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第15章 運河攻撃作戦
15.11章 パナマ湾南方
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「伊19」の木梨艦長は任務を終えた小型水偵を無事に収容できてほっとしていた。何しろここは運河から200海里(370km)程度の海域だ。潜水艦といえどもアメリカの哨戒機に発見される可能性は十分にある。しかし、潜水艦隊にはまだ任務が残っていた。
「このままもう少し東方に移動しますか? 『伊17』はパナマ湾に着水した艦爆の搭乗員を吊り上げたようです。報告の無線を傍受しました」
「そうだな。我々の待機位置は少しばかり、西よりだったな。もう少し東北東に移動する」
小型水偵を収容した潜水艦隊は、パナマ湾の南方海域での搭乗員の救助を命令されていた。空母までたどり着けない機体がどれほど発生するのかわからないが、飛行隊の被害が全くないとは考えられない。
航海長と移動すべき海域を検討していると、水雷長の山口大尉がやってきた。
「東北方向に艦艇の航走音を探知しました。単独航行ではなく、複数の艦艇が東から西に進んでいるようです。音響信号の強度から推定するに、まだ距離があります」
獲物を発見してにやりとしている水雷長に対して、木梨艦長は真剣な顔つきで答えた。
「とにかく、どんな相手なのか確認したい。このまま東北東に向かう」
潜水艦隊に与えられたもう一つの任務が、パナマから太平洋に出てくる艦船の監視だった。太平洋岸のバルボア工廠とその対岸のロッドマン海軍基地には、間違いなくアメリカ海軍の艦艇が停泊しているはずだ。もちろん、パナマの海軍基地は真珠湾に比べればはるかに規模は小さい。それでも、軍艦が停泊できる港を有する海軍基地なのだ。そこから艦艇が出てこないとも限らない。
潜望鏡で確認するとパナマ湾から東に進んでくる複数の艦艇の煙が水平線近くに見えた。
「複数の艦艇、艦種は不明、もう少し待つ。このまま西に進んでくるなら、我々の北側を通るはずだ」
木梨艦長は、相手の航路と自分の艦の位置関係から、距離が近くなるまでの時間を計算していた。その時刻が近づくともう一度潜望鏡を上げた。
「米軍艦艇は若干変針したな。思ったよりも距離が縮まっていない。この距離でやれるか? 15海里(28km)はあるぞ」
後ろで艦長の言葉を聞いていた水雷長の山口大尉が、代わって潜望鏡を覗いた。遠方に2隻の空母と数隻の駆逐艦が見えた。
「小型のようですが相手は空母です。やりましょう。魚雷内蔵の計算機のプログラムも更新しています。魚雷の新機能を生かせば、雷撃可能だと判断します」
潜水艦の水中速度よりも相手の艦隊の方が圧倒的に速い。艦長はすぐに決断した。
「このままでは、目標が遠ざかってゆくのは自明だ。直ちに遠距離攻撃を実施する」
「魚雷の設定は、目標手前まで直線的に航走した後に、あらかじめ設定した航路で航走しながら、艦艇の航跡を探索します」
木梨艦長もその設定には異論がないので大きくうなずいた。航海長の有馬中尉が水雷長の説明に説明に質問した。
「誘導魚雷を撃っても米艦隊には欺瞞用の小型爆雷があります。欺瞞による偽物の航跡を回避するためには、やはり非誘導で発射するのですか?」
山口大尉がすぐに答える。
「魚雷は、敵艦の近傍であらかじめ決めた航走経路に沿って往復や周回運動させる。しかし、今回は遠距離攻撃なので命中率はかなり悪いだろう。どこかで、航跡誘導を有効としなければ命中は期待できない。つまり一定時間後に、誘導を有効化するように設定している」
木梨艦長は、二人のやり取りに一言だけ答えた。
