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しおりを挟むけれど、佐伯の体温を思い出しただけでぞくりとしたモノが這い上がってくるのは否定できなかった。
「三船」
暗い縁を覗き込んでいたような意識が引き戻され、ぱちぱちと瞬く。
「 あ、先輩」
特に待ち合わせると言うこともなかったが、『gender free』で出会うことは多かった。
仕事もないし、酒も入るし、共通の秘密も持って……
同じ部署で教育係として相対していた時より、今の方がよっぽど親しくなっていると思う。
「今日はデートじゃないんですか?」
ただ飲みに来る僕とは違い、小林は何かと広い交友関係を持っているようで、こうして偶然出会っても連れがいることが多かった。
「 嫌味言うなよ」
はぁー……と出る長い溜息は、また振られたかどうかしたんだろう。
連れがいる確率も多かったけれど、振られる確率も多いなと言う感じを受けた。
相手が求める付き合い方と、小林が求める付き合い方が違うのだと本人は言っていたが……
「フィーリングが大事ですよね。今晩は奢りましょうか?」
「 そこまで堕ちてねぇから」
もともと悪い目つきを半眼にしてこちらを睨む。
教育係をしてもらっていた時だったなら泣いていたかもしれない表情に、小さく笑って返す。
「元気ならいいんです」
そう言って目の前のビールジョッキに、ウイスキーの入ったショットグラスを放り込んだ。
「なにやってっ!?」
「ボイラーメーカーって言うカクテルらしいです」
「ビールにウィスキーって。悪酔いするぞ」
「酔わないと思います!」
そこにだけは自信があるせいか、はっきりと言い切ってジョッキに口をつける。
水中で固いものが動くかこん かこん とした振動と音を聞きながら、喉を通り過ぎるビールとウィスキーの味を堪能する。
「ちょっ! 一気はダメ!」
そう店長から注意が来た頃にはジョッキの半分は胃の中へと消えていき……
一気に飲み干すものではないのかと、仕方なく手を離した。
「すみません! チェイサーを!」
小林が慌てて注文してくれたが、ただやはり酔うと言う感覚が分からず、曖昧に笑ってコップを受け取った。
先程の刺激から比べると、水の何とも言えない味気無さに眉間に皺が寄りそうだった。
「な、なんかあったのか?」
眉間の皺を何と捉えたのか小林の表情はこちらを気遣うものになっていて、慰められたいのは自分だろうにこちらを心配そうに覗き込んで狼狽える姿は、可愛いと思わせる。
「先輩。かわいいですね」
素直な感想は酔っているように見えたかもしれない。
「そうじゃなくて! 会社で……っ!?」
いじめられてるんじゃ……と心配してくれるのはわかるが、残念ながら箸にも棒にもかからないような人間に、そこまで構ってくる人はいない。
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