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赤い写生帳
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しおりを挟む馴染みのある特徴的な字が、精一杯の丁寧さで綴られている。
「卯太朗へ 」
── 怒りながらか、泣きながらかはわからないが、これを読んでくれているのであれば、爺さんがしっかりと渡してくれたんだろう
願わくば、泣きながら読んでもらいたいと思うが、我が儘だろうか
卯太朗と知り合えてからこちら、随分と楽しく過ごすことができた
ありがとう
お前の才能に出会えたことが、俺の人生で一番の価値だった
自分に才能はないと言うのはお前の悪い癖だ、自信をもってやっていけ
俺の人生を短いと言う奴に、笑いながらその分堪能させてもらった と、言い返したかったが無理そうだ
やっと手に入れた画家としての場所も、評価も、すべて遺して逝かなくてはならないのが悔しい
それに、俺はまだお前の絵を見ていたかった
お前が描く絵をずぅっと見ていたかった
これからも生み出される卯太朗の作品を眺めていたかった
それが出来ないのが悔しい
悔しくて悔しくて堪らない
なぁ? 卯太朗。悔しいことばかりだから、胸がすくように最後に一つ告白させてくれ
俺は、お前が大事だった──
「 は?」
その一文は掠れていた。
玄上自身が誤って墨を擦ったのか、水滴を拭おうとしたのかは定かではなかったけれど。
手紙の残りには、翠也に世に出て自分の後釜になることを勧めて欲しいことや、るりと言う一人の少年の世話をよろしく頼むということが書かれていた。
るりの家への簡単な地図も同封されていたので、二人で向かったあの日より以前に書かれていたのだろう。
玄上には、随分前からこうなることがわかっていたのか……
「なんで……ずっと黙っていたんだ」
わかっていたら、どうしただろうか?
少しは労わってやっただろうか?
無精せずに会いに行っていただろうか?
それとも、あいつの誘いを受けていただろうか?
答えはわからなかった。
手向けとして、死に逝くものをわずかでも繋ぎとめる舫いとなれるなら、もしかしたらとは思わなくもない。
だからこそ、玄上は言い出さなかったんだろう。
俺から同情が欲しいわけではないから。
「……だからと言って…………」
握り込んだ拳に力が入る。
「だからと言って、何も言わずに逝くことはないだろうっ!」
怒鳴りつけるように叫び、写生帳に目を落とす。
────見つめ返す、俺。
玄上が描いたと一目見てわかる繊細な筆致の、俺の肖像画。
めくる度に、その瞬間を切り取ったかのような俺がこちらを見つめてくる。
泣き顔や、
笑い顔や、
幾分幼く見える顔もあれば、全身や手足のみもある。
いつの間に描いたんだろうと、一枚一枚をゆっくりと捲った。
同じ師に見出されて、絵だけではなくそれ以外でもつるんでいろいろと遊び回った。
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