、にゃっほ……」

 恥ずかしいのか、照れながら挨拶する彩芽はやっぱり可愛かった。
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