棘の鳥籠

Kokonuca.

文字の大きさ
32 / 76

31

しおりを挟む




 ただの上司への憧れだと思っていたこの気持ちは、よりにもよって本人の手で白日の下に晒され、それが憧憬なんて言う綺麗なものではなくてただ腹の底に溜まった薄暗い欲望なのだと気づかされた。

 胸が、苦しくて、

 けれど、抱かれたのが嬉しくて、

 胸が、熱くて、

 でもどこか冷めた頭の片隅が、佐伯の立場を囁いてくる。

 妻帯者だと。
 思い出せと。

 ただ、興味があって行われた行為にすぎないのだと。





 好奇心 が、人間にはある。

 それが大きいか小さいか、弱いか激しいかは人それぞれだけれども、向上心や出世欲の強い人ほど強いと聞いたことがある。

 佐伯がそれに漏れるとは思えなかった。
 つまり好奇心の強い人なのだろう。
 
 僕を抱いたのも、物珍しかったからで……


「河原の方と西寺の方の報告を     」

 腹に響く深い声だ。
 聞いていいるとその振動で気持ちよくなりそうだった。

 あの散々だった出張から帰ってしまえば、佐伯は何も言ってくることはなかった。
 好奇心が満たされたか、もしくは初めて抱いた男がこんなのだったせいで、幻滅したのかもしれない。

 ただただ縋るしかできなかった夜は、嵐の一夜のようで……

 夢か現実かわからない。


「    ────ふね、三船っ」


 それが呼ばれることのないと思っていた自分の名前だと気が付き、大きな声で呼ばれて飛び上がった。

「 は、はぃ」

 辛うじて返せた返事は、けれど部署の中で微かな笑いを増長させただけだったようだ。
 こちらを見る目は冷たくて、佐伯がもうオレに興味がないのだと言うことがはっきりとわかった。

 それでも、初めての相手と言うのはやはり特別で、普通に接して普通に話しているつもりだけれどどこかで意識してしまっているのかもしれない。

 横顔を盗み見る時間が増えたと思う。

 背徳的なことをしてしまった後ろめたさと、どうにも消えることのなかった気持ちに……正直、精神が削られる思いだった。


 

「なんかちょっと、お疲れ?」

 こてんと頭を倒した拍子に揺れたピンクに目を奪われながら、差し出されたおしぼりを受け取って曖昧に頷いた。

「そうなのかな」

 疲れた疲れてないかで言えば疲れ果てている。
 仕事について行くのに必死で、あっと言う間に昼間が終わって気づいたら日付が変わることもざらだった。

 そんな生活に、佐伯とのことで思い悩んで……

「雰囲気が変わられましたね、なんだか思い悩まれてます?」
「あ……いえ」
 
 人当たりのよさげな笑顔で出迎えてくれた店長に、「おまかせします」と注文して頬杖をついた。
 ふぅ  と知らずに漏れた溜め息にはっとなって姿勢を正す。

 学生の頃、友人に「溜め息をつくと幸せが逃げる」と聞いて以来、意識して避けていた行動だったのに、つい出てしまったようだ。
 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

上司と俺のSM関係

雫@不定期更新
BL
タイトルの通りです。読む前に注意!誤字脱字あり。受けが外面は一人称私ですが、砕けると僕になります。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...