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黒鳥の湖
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しおりを挟む「……なに 」
ど っと心臓が脈打って体中熱いはずなのに胸の内がひやりと冷たい。
「俺でも、規則違反になるのか と聞いている」
「おっしゃっている意味が わ、わか 」
オレの返事なんか聞きもせず、時宝は抵抗のできない力強さで手を取ると人差し指を首のガードに押し付けた。
それはあまりにも突然で……
錠が外れてするりと首元からガードが滑り落ちる感触にざわりと鳥肌が立つ。
「 や、 」
空気の触れたそこがひやりとして、とっさに首を押さえようとした行動もあっさりと封じ込められてしまい、成す術がない。
「時宝様っおやめくださいっ冗談が過ぎます!」
「冗談?冗談が過ぎるのはお前達だろう?」
喉元に伸びた手が、優しさの欠片もない力で一気に襟元を掴み上げる。
肌触りのいい、繊細な刺繍の施されたシャツが乱暴に引っ張られてぴぃ と裂けて甲高い音を立て、胸元に空気が触れた。
「 ────っ」
「俺は、蛤貝を正面から噛んだはずだ」
「や っじほ おやめくださ っ」
その腕から逃れようとするけれど、時宝に押さえ込まれた体は僅かに体を揺すっただけに見えただろう。
「 首を噛む前に、肩にきつく嚙みついた」
「 や 」
「ちょうど、ここだ」
そこには治りきっていない深い噛み痕が残っていて……
咎めるきつい視線に晒されて、肩に残る歯の痕が攣れるように痛んだ気がしてきつく目を瞑る。
「あ ぁ 」
ぶるぶると震えるオレの顎を、時宝の手がぐい と引き上げた。
あらわになる喉元を……隠す手段は、ない。
「 ────あの日、俺が抱いたのはお前 だな」
「ちが 」
辛うじて否定の言葉をつぶやいた筈なのに、ぶるりと大きく震えた体が心を裏切って時宝に肯定を示してしまう。
「では、どうして 」
そう言うと時宝はオレに覆い被さるように身を屈めて、耳の傍で大きく息を吸い込んだ。
耳の産毛が擽られて、ゾワゾワとした感覚に自然と背中が反る。
怖くて気を失ってしまいたいほどなのに、多幸感で泣き出しそうだ。
「俺にお前の匂いがわかるんだ?」
「 っそれは 」
熱い指先が項を撫でて、オレの項についた歯型を撫でる。
「微かだが、確かに匂う。甘い、俺があの時抱いた匂いだ」
「違いますっちが 」
「噛まれたお前の匂いを感じる、理由は十分だ。言い逃れはできんだろう」
指先が瘡蓋になった首の歯型をゆるゆると押すように擽っていく。
傷口を触られている と言うだけではない、番に触れられていると言う状況が胸を満たして、そんな場合ではないと言うのに嬉しくて……
縁に溜まった涙が一筋、堪え切れなくなって零れ落ちる。
「 俺の番は、お前だな?」
落ちた涙がぱたりとソファーを打つ音が響いて、オレは返事をできないままぐっと唇を引き結んだ。
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