OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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教えて!先生っ

落ち穂拾い的な 新旧

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「せーの?」
「だそうです」

 「せーの」ともう一度同じ言葉を口の中で呟き、祖父はぶふーっと吹き出した。

「ああ、そう、ふ  ふ   せーのでどうにかなるんだ!ふふ   」

 くっくっと喉の奥で殺しきれない笑いを漏らしている瀬能を見て、瀬能はわずかに眉を顰める。

 この事は、それ程可笑しい事ではないはずだ。

 今まで報告された事のない例に、興味は湧かないのだろうか?と、父似の柳眉を寄せる。

「これがどうして起こったか分かるかい?」

 へらりとしてそうで鋭いその瞳の奥は未だに読みきれず、瀬能は溜め息を吐いた。

「御教授下さい」
「『おじーちゃん、教えて?』で、良いんだよ?」
「御教授下さい」
「融通が利かないのは父親似だね」

 祖父は組んだ指をトントンと鳴らし、いつもの真剣さの欠片も無い表情で告げた。

「オメガが望んだから だからだよ」
「   は?」
「オメガがそうアルファに求めたから、二人のアルファが噛めたんだ。まぁ双子とか、タイミングとか諸々はあるだろうけどね」

 あやふやな と言うか、また適当な事を言っているのかと訝しむが、それが正しいのか間違えているのか分からず、困惑は深まるばかりだ。

「  ────あれかな?君はやっぱりオメガがヒエラルキーの最底辺だと思ってる?」
「バース性でヒエラルキーが決められる事があってはならないと思います」

 良い子の模範解答にまたも祖父はふ と吹き出す。

「ああ、うん、理想はね。でもあるよね?階級が」
「……そうですね、アルファが頂点なのは否めないと思いますが 」

 α遺伝子には優秀さのランクがある。それは『α性の優性の強弱』と表現され、それを持つ性の人間は優性が強ければ強い程、資質として優れている物を持っている傾向にあるのは一般常識だった。

 元々のスペックが違う と、言ってしまえば終わってしまう事柄だが、やはりバース性で十把一絡げにしてしまうのは乱暴な気がしてならないのだと、瀬能は唇を曲げる。

 はは と高い笑い声に、瀬能(新)ははっと思考を引きずり戻され、慌てて祖父を見る。

「これなーんだ!」

 両方の親指と人差し指で作られたそれは、歪ではあるけれど菱形の形をしている。バース医ならばピンとくる形に小さく頷いた。

 バースヒエラルキーのピラミッド。

 三角でない、今のバース性の力関係を表したそれはそう呼ばれる。
 
 頂点にα、
 その次にα因子の強いβ、
 中立なβ、
 オメガ因子の強いβ、

 そして最底辺にΩ。

 これらを纏めると、菱形になる。 

「それが  」
「安定悪くない?底は点だし」
「まぁ……オメガの数から考えるとそこが一番少ないんですから、そう言う形になると思います」
「んじゃあ、これが、こうだったら?」

 そう言って動かされた祖父の指に、瀬能は胡乱気な表情をする。

「オメガを頂点に、その下にアルファ、そしてベータ」

 発情期の為にまともな社会生活を送れず、発情してはαを誑かして襲い掛かり、色事に耽り、子を産む能力だけに秀でたΩが……頂点?と首を傾ぐ。

「以前からまことしやかに言われてる噂、知ってる?」
「心当たりが多すぎて……」
「オメガは親がアルファの場合、オメガであっても潜在的にそのアルファの能力を有している。そしてそれはオメガでは発現しないけれど、そのオメガがアルファとの間に子を産んだ時、その子がアルファならば自分の父アルファの能力と、母オメガ方祖父母世代のアルファの能力とを有するって奴」
「眉唾と言われながらもずっとある噂ですね。アルファの一族の能力を衰えさせたくないのなら、オメガを  と、言うものですよね。これはアルファ筋に嫁がされたオメガの婚家での待遇向上の為のお伽話だと思っていましたが」
「うーん  それがねぇ、そうでもないかもよ?」

 祖父は三角にした指に時折力を込めながら、考え事をする時の遠い目でぼそぼそと呟く。

「アルファが進化していく為にはオメガに子供を産んでもらわないと話にならない  とか。なんか、故意的だと思わない?」
「はい?」
「番システムがあるのは、なぜ?運命システムがあるのは、なぜ?バース性の子供は七か月と言う未熟児で生まれるのは、なぜ?男女間だけで子は成せるのに、なぜ?わざわざ取ってつけたようなバース性があるのは、どうしてなんだろう?   ねぇ?なーんか、作為的な物があるよね」

 ぱ と三角から広げられた掌にはもちろん何も見えないが、その見えない何かを祖父は掴んでいるのかもしれない。

「インテリジェントデザインですか?」

 何らかの、知性の働きによるもの と?

 瀬能は小さく鼻で笑い、未だに何かを考え込んでいるような祖父から視線を外した。

「  君だって受験の時にお守り持ってたでしょ」

 考えに没頭して意識に入ってないのかと思いきや、投げられた言葉に驚いて瀬能は目を瞬かせる。

「あれは、もらったからしかたなく です」
「後生大事に今も持ってるクセに。違ったかい?」

 ぐっと言葉に詰まりながら、瀬能は言い訳を諦めて肩を落とした。

「~~~っもう!もういい!意地悪しないでよ!それより烏丸さんにはどう返しておくの⁉︎」
「診察日を月一にした途端面白い案件が来るんだもんなぁ、参ったな。どうしようかな   」
「あ、そうだ、名札貸して」
「うん?」
「今度から瀬能先生の診察は俺がメインだから、おじいちゃんは『一日』瀬能ってことで」

 マジックできゅきゅ と文字を書き入れてから名札を手渡す。

「これでよし」
「一日瀬能って、一日署長みたいだね」

 そう言うと祖父はやけに一と日の隙間の狭い名札を眺めた。
 


END.


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