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かげらの子
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しおりを挟む「そうですか、そうですか、まぁ私の早とちりで」
「……聞いては、いけない事でしたか?」
「まぁ調べてんのならご存じでしょう、この村から出る川の水量は、先神様にお願いしたら増やして貰えるんですよ」
「は?」
「減すのも出来るのですから、水の神様と言うのは凄いんですねぇ、お陰で洪水やら水不足と騒いでも、こちらにお願いすれば水だけは安泰と言うのは、まさに神通力ですな、ここまでご利益があるとは恐れ入ります」
男はそう大きな声で褒め称えた後、また急に声を潜め、捨喜太郎の耳の傍に臭い息を出す口を寄せた。
「ただまぁ、下の街でも治水が進んでおりますから、このご利益もいつまで重用されるやら……」
「っとと 」と、男はわざとらしい声を上げて身を離し、内緒ですよと言いたげに肩を竦めておどけて見せる。
「新しい里長さんは気難しい方ですから、耳に入ったら怖や怖やです」
「……新しい?」
「あれ?これもご存じないので?」
男は捨喜太郎の表情で返事をする前に理解したのか、へらりと笑っては暑そうに首周りの汗を拭った。
「少し前に亡くなられて、息子さんがお継ぎになられて……まぁそれもすぐに でしたがね」
「え? と、それは ……」
むくりと起き出した好奇心で続きを聞こうと身を乗り出そうとした所で、廊下のぎしぎしと言う音が会話に割り込んできた。別段大きい音と言う訳ではなかったが、雀遣りの音とは違う木の軋みは酷く気を引く。
「あっ」と思い顔を上げると、留夫が伊次郎の先導をするようにしてこちらに向かってきている所だった。
捨喜太郎に気付いたのか留夫は懐こい風に笑って見せたが、伊次郎は口を引き結んだままだ。特にこちらが何かした訳ではなかったが、先程の部屋での緊張感を思い出したせいか捨喜太郎は妙な居心地の悪さを感じてしまい、「お邪魔でしょうから」とさっと頭を下げてその場から逃げ出す。
きっとその場に居れば、先神のもたらす水の恩恵の話でも聞く事が出来たかもしれなかったが、何か含みのある二人の雰囲気に耐えられそうになかった。
留まると伊次郎達が居り、下れば村人達の冷ややかな目があるせいか捨喜太郎はどちらにも行く事が出来ず、仕方なしにぐるりと家の裏を回り、すぐそこに迫る森との境界の辺りまで歩き進める。
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