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ひざまずかせてキス
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しおりを挟む傷に触れたら、痛むだろう。
けれど、この男が触れるのを止められないまま、そこに触れるのを許して耐えた。
「 これで、ナオちゃんは俺の物?ツガイなんとかって言うんだろ?」
「そんな訳ないだろ。これはただの傷だ」
「え⁉ だって 」
「首を噛まれるのはオメガで、番契約はアルファとオメガの間での話だ。バース性じゃないお前が噛んだこんなの、なんの意味もない」
それはそれでショックだったのか、相良は肩を落として俯いてしまった。
中途半端な知識で首を噛まれたオレの方が泣きたいのに、今にも相良の方が泣きそうだ。
「……俺、ナオちゃん怖がらせただけ?だったんかな?」
「怖くなんかない!」
ひょこ と上げられた呆れたような表情を作る眉は何を言いたいのか。
「ごめんって、だから泣かないで」
そう言うと相良はもう一度オレをきつく抱き締めた。
「じゃあ先に出とくね」
「ああ、すぐに出る」
ひらひらっと手を振って相良が扉から出たのを見送った後、黒革の鞄を開いて小さな携帯用のライトをそこに向けて当てた。
「…………」
蒼い光に照らされた中を覗き込んで……
深く息を吐くと、首の後ろがじくりと痛んだ気がした。
廊下に出ると、向かいの壁に凭れかかって相良はバイクの鍵をちゃりちゃりと弄って暇を持て余しているようだった。
部屋から出たオレを見て、へらへらと笑って近寄ってくる。
「気をつけて帰れ」
「心配してくれてる!ナオちゃん優しぃー!なぁなぁ!俺もさぁ直江ちゃんが心配だからついていって良い?」
「駄目だ」
断られると思っていなかったのか、少し怯んでから「でも 」と食らいついてきた。
「ムリさせただろ?だからさ、男として責任とか 」
「だったらデータを全部破棄しろ」
「うっ」と呻いて大人しくなった相良を連れて駐車場へ行き、一目見て相良の物と分かるような派手な黄緑色のバイクへと向かう。
「派手だな」
「乗ってく?」
「とっとと帰れ」
しっしっと手で払う動作をしてやると、面白くなさそうな拗ねた顔をしてから投げキスを一つ寄越してきた。それも払う動作で返すと、むっと唇をと尖らせてからヘルメットを被って跨る。
「つれないなぁ、また連絡くれよ!飛んでくるから!」
「ホントに飛んでしまえ」
はは と小さく笑い、腹の底に響くような大きなエンジン音をさせてバイクは走り去ってしまった。
左に曲がるのを見送ってからもう一度深く溜め息を吐いて、傷一つない黒い車へと向き直る。車内に入って、エンジンをかけるでもなく腕時計を見詰めると、もう深夜をだいぶ回っているのだと気が付く。
ずいぶんと長い時間をここで過ごしてしまったらしい。
さっさと終わらせて出るはずだったのに と、後悔しても過ぎた時間は戻らなくて……
「もう十分か」
相良が出発してからの時間を確認してから、そのホテルを後にした。
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