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第三部「【龍の背―ドラゴンバック―】の地下空洞」
016
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ヴァーブ達がドラゴンバックの岩山から脱出したその日の夜――
扉の両端に置かれた松明の火から、ヴァーブ達と戦っていた時と同じ姿の獣人が映し出されている。
ドライと呼ばれていた鷹の獣人は岩山に埋め込まれた扉の前で怒り狂っていた。
「……あの生意気な人間共の目をくりぬき野鳥達の餌にしてくれる!」
そして、扉とドライの間に立っていたのは竜人アインスと獅子の獣人フィーアであった。
「ドライよ、大事はないか?」
座り込み拳を地面に打ち付けるドライへとアインスが問いかける。
「アインス殿……、人間如きにしてやられるとは面目次第もない……」
ドライは目を瞑り、怒りと悔しさで拳が震えていた。しかし、アインスは頷くだけで冷静に状況を見つめる。
「いや、お主が無事で良かった」
「……」
「して、お主が戦った者達は?」
「それが……、一人は肋骨を砕いたはず……、遠くへは行っていないと思って探したのですが、コレに騙されてしまいました……」
ドライがアインスに見せるように拳を広げると、その手の中には潰れたスープの器が握られていた。辛うじて器の形を保っていたそれは、ドライの指先によって板状に変形させられ地面へと投げ捨てられる。
――カランッ……。
乾いた音が岩山に虚しく響いていく。
「……ふむ、お主の声が聞こえて気になって出てきて良かった。中で休むといい」
「いや、しかし……!」
顔を上げてアインスを見ようとしたその時、フィーアがそっとドライの肩に手を乗せた。
フィーアは開いているのか開いていないのか判別の付かない目をドライへと向ける。
「まあまあ、変化して疲れてるでしょー?」
「フィーア殿まで……」
「ねえねえアインスー、僕が見ておくからさあ、ドライを休ませてあげてー」
フィーアはやる気があるのか無いのか、やはり欠伸しながら言葉を発した。
アインスは慣れた雰囲気で静かに頷く。
「うむ、任せたぞ」
「はーい。ドライ、立てるー?」
「ああ、問題ない……、すまないなフィーア殿……」
差し出されたフィーアの手を借りて立ち上がるドライ。そして、アインスはドライと共に岩山に埋められた石の扉の前に立った。
既に扉は開いており、不気味な仄暗い空間は地下へと伸びる階段が続いている。
「ドライよ、行くぞ」
「承知致しました……。フィーア殿、かたじけない」
「気にしないでー」
頭を下げるドライに対してフィーアは寛容に手を振って応える。
「ではフィーア、少しの間ここを頼んだぞ」
「はーい。ゆっくりしてるねー」
「……」
挨拶を交わしたアインスとドライは、壁に松明の火が灯る地下へと向かう階段を下りていった。
ドライは頭を押さえながらアインスの後ろを歩き、怒りを露わにする。
「次、あの者達が訪れた時は最初から全力でいく……あのような不意打ちで我が地に伏せるなど、生を授かってから最大の屈辱だ……!」
「人間……」
アインスはそう呟くと戦場での出来事を思い出した。黒い外套を羽織る者達。オーディーンの国の異様な気配を放つ者達のことを……。
先に階段を下りていくアインスは振り返らずにドライへと尋ねた。
「ドライよ、その者達は外套を羽織っておったか?」
「ん? ああ、赤い外套を纏った男と黒い外套の者、もう一人はドレスを着た女であったが……?」
「ふむ、そうか……」
アインスはそのまま黙した。だが、何かを知っているような雰囲気にドライは質問を飛ばさずにはいられない。
「アインス殿はあやつらが何者なのか知っているのか?」
「ふむ……」
アインスの解答には少しの間が生じた。
「……知らないが、知っている。なんとも言えない関係であることは間違いないな」
「どういう事か説明して頂いても?」
ドライの言葉にアインスは「うむ」と、静かに答えてから言葉を続けた。
「私とフィーアが戦場の様子を見に行ったであろう。その時に黒い外套を纏う者を二人見たのだ」