「それでよい。遠いので、わずかずつ角度を変えて全門発射だ。発射後は、次発を発射の可能性がある」
艦長の決断に従って、北側に向かって艦首から6本の魚雷が発射された。
空母の南側を航行していた駆逐艦「バックレイ」は、南方から魚雷が航走してくるのを探知した。艦長のシンクレア少佐は、すぐに空母に警告を発した。
「南方から複数の魚雷。潜水艦から狙われています」
護衛空母「コパヒー」艦長のファレル大佐は、すぐに回頭を命じた。
「魚雷に背を向けて、できる限り遠ざかる。面舵だ」
「コパヒー」と「サンティー」は同時に真北に向けて全速で進み始めた。
「バックレイ」のシンクレア少佐は潜水艦を攻撃しようと考えたが、単独で変針して空母の護衛任務を放棄するわけにはいかない。空母に従って北方に向けて回頭することを決断した。
「空母の近くで護衛を続けるぞ。このままで魚雷が接近してきたら欺瞞弾を投射して空母を守る」
北を向いた空母に接近していった魚雷は、設定に従って東西に蛇行を始めた。「伊19」艦長と水雷長の思惑通りに、米軍の部隊は北向きに回頭していたので、魚雷はこれらの艦艇の航跡を横切ることになった。
木梨艦長は潜望鏡で米艦隊の変針を確認していた。
「やはり北に向けて回頭したな。続けて撃てるか? 雷撃可能なうちに数を発射したい」
山口大尉がそれに答えた。
「全門、再装填が完了しています。しかし、相手が何か対策してこないですかね?」
「縁起でもないことを言うんじゃない。私はしばらくは有効だと信じるぞ」
先行する魚雷の命中も確認しないで、「伊19」から6本の魚雷が発射された。
「バックレイ」と「パターソン」の2隻は接近してくる魚雷に対して、小型爆雷の欺瞞弾を発射した。シンクレア少佐の思惑通りに魚雷は、欺瞞弾の周りで航路を変えて遠ざかっていった。接近してくる魚雷に対して、2隻の駆逐艦は欺瞞弾を連続発射した。しかし、4本の魚雷はそれには反応しないで駆逐艦の後方から側面を通り過ぎていった。「バックレイ」の前方には2隻の護衛空母と同数の駆逐艦が航行していた。
シンクレア少佐はその様子を見て隊内電話(TBS)から大声で叫んだ。
「こちら、シンクレアだ。魚雷に非誘導と誘導が混在しているぞ。欺瞞弾に反応しなかった魚雷は誘導じゃない。あらかじめ決められたパターンを走らせて命中させるつもりだ!」
しかし、4本の魚雷のうちの1本が「サンティー」の航跡を探知して、後方を横切ってから戻ってきて空母の左舷側から命中した。他の魚雷はそのまま過ぎ去ったように見えた。しかし、1本が空母の北方を航行していた駆逐艦「マグフォード」の航跡に入り込んで、短時間蛇行した後に命中した。
「バックレイ」のシンクレア少佐は空母の後方から、前方の空母と駆逐艦に命中する様子を見ていた。
「あれは、誘導された魚雷だぞ。非誘導の魚雷を混在させてたのじゃなかったのか? 2本が命中したところを見ると明らかに誘導されている。非誘導ならばこんな命中率はあり得ない」
しばらくして、「伊19」が続いて発射した魚雷が迫ってきた。欺瞞弾と魚雷の水中爆発が接近してくる魚雷の探知を妨げた。
それでも、「バックレイ」と「パターソン」はぎりぎりで魚雷の接近を探知して欺瞞弾を投射して今回も魚雷を回避した。
欺瞞弾に反応しない5本が再び空母に接近していった。シンクレア少佐は混乱していたが、2隻の護衛空母とその前方北方を航行していた駆逐艦「ヘルム」に向けて、隊内電話で警告を発した。
「今度は誘導魚雷だ。複数の魚雷が向かってくるぞ。注意を発しろ!」
ファレル艦長は、駆逐艦からの通話にすぐに反応した。
「魚雷欺瞞弾を発射しろ。全弾発射で構わん。とにかくこの魚雷を避けるんだ」
