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嘘1
2
しおりを挟む葉人は、こつん…と足音を響かせて歩き出そうとして、はっと身をすくませた。
「……威」
教室に向かう階段の壁に、うずくまる様にして座り込んだ威は、葉人の声を聞いてのそりと顔を上げる。
どこか虚ろのようなその目の端は泣いた後のように赤く染まり、握られた拳は力の入れすぎで白く震えていた。
じっと見つめ合った視線を先に逸らしたのは葉人のほうだった。下へと続く階段に目をやり、威の傍を走り抜けようと足を動かす。
「声」
掠れた声が、通り過ぎようとした葉人の足を縫いつけ立ち止まらせた。
「お前の声…聞こえてた…」
一瞬何のことか分からなかった葉人は、威の瞳に涙が溜まり始めたのを見てはっと肩を揺らす。
つい先ほどまで自分と光彦がしていた行為のことを思い出し、ざぁ…と血の気が引く気がして傍の手すりに掴まる。
血の気のなくなった冷たい指先をきつく握りこみ、ゆっくりと息を吸う。
「そう」
そう言うのが精一杯だった。
力が抜けてしまいそうになる足を慎重に動かし、踏み外さないように一歩踏み出そうとすると、威が葉人の腕を掴んだ。
「そうってなんだ?」
激昂も何もない、静かな言葉が逆に怖かった。
その声音とは裏腹な、きつく締め上げる威の手こそが本心のようで、葉人はその痛さに呻く。
「葉…俺はお前が好きだ」
体格のいい威に掴み上げられると、華奢な葉人はあっと言う間に動きを封じられ、壁の間に挟まれてしまう。
その男らしい体に押さえ込まれた途端、葉人の体にざわ…と悪寒が駆け抜けた。
「…ゃ……っ」
幾ら腕を動かそうとしても動かせず、オスの臭いのする体が自分に覆いかぶさる。
「や…やめ……、っか…っ……」
目隠しされた闇の中で行われた乱暴な性交がフラッシュバックし、喉の奥に言葉が張り付いてまともな呼吸が出来なくなった。
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