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第六話「王様と執事の策略」
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「――封じられし魔物の王よ……我が軍門の名の元に、今こそ、その姿を現したまえ……」
「え、ちょっとセバスチャン? 封じられしってなんだ! 我が軍門ってなんだ!」
「ただの詠唱ですよー」
「そ、そうか……、それならいいんだが……その言い方だと、まるでセバスチャンが元魔王を封印したような――」
「あはは、またまたご冗談を♪ あ、来ますよー」
「え、そんな軽い感じで――――」
白い粉の中で雷鳴が轟き始め、白いはずのドーム状の中が灰色、黒色へとその色を変えていく。
「え、セバスチャン!? 本当に大丈夫なのか!?」
「だから、大丈夫って言ってるじゃないですかー、バカなんですか?」
「え? 音がひどくてなんて言ってるか分からんぞー!」
「アホ、ちょっとは痩せる努力をすればいいのにー。そんなんだから、ゼクスに娘を持っていかれるんじゃないんですかねー」
「え? 口が動いてるのは分かるが聞こえないぞー!」
「はぁ、まったくもう……お、そろそろかなぁ」
深淵のような暗闇のドームが地面に沈んでいき、床が禍々しい色に染まった。その中から浮き出るように現れたのは――
「む……現世か?」
そのどす黒い声に身長の高い執事が上を見上げ――
「おはよー」
と、とても軽い挨拶を交わした。
黒いマントを羽織り、屈強な筋肉がその内側に見える。頭に生えた二本の角、色黒の肌、彫りの深い顔が勇ましく執事を睨みつけた。
「貴様は……」
「やっほー、元気だったかい?」
「貴様、よくもこの我を――」
「ちょとちょっと! 耳貸して……」
手招きで元魔王を呼ぶ執事。その光景に王様は――――――――オロオロしていた。
「ん? なんだ……」
元魔王、つまり、魔王の父親が、床に膝をついて執事に耳を傾ける。
「あのね、娘さん倒されたから頑張って……」
「な、なんだと!」
「そういうことだから、頑張ってね♪」
執事は言い終えると、軽く元魔王の肩をたたいて背中を向けた。
「……今回は見逃してやる。だが、次は必ず貴様を――」
「あー、早く行かないと――」
振り返った執事の目が「殺すよ?」と告げていた。
「……くっ」
悔しそうにその場を去って行く元魔王……。執事は「いってらっしゃーい」と軽い感じで手を振る。
「お、おいセバスチャン……」
「はい?」
執事が振り向くと、王様は恐怖で震えていた。
「お、お主は何者なんだ……」
「やだなー♪ 王様の執事ですよー♪」
笑顔を振りまいている執事だが、起こした大規模な事象に――王様はただただ震えるしかできなかった。
***
「おーい、エン居るか?」
「いるよー」
「入るぞー」
扉を開けてベッドで寝転んでいるエンがこちらを向いていた。
「はぁ……」
壁に持たれて座り込む。
「どうしたんだよ」
「なんか、ここが一番落ち着くんだよ……」
ライの部屋はアリシアが居るし、スイには扉を閉められ、フウの部屋に行けば抱きつかれる……。
「どういうことだよ?」
「あまり気にしないでくれ……」
「うん?」
不思議そうに首を傾げるエン――
「やっぱりメイド服なのか」
「こ、これは、その……」
エンが照れた。
「なぁエン」
「な、なんだよ!」
「ちょっと雰囲気変えてみないか?」
「え? どういうこと?」
「前髪を上げてだな、服装も変えて――」
「い、いやだ!」
「スイが褒めてくれるかもしれないぞ?」
「……」
――スイの名前を出せばすぐだった。
「お、おい……本当にこんなのでいいのかよ……」
自分の姿を確認しながら、不安げな表情を浮かべるエン。
「ああ、バッチリだぞ」
赤い髪はオールバックに、半袖短パンに着替えるだけでだいぶ男の子っぽくなった。目つきもキリッとしているし同い年くらいの子どもと比べてもイケメンだろう。
「へ、変じゃないか?」
「男の子って感じでいいと思うぞ?」
「でも、みんなと雰囲気違うし……」
ああ、周りが女の子しか居ないから服装がおかしかったのか……。
「よし、スイの部屋に行くぞ」
「い、いいよ……別に……」
「なんでだ?」
「べ、別にいいだろ!」
うん、完全に照れ隠しだな。
「ほら、よしよし」
「そ、そんな手には乗らな――にゃぱぁ……♪」
堕ちるのが早いな……。
「――ということで行ってこい」
「うぅ……ほ、ほんとに変じゃないか?」
心配そうに見上げてくるエンの姿に胸がキュンキュンする……。これが純粋な若い気持ちなんだろうな……。
「ほら、大丈夫、今までよりもカッコいいぞ」
「ほんとかなぁ……」
「んっんん……『スイー、エンだけど入っていいかー?』」
「なっ! 勝手になに言って――」
「……エン? どう、したの?」
扉の向こうからスイの声が聞こえてきた。
「な! なにしてくれてるんだよ……!」
涙目になりながら慌てだすエンの背中を押して――
「大丈夫だから行ってこい」
「うぅ……分かったよ……」
扉を開けて中に入っていくエンを見送る。
「さてと……」
今日は昼になっても誰も来ないし、エンの部屋で寝かせてもらおう。
