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嘘1
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しおりを挟むこちらを見つめていた威の表情が、困ったように曇ったのを見て、自分がどうしようもなく情けなくなって唇を噛み締める。
「俺は…何を知らない?あいつは…何を知ってるんだ?」
「…なに…を?」
もう微かに皮が切れているだけの左手首をなぞる。
放課後の教室で、犯されたこと?
それを盗み撮りされていたこと?
脅されて、そいつに抱かれたこと?
仕置きと称して、複数に暴行されたこと?
それから?
「……全部だ」
手首の傷跡に、爪を立てる。
「全部っ全部!…威は、全部知らないっ!!」
食い込んだ爪が、確実に皮膚を破り血を滲ませる。
「威は何も知らない」
「じゃあ話せよっ!じゃないとわからねぇよ!」
知られたくない。
声を荒げて肩を掴む威に、葉人ははっとして弱々しく首を振る。
言えない…と、訴えて肩に置かれた威の腕を振り払う。
「葉!」
威に、そんなことを知られたくなかった。
『汚いとは思わない
汚れてるなんて思わない
綺麗だと思う 』
以前言ってくれた言葉がぐるぐる頭の中を回り、もしかしたらもう一度言ってくれるかもしれないと、淡い期待が胸をよぎりかける。
威の眉間に皺を寄せた、男らしい顔立ちを見上げる。
葉人のものとは違う真っ黒な綺麗な瞳がこちらを真っ直ぐに見ているのに気が付いて、淡い期待に蓋をする。
威は、オレと違って綺麗なんだ。
そんな威を…汚せない。
「…威に…守ってなんか欲しくないよ」
そう告げると、葉人は威の伸ばされた手を避けて階段を駆け降りる。
「………嘘ついたって…わかるんだって…」
葉人にすり抜けられた手で拳を作りながら、威は苦々しく呟いた。
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