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第二話「悪夢の調査」
~剛昌と春栄~
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王城への帰り道、剛昌の後ろを歩いていた兵士が、先程の会話が気になったのか、剛昌へと躊躇いながら話しかける。
「あの、剛昌様」
「なんだ」
「聞いていいものか分かりませんが……先程の話は一体……」
「気にしなくてもよい。ただ俺が気になっただけだ。他言無用で頼むぞ」
気にするなと言われると余計に気になってしまうもの。
続きを聞こうと声を発そうとした兵士は、横に歩いていた兵士に口元を手で塞がれた。兵士は横目で発言を止めた相手の顔を見つめた。すると、「やめろ」と言わんばかりに睨むその雰囲気に、口を押さえられた兵士は「解った」と、片手で小さく合図を送った。
その後、王城へと辿り着くまで、誰一人として口を開くことはなかった。
王城へと戻った剛昌は二人の兵士を解散させ兵舎へと帰し、自室へ入ると散らかしたままの机の上の書類を端へと寄せていた。
書類を取り除いた机には、少し汚れた手記が置かれていた。剛昌の開いたページには血が付着しており、剛昌はただただその文字を見つめている。
一通り目を通したのか、片手で閉じた手記からはパタンという音がし、再び机の上へと置くと剛昌は小さく呟いた。
「黒百合、か……」
黒百合の花言葉は「呪い」を意味する。手記の内容と呪いの意味する村……。
剛昌は春桜が死んでからというもの、独りでずっと調べ続けていた。
春桜は特に体調が悪かったわけでもない。ところが、亡くなる一週間ほど前から憔悴していったことを剛昌だけは気にかけていた。
春桜にそのことを尋ねるも否定され、「誰にも言うな」と口止めをされてしまったことで、信頼のおける翠雲にも言えず仕舞いとなった。
春桜の亡くなる少し前、翠雲は王城を出て休養をとりにいった。翠雲が何か裏で動いていた可能性も捨てがたい。それに加え、他の大臣の中に裏切り者が居るかもしれない。
剛昌は様々な思案をした結果、一人で春桜の身の回りを調べ続けていた。
これは、剛昌が「呪い」に導かれるまでの少し前の話――
春桜の死から三週間ほど経ったある日、王城全体がようやく落ち着いた頃、剛昌は二代目国王である春栄の元を訪ねていた。
玉座に居ない事を知り、剛昌は王室の方へと向かい扉を叩いた。
「失礼致します、春栄様」
「ああ、剛昌さん。どうしましたか?」
机の前で一人、書類に目を通している春栄が剛昌に微笑んだ。
「春桜様のことでお話があるのですが、よろしいでしょうか」
「父上のこと、ですか?」
「はい、何か春桜様の手記などがあれば拝見させて頂けないかと」
「父上の手記……ちょっと待ってくださいね」
春栄は部屋の隅に纏めていた春桜の遺品の中を探し始めた。己の願いで春栄を動かしたことに剛昌は自責の念に駆られていた。
「いや、春栄様のお手を煩わせるわけにはいきませぬ故、私が探してもよろしいでしょうか」
「いえいえ、大丈夫ですよ。大体場所は覚えているので……確かこの辺りに……」
「申し訳ない……」
「気にしないでください。剛昌さんと翠雲さん、父上に一番近しい二人だったのですから、これくらいやらせてください」
「……」
剛昌は手記を探す春栄の後ろ姿を春桜と見比べてしまった。
この優しさはいつか弱点となるだろうと。幾ら賢く、民の為を思う国王を目指しても、付け入る隙があればすぐに崩れ去ってしまう。翠雲の目指す国王がどのような結果になるのか、やってみなければ分からないが、これには屈強な支えがあってこそ出来る統治の仕方だ。我々が消えた後、春栄様だけになった時、この国はどうなるのか……。
いや、だからこそ、この身は春栄様の為に尽力するのだと、剛昌は改めて心に誓った。
「あっ、剛昌さん、ありました!」
春栄は剛昌の方へと歩いて手記を手渡した。
「ありがとうございます」
「でも父上の手記などどうするのですか?」
「少し、気になることがありまして……」
春桜の死について調べているとは言えず、剛昌は言葉を途切らせた。
「気になることとは?」
「いや、春桜様が最後に何か残してはいないかと思いましてな」
「そうでしたか……。私も、見た方が良いのでしょうか……父上の死ぬ前の最後の言葉を……」
みるみる元気を失くしていく春栄に剛昌は跪いて謝罪した。
「辛いことを思い出させてしまい申し訳ありません……」
「いえいえ! そんなに謝らないでください」
「いや、春栄様のお気持ちも考えず、ずけずけと……」
「大丈夫ですよ。それよりも、何か分かったら私にも教えてくださいね」
「はっ、かたじけない」
深々と頭を下げる剛昌に対して、春栄は微笑みながらも少し戸惑っていた。
「あはは、剛昌さんに畏まられると、なんだか変な感じですね」
「……申し訳ない、こちらお借りしてもよろしいでしょうか」
「ええ、また返していただければ」
「ありがとうございます」