「コパヒー」の艦尾から左右に向けて多数の欺瞞弾が発射された。同様に空母の北西を航行していた「ヘルム」も欺瞞弾を撃ちだした。
連続的な欺瞞弾の爆発を航跡と誤探知して、3本の魚雷はジグザグ航行の後にあらぬ方向に航走していった。しかし、2本は欺瞞されずに左舷の離れたところを斜めに遠ざかっていった。
さすがに、ファレル艦長も魚雷攻撃は一段落したと思った頃、「コパヒー」の右舷艦尾に水柱が立ち上った。ぐるっと回って戻ってきた魚雷が空母の航跡を感知して命中したのだ。
2度の雷撃終了後は、「伊19」は、東へと位置を変えていた。欺瞞弾や魚雷の爆発で水中は雑音で一杯だ。しばらくは水中を聴音しても潜水艦の探知はできないだろう。
「魚雷の航跡誘導を有効化する時期をそれぞれずらしておく作戦は、想定以上に上手くいったな」
「ええ、魚雷を命中させるためには、敵艦が欺瞞用爆雷を爆発させた後に、爆発範囲外で航跡誘導を有効化できればいいのですが、そんな細かな調整をあらかじめ行うことは不可能でした。それで、それぞれの魚雷毎に航跡追尾を有効化する時刻をバラバラに設定せざるを得ませんでした。これならば一部の魚雷は適切な時期に誘導機能を有効化して命中させられますからね」
「どうやら、敵艦は、誘導が有効な魚雷と非誘導の魚雷が混在していると思って、かえって混乱したようだな。我々の作戦も進歩しているということだ」
……
一航戦と五航戦では、帰投した攻撃隊の収容が完了していた。「瑞鶴」を発艦した第二次攻撃隊に所属していた銀河が、攻撃終了後に運河の上空をカリブ海のリモン湾から太平洋のパナマ湾の方向に飛行して、攻撃結果を確認してきた。続いて、第二次攻撃隊として、運河攻撃が最後になった一航戦の橋口少佐からもパナマ運河に与えた戦果についての報告があった。橋口機も帰投にあたって、ガトゥンダム上空から運河に沿って南下してきたのだ。
三和参謀が小沢中将に判明している戦果を説明していた。
「最重要のガトゥンダムを破壊したと判断します。ダムは中央部が大きく決壊しており、現在も多量の水が流出しています。現時点でも、水流により破孔が拡大しています。ダムとしての機能は完全に失われました。ミラフローレス、ペドロ・ミゲル、ガトゥンの3カ所の閘門も全て破壊しました。閘門の水位を保つための水密扉で原型を保っているものはありません。加えて周辺の変電所や動力設備もかなりの被害を与えています」
「運河は完全に通行不能で、修復にはかなりの時間を要すると考えてよいのだな?」
「閘門の設備に関しては、予備の鋼材や備蓄したコンクリートの資材を集中的に投入すれば一定期間で修復できるでしょう。しかし、ダムについてはまず構造物の修復が必要です。しかも、ダムを建設した後に、ガトゥン湖に水をためるための時間が必要となります。どれほどの期間を要するのか、私は専門家ではないので簡単には判断できません。しかし、アメリカの工業力を前提としても、運河の機能を回復するまでに2年から3年は必要だと言われても全く不思議とは思いません」
小沢中将もうなずいた。
「よくわかった。流星と銀河に最後の出撃を命じてくれ」
一航戦と五航戦から24機の流星と28機の銀河が発進した。上空には護衛の18機の烈風改が飛行している。攻撃隊はパナマ湾を北上すると運河よりもかなり手前で高度を下げ始めた。まだ米軍の迎撃戦闘機がやってくるよりも手前の海域だ。
編隊は高度を下げながら、進行方向を東に90度変えた。そのまま西から東に一直線に伸びた縦列になると、搭載していた円筒形の物体を投下した。80番(800kg)爆弾とほぼ同じ大きさと重量の物体は、投下されると空中でやや小さな落下傘を開いた。そのまま頭部を下にして着水すると、水中に沈んでいった。航空機から投下して敷設するために開発された二式機雷だった。