「ほう……」
ドライは嘴の先を触りながら怪訝な表情を浮かべ、アインスへと疑問を投げかける。
扉の両端に置かれた松明の火から、ヴァーブ達と戦っていた時と同じ姿の獣人が映し出されている。
ドライと呼ばれていた鷹の獣人は岩山に埋め込まれた扉の前で怒り狂っていた。
「……あの生意気な人間共の目をくりぬき野鳥達の餌にしてくれる!」
そして、扉とドライの間に立っていたのは竜人アインスと獅子の獣人フィーアであった。
「ドライよ、大事はないか?」
座り込み拳を地面に打ち付けるドライへとアインスが問いかける。
「アインス殿……、人間如きにしてやられるとは面目次第もない……」
ドライは目を瞑り、怒りと悔しさで拳が震えていた。しかし、アインスは頷くだけで冷静に状況を見つめる。
「いや、お主が無事で良かった」
「……」
「して、お主が戦った者達は?」
「それが……、一人は肋骨を砕いたはず……、遠くへは行っていないと思って探したのですが、コレに騙されてしまいました……」
ドライがアインスに見せるように拳を広げると、その手の中には潰れたスープの器が握られていた。辛うじて器の形を保っていたそれは、ドライの指先によって板状に変形させられ地面へと投げ捨てられる。
――カランッ……。
乾いた音が岩山に虚しく響いていく。
「……ふむ、お主の声が聞こえて気になって出てきて良かった。中で休むといい」
「いや、しかし……!」
顔を上げてアインスを見ようとしたその時、フィーアがそっとドライの肩に手を乗せた。
フィーアは開いているのか開いていないのか判別の付かない目をドライへと向ける。
「まあまあ、変化して疲れてるでしょー?」
「フィーア殿まで……」
「ねえねえアインスー、僕が見ておくからさあ、ドライを休ませてあげてー」
フィーアはやる気があるのか無いのか、やはり欠伸しながら言葉を発した。
アインスは慣れた雰囲気で静かに頷く。
「うむ、任せたぞ」
「はーい。ドライ、立てるー?」
「ああ、問題ない……、すまないなフィーア殿……」
差し出されたフィーアの手を借りて立ち上がるドライ。そして、アインスはドライと共に岩山に埋められた石の扉の前に立った。
既に扉は開いており、不気味な仄暗い空間は地下へと伸びる階段が続いている。
「ドライよ、行くぞ」
「承知致しました……。フィーア殿、かたじけない」
「気にしないでー」
頭を下げるドライに対してフィーアは寛容に手を振って応える。
「ではフィーア、少しの間ここを頼んだぞ」
「はーい。ゆっくりしてるねー」
「……」
挨拶を交わしたアインスとドライは、壁に松明の火が灯る地下へと向かう階段を下りていった。
ドライは頭を押さえながらアインスの後ろを歩き、怒りを露わにする。
「次、あの者達が訪れた時は最初から全力でいく……あのような不意打ちで我が地に伏せるなど、生を授かってから最大の屈辱だ……!」
「人間……」
アインスはそう呟くと戦場での出来事を思い出した。黒い外套を羽織る者達。オーディーンの国の異様な気配を放つ者達のことを……。
先に階段を下りていくアインスは振り返らずにドライへと尋ねた。
「ドライよ、その者達は外套を羽織っておったか?」
「ん? ああ、赤い外套を纏った男と黒い外套の者、もう一人はドレスを着た女であったが……?」
「ふむ、そうか……」
アインスはそのまま黙した。だが、何かを知っているような雰囲気にドライは質問を飛ばさずにはいられない。
「アインス殿はあやつらが何者なのか知っているのか?」
「ふむ……」
アインスの解答には少しの間が生じた。
「……知らないが、知っている。なんとも言えない関係であることは間違いないな」
「どういう事か説明して頂いても?」
ドライの言葉にアインスは「うむ」と、静かに答えてから言葉を続けた。
「私とフィーアが戦場の様子を見に行ったであろう。その時に黒い外套を纏う者を二人見たのだ」
「ほう……」
ドライは嘴の先を触りながら怪訝な表情を浮かべ、アインスへと疑問を投げかける。
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