剛昌は春栄に謝罪を述べてから、その場を去って行った。春栄も剛昌もあまり慣れない会話の相手に、お互い別々になった後に深く溜め息を漏らした。
「あの、剛昌様」
「なんだ」
「聞いていいものか分かりませんが……先程の話は一体……」
「気にしなくてもよい。ただ俺が気になっただけだ。他言無用で頼むぞ」
気にするなと言われると余計に気になってしまうもの。
続きを聞こうと声を発そうとした兵士は、横に歩いていた兵士に口元を手で塞がれた。兵士は横目で発言を止めた相手の顔を見つめた。すると、「やめろ」と言わんばかりに睨むその雰囲気に、口を押さえられた兵士は「解った」と、片手で小さく合図を送った。
その後、王城へと辿り着くまで、誰一人として口を開くことはなかった。
王城へと戻った剛昌は二人の兵士を解散させ兵舎へと帰し、自室へ入ると散らかしたままの机の上の書類を端へと寄せていた。
書類を取り除いた机には、少し汚れた手記が置かれていた。剛昌の開いたページには血が付着しており、剛昌はただただその文字を見つめている。
一通り目を通したのか、片手で閉じた手記からはパタンという音がし、再び机の上へと置くと剛昌は小さく呟いた。
「黒百合、か……」
黒百合の花言葉は「呪い」を意味する。手記の内容と呪いの意味する村……。
剛昌は春桜が死んでからというもの、独りでずっと調べ続けていた。
春桜は特に体調が悪かったわけでもない。ところが、亡くなる一週間ほど前から憔悴していったことを剛昌だけは気にかけていた。
春桜にそのことを尋ねるも否定され、「誰にも言うな」と口止めをされてしまったことで、信頼のおける翠雲にも言えず仕舞いとなった。
春桜の亡くなる少し前、翠雲は王城を出て休養をとりにいった。翠雲が何か裏で動いていた可能性も捨てがたい。それに加え、他の大臣の中に裏切り者が居るかもしれない。
剛昌は様々な思案をした結果、一人で春桜の身の回りを調べ続けていた。
これは、剛昌が「呪い」に導かれるまでの少し前の話――
春桜の死から三週間ほど経ったある日、王城全体がようやく落ち着いた頃、剛昌は二代目国王である春栄の元を訪ねていた。
玉座に居ない事を知り、剛昌は王室の方へと向かい扉を叩いた。
「失礼致します、春栄様」
「ああ、剛昌さん。どうしましたか?」
机の前で一人、書類に目を通している春栄が剛昌に微笑んだ。
「春桜様のことでお話があるのですが、よろしいでしょうか」
「父上のこと、ですか?」
「はい、何か春桜様の手記などがあれば拝見させて頂けないかと」
「父上の手記……ちょっと待ってくださいね」
春栄は部屋の隅に纏めていた春桜の遺品の中を探し始めた。己の願いで春栄を動かしたことに剛昌は自責の念に駆られていた。
「いや、春栄様のお手を煩わせるわけにはいきませぬ故、私が探してもよろしいでしょうか」
「いえいえ、大丈夫ですよ。大体場所は覚えているので……確かこの辺りに……」
「申し訳ない……」
「気にしないでください。剛昌さんと翠雲さん、父上に一番近しい二人だったのですから、これくらいやらせてください」
「……」
剛昌は手記を探す春栄の後ろ姿を春桜と見比べてしまった。
この優しさはいつか弱点となるだろうと。幾ら賢く、民の為を思う国王を目指しても、付け入る隙があればすぐに崩れ去ってしまう。翠雲の目指す国王がどのような結果になるのか、やってみなければ分からないが、これには屈強な支えがあってこそ出来る統治の仕方だ。我々が消えた後、春栄様だけになった時、この国はどうなるのか……。
いや、だからこそ、この身は春栄様の為に尽力するのだと、剛昌は改めて心に誓った。
「あっ、剛昌さん、ありました!」
春栄は剛昌の方へと歩いて手記を手渡した。
「ありがとうございます」
「でも父上の手記などどうするのですか?」
「少し、気になることがありまして……」
春桜の死について調べているとは言えず、剛昌は言葉を途切らせた。
「気になることとは?」
「いや、春桜様が最後に何か残してはいないかと思いましてな」
「そうでしたか……。私も、見た方が良いのでしょうか……父上の死ぬ前の最後の言葉を……」
みるみる元気を失くしていく春栄に剛昌は跪いて謝罪した。
「辛いことを思い出させてしまい申し訳ありません……」
「いえいえ! そんなに謝らないでください」
「いや、春栄様のお気持ちも考えず、ずけずけと……」
「大丈夫ですよ。それよりも、何か分かったら私にも教えてくださいね」
「はっ、かたじけない」
深々と頭を下げる剛昌に対して、春栄は微笑みながらも少し戸惑っていた。
「あはは、剛昌さんに畏まられると、なんだか変な感じですね」
「……申し訳ない、こちらお借りしてもよろしいでしょうか」
「ええ、また返していただければ」
「ありがとうございます」
剛昌は春栄に謝罪を述べてから、その場を去って行った。春栄も剛昌もあまり慣れない会話の相手に、お互い別々になった後に深く溜め息を漏らした。
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