パナマ湾への機雷敷設を完了すると、小沢長官は本国への帰投を命じた。
「計画していた作戦は全て完了した。すみやかに日本に戻るぞ」
もちろん誰からも異論は出てこない。米軍から再び攻撃を受ける前に小沢艦隊は西方に向けて航行を開始した。
「このままもう少し東方に移動しますか? 『伊17』はパナマ湾に着水した艦爆の搭乗員を吊り上げたようです。報告の無線を傍受しました」
「そうだな。我々の待機位置は少しばかり、西よりだったな。もう少し東北東に移動する」
小型水偵を収容した潜水艦隊は、パナマ湾の南方海域での搭乗員の救助を命令されていた。空母までたどり着けない機体がどれほど発生するのかわからないが、飛行隊の被害が全くないとは考えられない。
航海長と移動すべき海域を検討していると、水雷長の山口大尉がやってきた。
「東北方向に艦艇の航走音を探知しました。単独航行ではなく、複数の艦艇が東から西に進んでいるようです。音響信号の強度から推定するに、まだ距離があります」
獲物を発見してにやりとしている水雷長に対して、木梨艦長は真剣な顔つきで答えた。
「とにかく、どんな相手なのか確認したい。このまま東北東に向かう」
潜水艦隊に与えられたもう一つの任務が、パナマから太平洋に出てくる艦船の監視だった。太平洋岸のバルボア工廠とその対岸のロッドマン海軍基地には、間違いなくアメリカ海軍の艦艇が停泊しているはずだ。もちろん、パナマの海軍基地は真珠湾に比べればはるかに規模は小さい。それでも、軍艦が停泊できる港を有する海軍基地なのだ。そこから艦艇が出てこないとも限らない。
潜望鏡で確認するとパナマ湾から東に進んでくる複数の艦艇の煙が水平線近くに見えた。
「複数の艦艇、艦種は不明、もう少し待つ。このまま西に進んでくるなら、我々の北側を通るはずだ」
木梨艦長は、相手の航路と自分の艦の位置関係から、距離が近くなるまでの時間を計算していた。その時刻が近づくともう一度潜望鏡を上げた。
「米軍艦艇は若干変針したな。思ったよりも距離が縮まっていない。この距離でやれるか? 15海里(28km)はあるぞ」
後ろで艦長の言葉を聞いていた水雷長の山口大尉が、代わって潜望鏡を覗いた。遠方に2隻の空母と数隻の駆逐艦が見えた。
「小型のようですが相手は空母です。やりましょう。魚雷内蔵の計算機のプログラムも更新しています。魚雷の新機能を生かせば、雷撃可能だと判断します」
潜水艦の水中速度よりも相手の艦隊の方が圧倒的に速い。艦長はすぐに決断した。
「このままでは、目標が遠ざかってゆくのは自明だ。直ちに遠距離攻撃を実施する」
「魚雷の設定は、目標手前まで直線的に航走した後に、あらかじめ設定した航路で航走しながら、艦艇の航跡を探索します」
木梨艦長もその設定には異論がないので大きくうなずいた。航海長の有馬中尉が水雷長の説明に説明に質問した。
「誘導魚雷を撃っても米艦隊には欺瞞用の小型爆雷があります。欺瞞による偽物の航跡を回避するためには、やはり非誘導で発射するのですか?」
山口大尉がすぐに答える。
「魚雷は、敵艦の近傍であらかじめ決めた航走経路に沿って往復や周回運動させる。しかし、今回は遠距離攻撃なので命中率はかなり悪いだろう。どこかで、航跡誘導を有効としなければ命中は期待できない。つまり一定時間後に、誘導を有効化するように設定している」
木梨艦長は、二人のやり取りに一言だけ答えた。
「それでよい。遠いので、わずかずつ角度を変えて全門発射だ。発射後は、次発を発射の可能性がある」
艦長の決断に従って、北側に向かって艦首から6本の魚雷が発射された。
