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かげらの子
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しおりを挟む家の裏手の斜面を見上げて、ここで宇賀を見た事を思い出した。
伊次郎に言われるまで、宇賀がどう言う状態だったのか分からなかった自分が急に恥ずかしくなり、あの日の白い宇賀の足に垂れた汚い物の幻影を振り払いたくてぶるぶると首を振る。
コトコト
カコカコ
裏に回ってもやはりあの音は追いかけて来る。
もう少し行けば聞く事もなくなるのだろうか……と、捨喜太郎は枯れ葉が残る斜面に足を置いた。ぐっと体を上げようとすると、下の枯れ葉が滑るせいかどんなに登ろうとしても体は上がってはくれない。
蟻地獄に落ちた虫の気分で何度か藻掻いてみるも、地面に無様な掘り後が残っただけだった。
木を掴んで無理矢理体を引き上げればどうだろうか?と、捨喜太郎はとりあえず傍らの木にしがみついてみるも、そこからどうしていいのか分からない。
木登りは危ないからと近付こうものなら奉公人が飛んできて引き剝がされてしまうような家で生まれ育った捨喜太郎に、木あるからそれを伝って登って行くと言うのは、知識だけの張りぼてでしかなかった。
食い込んだ木の幹の痛みに、早々に飛び退いて掌の痛みに呻く。
蹲って、本の穴倉で暮らしていた罰を受けている気分になって項垂れていると、
「さきたろ」
人に聞かれないように潜めた声が名前を呼んだ。
少し舌足らずなそれは間違えるべくもない宇賀の声だった。
捨喜太郎よりも細い宇賀の腕の方が幾分も力が強かった事に、捨喜太郎は頬を赤くして耐えるしかできない。
「さきたろ、そこ気を付けて」
「あ、ああ 」
「ごめんなさい、うが、あそこに近寄ったらだめだって」
そう言って宇賀は捨喜太郎の手をぐっと握った。そうすると先程まで下でぐじぐじとしていた捨喜太郎の体がびっくりする程軽く、山の中へと引き上げられて行く。
「こ ここには、蛇が 」
「うがと一緒ならだいじょうぶだよ」
へへ と、最初に見かけた無表情は幻だったのかと言うような可愛らしい笑みを見せて笑い、家の方から見えないように木と大きめの下生えのある個所まで来てから腰を降ろす。
そんな所に座って、蛇は大丈夫なのかと思いもしたが、先程の宇賀と一緒なら……の言葉に従って、捨喜太郎は素直にその隣に腰を降ろした。
小柄な宇賀だけならいざ知らず、捨喜太郎まで隣に並ぶと下生えの小さな窪みなどあっと言う間に埋まってしまい、小さく身を竦めて肩を寄せ合わせるしかない。
「 うが、さきたろを見たくて来ちゃったよ」
「会いたくて、じゃなく?」
そう言葉を正してやると、宇賀は良く分からないのかきょとんとして見せた後、素直に「会いたかった」と言葉を続けた。
素直なその言葉が嬉しくて自然と口の端が緩むのが分かる。
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