「……はぁ、やっぱりベッドで寝るのが一番だな」
エンはカッコよくなって俺はベッドで一休みできる。一つの出来事で二つも得をした。
「え、ちょっとセバスチャン? 封じられしってなんだ! 我が軍門ってなんだ!」
「ただの詠唱ですよー」
「そ、そうか……、それならいいんだが……その言い方だと、まるでセバスチャンが元魔王を封印したような――」
「あはは、またまたご冗談を♪ あ、来ますよー」
「え、そんな軽い感じで――――」
白い粉の中で雷鳴が轟き始め、白いはずのドーム状の中が灰色、黒色へとその色を変えていく。
「え、セバスチャン!? 本当に大丈夫なのか!?」
「だから、大丈夫って言ってるじゃないですかー、バカなんですか?」
「え? 音がひどくてなんて言ってるか分からんぞー!」
「アホ、ちょっとは痩せる努力をすればいいのにー。そんなんだから、ゼクスに娘を持っていかれるんじゃないんですかねー」
「え? 口が動いてるのは分かるが聞こえないぞー!」
「はぁ、まったくもう……お、そろそろかなぁ」
深淵のような暗闇のドームが地面に沈んでいき、床が禍々しい色に染まった。その中から浮き出るように現れたのは――
「む……現世か?」
そのどす黒い声に身長の高い執事が上を見上げ――
「おはよー」
と、とても軽い挨拶を交わした。
黒いマントを羽織り、屈強な筋肉がその内側に見える。頭に生えた二本の角、色黒の肌、彫りの深い顔が勇ましく執事を睨みつけた。
「貴様は……」
「やっほー、元気だったかい?」
「貴様、よくもこの我を――」
「ちょとちょっと! 耳貸して……」
手招きで元魔王を呼ぶ執事。その光景に王様は――――――――オロオロしていた。
「ん? なんだ……」
元魔王、つまり、魔王の父親が、床に膝をついて執事に耳を傾ける。
「あのね、娘さん倒されたから頑張って……」
「な、なんだと!」
「そういうことだから、頑張ってね♪」
執事は言い終えると、軽く元魔王の肩をたたいて背中を向けた。
「……今回は見逃してやる。だが、次は必ず貴様を――」
「あー、早く行かないと――」
振り返った執事の目が「殺すよ?」と告げていた。
「……くっ」
悔しそうにその場を去って行く元魔王……。執事は「いってらっしゃーい」と軽い感じで手を振る。
「お、おいセバスチャン……」
「はい?」
執事が振り向くと、王様は恐怖で震えていた。
「お、お主は何者なんだ……」
「やだなー♪ 王様の執事ですよー♪」
笑顔を振りまいている執事だが、起こした大規模な事象に――王様はただただ震えるしかできなかった。
***
「おーい、エン居るか?」
「いるよー」
「入るぞー」
扉を開けてベッドで寝転んでいるエンがこちらを向いていた。
「はぁ……」
壁に持たれて座り込む。
「どうしたんだよ」
「なんか、ここが一番落ち着くんだよ……」
ライの部屋はアリシアが居るし、スイには扉を閉められ、フウの部屋に行けば抱きつかれる……。
「どういうことだよ?」
「あまり気にしないでくれ……」
「うん?」
不思議そうに首を傾げるエン――
「やっぱりメイド服なのか」
「こ、これは、その……」
エンが照れた。
「なぁエン」
「な、なんだよ!」
「ちょっと雰囲気変えてみないか?」
「え? どういうこと?」
「前髪を上げてだな、服装も変えて――」
「い、いやだ!」
「スイが褒めてくれるかもしれないぞ?」
「……」
――スイの名前を出せばすぐだった。
「お、おい……本当にこんなのでいいのかよ……」
自分の姿を確認しながら、不安げな表情を浮かべるエン。
「ああ、バッチリだぞ」
赤い髪はオールバックに、半袖短パンに着替えるだけでだいぶ男の子っぽくなった。目つきもキリッとしているし同い年くらいの子どもと比べてもイケメンだろう。
「へ、変じゃないか?」
「男の子って感じでいいと思うぞ?」
「でも、みんなと雰囲気違うし……」
ああ、周りが女の子しか居ないから服装がおかしかったのか……。
「よし、スイの部屋に行くぞ」
「い、いいよ……別に……」
「なんでだ?」
「べ、別にいいだろ!」
うん、完全に照れ隠しだな。
「ほら、よしよし」
「そ、そんな手には乗らな――にゃぱぁ……♪」
堕ちるのが早いな……。
「――ということで行ってこい」
「うぅ……ほ、ほんとに変じゃないか?」
心配そうに見上げてくるエンの姿に胸がキュンキュンする……。これが純粋な若い気持ちなんだろうな……。
「ほら、大丈夫、今までよりもカッコいいぞ」
「ほんとかなぁ……」
「んっんん……『スイー、エンだけど入っていいかー?』」
「なっ! 勝手になに言って――」
「……エン? どう、したの?」
扉の向こうからスイの声が聞こえてきた。
「な! なにしてくれてるんだよ……!」
涙目になりながら慌てだすエンの背中を押して――
「大丈夫だから行ってこい」
「うぅ……分かったよ……」
扉を開けて中に入っていくエンを見送る。
「さてと……」
今日は昼になっても誰も来ないし、エンの部屋で寝かせてもらおう。
「……はぁ、やっぱりベッドで寝るのが一番だな」
エンはカッコよくなって俺はベッドで一休みできる。一つの出来事で二つも得をした。
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