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運命の番って何なんだろう

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 ーーー3rd Week


 3週間目に突入した。お試し期間はすでに折り返し地点を過ぎた。
 お試しを始める前は終わった頃に断ろうと思っていたんだが、最近絆されつつある。
 悠が恋愛が長続きしないというのも、本人から聞いたわけではないけど、多分アルファっぽくないからという理由だけで悠が悪いわけではなさそうだ。
 見てる限り、悪いところはないんだよなぁ。顔は良いし、家事は完璧だし、性格も天真爛漫で可愛いと思う。夜は床上手。……こうして並べると理想の嫁だ。まあ、夜に限っては但し書きで“タチ“と付くけど。

 2週間目に習慣化した“こすりっこ“は健在で、挿入はしないまでも、度々抱き合うようになっていた。
 最初のうちは擦り合って、キスして、射精して終了だったのだが、それに加えて最近は悠からのアピールがすごい。

 お互いのペニスを扱きながら、俺の耳を舐め、耳元で「翔ちゃんにぶち込みたい、翔ちゃんの中にたくさん出したい」と囁かれる。こうして並べるとなかなか物騒な言葉だな。
 しかし、最中の俺は何故か悠の囁きに感じてしまって、ダメだ、ダメだと言いながら果てるのが最近の流れだ。このままだといつか受け入れてしまいそうだ。アルファもオメガと同じで何か身体からフェロモン的なものが出てるんだろうか。怖い。

 付き合うにあたって問題なのは夜だけなんだよなぁ。それ以外は俺の好み……悠と今まで付き合ってきた奴らは悠に何を求めていたのかと疑問に思う。かなりもったいないことをしたと後で後悔してそうだな。


 ということをつらつらと例によって悠とのテレビタイムに考えていた。今日はバラエティ番組だ。内容を追わなくてもいいからBGMに丁度いい。この歳になると、バラエティとか面白味が分からない。若い頃はよくコレで爆笑できたもんだと感心する。箸が転げても面白い時期ってほんとにあるんだな……あぁ、また思考がオッサン寄りになっている。

『今日のテーマは“運命の番“!みんなの理想の番とはーー』
 ーープチン

 くだらねぇ内容だなとポリポリつまみを食べながら見ていると悠がおもむろにテレビの電源を切った。

「どした?」
「気分悪い。ああいうの嫌い」

 悠は「もう寝る」とそれだけ言って、フイと部屋を出て行ってしまった。
 いつにない悠の態度に戸惑う。なんだ?さっきのが地雷だったのか?この場合って追いかけた方がいいんだろうか。放っておいてひとりにさせた方がいいんだろうか。

 暫くひとりで部屋でおろおろとしていたが……気になる。ええい!ウザいって言われたら退けばいい。俺はいてもたってもいられなくて寝室へと向かった。

 寝室へ入ると悠は背を向けて布団に潜り込んでいた。

「悠、どうしたんだ?」
「……何でもない、今日はもう寝かせて」

 聞いたことない沈んだ声でそう言うと、ゴソゴソと動いて頭から布団を被った。

「じゃあ、俺も寝ようかな」

 ちょっと強引だが、悠の隣に潜り込んで後ろからギュッと抱きしめた。

「何だよ、今日はおやすみのちゅーは無しか?」
「……いつも翔ちゃんからしてくることはないくせに」
「じゃあ今日は俺からしようかな。ほら、こっち向けよ」

 悠の肩を引いて無理矢理振り向かせると、泣く一歩手前みたいな顔をしていた。こんな顔は初めて見る。
 悠の唇に軽くちゅっとキスをして頭を胸に抱き込むように抱きしめた。顔は見られたくないだろうから、見ないように目線を外して頭を撫でた。

「俺に話せないことか?愚痴ぐらいなら何でも聞いてやるぞ。ゴミ箱だと思って何でも吐いちまえ」
「翔ちゃんはゴミ箱じゃない……」
「ははっ、言い返す元気はあるな。まあ無理にとは言わないから、言いたくなったら聞くよ」
「うん……」

 暫くそうやって無言で抱き合っていると、悠がおもむろに口を開いた。

「……翔ちゃんは、ああいうのはもう大丈夫?」

 ああいうの……運命の番のことか。

「そうだなぁ、胸糞悪いとは思うけど前よりは平気だな。悠がいるおかげかな。最近は千秋のことを思い出すこともなくなったし、俺は結構薄情かもしれん」

 本当に。別れてひと月しか経っていないのに最近は悠のことばかり考えてるな。俺も千秋にどうこう言えはしない。

「翔ちゃんは薄情なんかじゃない」
「俺はお前が思っているより純粋でも一途でもないよ」

 ぽんぽんと頭を撫でながら言うと、グリグリと頭を振って胸に押し付けてくる。うーん、悠はちょっと俺のことを美化しすぎじゃないかな。

「……千秋さんのこと聞いても?」
「おう、いいよ」
「別れ話した時ってまともに見えた?……その、相手のアルファに傾倒してたりとか……」
「どうだろう……ずっと泣いてたから、本心が分かり難かったな。俺のこと嫌いになったわけじゃないけど、あっちの方をもっと好きになった……って感じかな。子どもも欲しくなったって言ってたからそれは本心なんだろうと思ったよ。俺と子どもを持つことは出来ないから」

「…………運命の番って何なんだろうね。そこに自分の意思はあるのかな?僕がアルファやオメガだとして、今翔ちゃん以外の運命の番とか現れてもその人のところに行きたいとは思えない」
「………」
「だから、僕は運命の番とか大嫌い。自分の運命は自分で決めたい」
「そうだな……」

 悠は以前、俺の様にアルファやオメガと運命の番だなんだのと巻き込まれたことでもあるんだろうか。
 悠がもし、俺の考えている通りアルファだとして、番が現れたらこんなに俺が好きだと言っていてもこいつも変わるんだろうか。そこに悠の意思はあるのか。番とは何なのか……

 悠が不安になる気持ちも分かる。俺も不安だ。そんな不確かなものになど誰だって会いたくはない。

 悠はお試しをするにあたって言っていた。性別ではなく、自分自身を見て欲しいと。ならば、そうするべきだろう。アルファやベータやオメガではなく、悠自身を見て決断をする。

 来週でお試しは終わりだ。そろそろ俺も覚悟を決めないといけない。


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