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しおりを挟む「私が?」
小さく、右の唇の端が歪む。
「その足で何を言っている」
きつい眼差しが足元に落ちて、居心地悪く後ずさった。
狭いビジネスホテルではあっと言う間に壁で、それ以上逃げられずに視線を落とす。
「気に、ならないんですか ?」
「何をだ」
「あの、自分の……その、」
「とりあえず足を休めるといい」
あの、その、と言葉を言い募ろうとしたけれど、たぶん佐伯は聞いてはくれないだろう。
しかたなく佐伯に倣うように、反対側のベッドに浅く腰掛けて背筋を伸ばした。
「人付き合いは苦手か?」
「 そ、う……ですね 」
引け目を感じる。
言葉の端で性癖がばれるのも怖いし、ばれて拒絶されるのも、怖い。
そう言う細かなことが重なって、人と話すのは僕にとって負担でしかない。
けれど、社会人になった以上それで話が終わってしまうわけでないのもわかっている。
「 あまり、言葉が出る方ではないので」
小林のように明るく、もしくは佐伯のように余裕を持って話すことができたら違うのかもしれないが、ないものねだりだ。
「威圧的でない、柔和な物腰は長所だ。言葉が出ないなら相手に出させればいい」
「 は、 え?」
「人との会話で緊張すると言うのなら、慣れしかない」
「あ、 」
「まぁ……そうだな、とりあえずは 」
僕の返事を待たず、ふと思い立ったように佐伯はドアの方に行き、冷蔵庫の中から缶ビールを二本抜き出してきてこちらへ戻ってきた。
「少しアルコールが入れば、ゆっくり休めるだろう」
掌の冷たい缶ビールと佐伯の顔を交互に見やる。
飲め、と、言うことなんだろうか……
「あ、りがとうございます」
「先に汗を流すなら行ってくればいい」
「部長は?」
「飲んだ気がしなかったからな、飲んでからだ」
飲んだ気がしなかった……とはいえ、だいぶ飲まされていたはずだ。
佐伯自身も気怠いのかもしれない。
「で、では……お言葉に甘えて お先に失礼します 」
幸いと言うか、人付き合いも苦手で凡庸な僕にも唯一と言っていい良いところがある。
良いところと言うよりはただ体質なだけなので感謝は親にしなければならないのだが、実はアルコールの類で酔ったことがない。
どれだけ飲んでも酒は他の飲み物と変わらない。
だから僕は、この時酔ってはいなかった。
だから、────だから僕は正気だった。
シャワーから出て、サイドテーブルの上の缶ビールが増えているのに気が付いた。
煽る佐伯の喉が動いてるのを見て、思わず声をかけた。
「大丈夫ですか?」
鋭い眼差しが、アルコールのおかげか少し丸くなっているように思えたのは、気のせいではなかったと思う。
「ああ」
乱れた襟元と動く喉元が色っぽいと、一瞬目を奪われた。
大人の男なのだと、荒い顎のラインで思う。
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