39 / 303
39
しおりを挟む計算されて刈り込まれた木々は人目を隠し、蔓バラと優美な曲線で作られた白亜の小さな屋根が、激務の合間の一時を憩うのに最適なのだと。
俺がそこに足を向けると、緩やかな風に乗って独特な匂いが鼻をくすぐる。
どんな匂いかと尋ねられればー……そう、スカスカとした と言う表現になりそうな、そんな匂いだ。決して悪い匂いではなかったがなんだか漂白されきり、生き物としての何かをすべて削ぎ落したかのような無機質な感じだった。
「 ────やぁ」
白い柱の向こうからそう声が掛かり、振り向いたのか動きに合わせて長い長い銀糸がふわりと舞う。
神が与えた聖銀の人形
天上の百合を模した人
至上のきらめく銀細工
それから、メイド達はいろいろな言葉で表現していたが覚えてはいなかった。
端的に言うなら、神の寵愛を受けるにふさわしい美貌 と言う奴だ。
「クラド、君から声をかけてくれるなんて嬉しいよ」
ふわ と優美に微笑めば、メイド達から悲鳴が上がりそうだった。
当代巫女にして、兄の妻であるかすが……
「この度は、私などがお呼び立てしてしまいまことに申し訳なく 」
「気にしないで、君は僕の義弟でしょう?」
そう言って俺に東屋のベンチを勧めてくる。
「恐れ多いことです」
かすがの義弟と呼ばれるのがか、対等に座ることがか判断しあぐねたのか、かすがは少しだけ苦笑して立ち上がった。
そうすると衣擦れの音と、長く癖のない髪がさらりと音を立てて音楽を奏でているようにさえ聞こえるのだから不思議だ。
深い銀色の瞳を少し細めて、白い指先でもう一度ベンチを差して勧められると座らざるを得ない。
「ふふ。こんなところに呼び出して、なんの話かな?」
俺の着席を待たずにそう声をかけられて、本来ならば行う本題の前にまどろこしい王宮の定型文的なやりとりと跳ばすと言う無作法に驚いた。
薄く唇に乗った笑みからは心は読めない。
匂いも……同様だ。
ずいぶんと昔にこちらに召喚されたばかりの頃は、整った顔をしていたが普通の少年だった。
黒い髪と黒い瞳と言う親近感を覚える姿で、俺よりは年上であったが世慣れていない風なのに貴族共からはるひを守ろうと、凛と顔を上げていた姿を覚えている。
今では銀で作り上げたような体に、朱色の唇だけが異様に目立つ姿に変わってしまって……
「人払いもしてあるんだろ?だったら、君との仲だし堅苦しいのはなしにしよう」
下手な密室よりは と思って庭園を選んだが、突き抜けるような青空に自身の悪事を晒されるのかと覆うと落ち着かない。
心構えはしてきたつもりだったが、それでもまどろこしい定型文が欲しかったと柄にもなく思った。
36
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる