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おまけ 120
しおりを挟む銘はルキゲ=ニア、俺では持ち上げることがやっとのこの大剣は先のゴトゥス遠征でもずいぶんと活躍した。
この黒い耳と黒い尾を持つ猫科の獣人ダンクルがそれで瘴気達を屠る様は圧巻の一言以外の感想を受け付けないほどで、その広い背を見ると無条件にほっとする自分がいる。
とは言えその一方で、なんとも言えない苛立ちも感じる。
「……どうしてここにっ」
「話は後だ、行くぞ!」
俺と同じ色の長い尾が揺れて、火薬で焼けたその箇所に向けてルキゲ=ニアが振り下ろされる。
剣自身の重量と落ちる勢いはすさまじく、俺が切りつけても幾らも捌けなかったそれをあっさりと断ち切ってしまった。
そして切断した箇所に聖別してある火薬玉を投げつければ……
生き物の燃え上がる臭いがしてそこからの触手の再生は叶わない。
「この調子で行くぞっ」
「行きませんっ俺がしんがりを務めます、このまま退却です! 二人では危なすぎる!」
そう叫び、スティオンが投げ捨てた鞄を拾って中身を確認する。
ないよりはマシ程度の応急手当用品と、それから火薬玉がかなりの数、そして短剣が一本だけ入っていた。
何もない状態で戦わなければならなかった時よりは幾分もいい状況であったけれど、それでも俺にとってこれは好転ではない。
「私、ダンクルだけでなく、クラド・リオプス・ラ・ロニフ・バトラクス大公閣下直属部隊『漆黒』の他の隊員も間もなく着く」
「…………っ」
触手を切られ、痛いのか叫びながら転がっている魔人から目をそらさずに、ダンクルの言葉にぐっと眉間に皺を寄せた。
「では、他の隊員が着き次第、離脱してください」
そう言うと黒い尾がぴっと真っ直ぐになって……不満そうに左右に大きく振れる。
「つまり帰れと?」
「戻って現状の報告をお願いします、先代巫女エステスと共に魔人が一体、はるひの体液を摂取後、様子が急変……かつての二の舞になるかもしれません と」
「ではそれは後からくる足の速い者に任せよう!」
そう言うとダンクルはあの重い大剣を翻しながら魔人へと切りかかって行く。
傍らにいたエステスが青い顔をして、傍らの魔人の腕を引く。
「なっ……なん、っ……に、げ……」
「に゛……ぇ゛……?」
「うん、いったん、逃げよう!」
「……はぁ゛る゛びぃ゛ぃ゛……」
エステスの言葉を振り切るように魔人は腕を伸ばした。
何かを掴むかのように伸びたそれは、つい先ほどまで肩を過ぎた辺りで切り落とされて存在しないはずの腕だった。
再生したんだ。
そう思った瞬間、それが何で力を得て行われたものなのかと言うことに息が詰まりそうになる。
あの魔人は、はるひを食らって自分の体を再生したんだ。
「────っ!」
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