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花占いのゆくえ
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しおりを挟む増々、殻に閉じこもってしまった風に困ってしまい、どうしてくれようかと逡巡してから手を伸ばして肩を抱いた。
「ぇ っ」
暴れられないようにしっかりと抱きしめて、逃げられないようにもう片方の手は腰に回してそちらもしっかりと抱きしめる。
「や きちょ 、だめ 人に見られ……」
「東屋の影になって見えないって、ほら、声出すと見つかるぞ」
「んっ 」
悔しそうに唇を噛み、オレの腕から逃げることが出来ないことを経験を持って知っている薫は、少しでもオレに触れる箇所を減らそうとしているのか、手が白くなる程力を入れて膝を引き寄せていた。
オレに触れて欲しくないって態度だけれど、
なのに、
どんどん口の中が甘くなる。
「……薫」
「ん?」
「もうすぐヒートの時期じゃないのか?」
はっとこっちを向いた目が大きくこれでもかってくらいに見開かれて……
「なんか情緒不安定だって思ってたんだ」
いつもの癖で、項に鼻を近づけてふんふんと確認してみる。
オレの匂いがついてないからいつもよりは濃い匂いがしていて、何年もかけて他の誰にも薫の匂いを見つけられないようにマーキングしていたのがすべて水の泡になってしまったのが良く分かった。
目が回りそうな甘い匂いに、ついその項を舐めたくなったがぐっと堪える。
なぜなら薫が怒っているのが分かったから……
「な なんだよ」
「ホント、喜蝶ってデリカシーのないっ」
「だって匂うし……オレが抑え続けてたのに、こんなに匂うようになってるんだから。あいつじゃ、薫の匂いを抑え切れないんだろ」
微かに揺れる黒髪の隙間から臭うあいつの臭いにイライラが募って、それを追い払うように手を差し入れて擽った。
「 っ」
「……薫は、オメガに近いベータだから」
薫の体が跳ねて手の中から細い髪がするりと零れ落ちて行く。
それがオレから逃げて忠尚の元へと行ってしまった姿を思わせて、思わず毛先を掴んで力を込めた。
「いたっ」
一瞬だけぴんと伸びたことが痛かったのか、きっとこちらを睨んでくる瞳にしっかりとオレが映って……
心臓が握り潰されたように、痛んで、
オレだけを見てくれるこの目が大好きだ。
「かおる。大好き」
ああ、やっぱり諦めきれない。
さようならして、忘れなきゃって思っていたはずなのに。
「かおる。愛してる。だからオレにマーキングさせてよ」
至近距離で見つめ合って、ゆっくりと瞬きをして視線を絡め合う。
しょうがないなぁって言って、
オレを見て笑って、
「そ そんなこと、駄目だよ……忠尚さんがいるから……」
ここであいつの名前を出すなんて、薫はαの独占欲を本当に良く分かってないと思う。
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