空母の南側を航行していた駆逐艦「バックレイ」は、南方から魚雷が航走してくるのを探知した。艦長のシンクレア少佐は、すぐに空母に警告を発した。
「南方から複数の魚雷。潜水艦から狙われています」
護衛空母「コパヒー」艦長のファレル大佐は、すぐに回頭を命じた。
「魚雷に背を向けて、できる限り遠ざかる。面舵だ」
「コパヒー」と「サンティー」は同時に真北に向けて全速で進み始めた。
「バックレイ」のシンクレア少佐は潜水艦を攻撃しようと考えたが、単独で変針して空母の護衛任務を放棄するわけにはいかない。空母に従って北方に向けて回頭することを決断した。
「空母の近くで護衛を続けるぞ。このままで魚雷が接近してきたら欺瞞弾を投射して空母を守る」
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木梨艦長は潜望鏡で米艦隊の変針を確認していた。
「やはり北に向けて回頭したな。続けて撃てるか? 雷撃可能なうちに数を発射したい」
山口大尉がそれに答えた。
「全門、再装填が完了しています。しかし、相手が何か対策してこないですかね?」
「縁起でもないことを言うんじゃない。私はしばらくは有効だと信じるぞ」
先行する魚雷の命中も確認しないで、「伊19」から6本の魚雷が発射された。
「バックレイ」と「パターソン」の2隻は接近してくる魚雷に対して、小型爆雷の欺瞞弾を発射した。シンクレア少佐の思惑通りに魚雷は、欺瞞弾の周りで航路を変えて遠ざかっていった。接近してくる魚雷に対して、2隻の駆逐艦は欺瞞弾を連続発射した。しかし、4本の魚雷はそれには反応しないで駆逐艦の後方から側面を通り過ぎていった。「バックレイ」の前方には2隻の護衛空母と同数の駆逐艦が航行していた。
シンクレア少佐はその様子を見て隊内電話(TBS)から大声で叫んだ。
「こちら、シンクレアだ。魚雷に非誘導と誘導が混在しているぞ。欺瞞弾に反応しなかった魚雷は誘導じゃない。あらかじめ決められたパターンを走らせて命中させるつもりだ!」
しかし、4本の魚雷のうちの1本が「サンティー」の航跡を探知して、後方を横切ってから戻ってきて空母の左舷側から命中した。他の魚雷はそのまま過ぎ去ったように見えた。しかし、1本が空母の北方を航行していた駆逐艦「マグフォード」の航跡に入り込んで、短時間蛇行した後に命中した。
「バックレイ」のシンクレア少佐は空母の後方から、前方の空母と駆逐艦に命中する様子を見ていた。
「あれは、誘導された魚雷だぞ。非誘導の魚雷を混在させてたのじゃなかったのか? 2本が命中したところを見ると明らかに誘導されている。非誘導ならばこんな命中率はあり得ない」
しばらくして、「伊19」が続いて発射した魚雷が迫ってきた。欺瞞弾と魚雷の水中爆発が接近してくる魚雷の探知を妨げた。
それでも、「バックレイ」と「パターソン」はぎりぎりで魚雷の接近を探知して欺瞞弾を投射して今回も魚雷を回避した。
欺瞞弾に反応しない5本が再び空母に接近していった。シンクレア少佐は混乱していたが、2隻の護衛空母とその前方北方を航行していた駆逐艦「ヘルム」に向けて、隊内電話で警告を発した。
「今度は誘導魚雷だ。複数の魚雷が向かってくるぞ。注意を発しろ!」
ファレル艦長は、駆逐艦からの通話にすぐに反応した。
「魚雷欺瞞弾を発射しろ。全弾発射で構わん。とにかくこの魚雷を避けるんだ」
「コパヒー」の艦尾から左右に向けて多数の欺瞞弾が発射された。同様に空母の北西を航行していた「ヘルム」も欺瞞弾を撃ちだした。
連続的な欺瞞弾の爆発を航跡と誤探知して、3本の魚雷はジグザグ航行の後にあらぬ方向に航走していった。しかし、2本は欺瞞されずに左舷の離れたところを斜めに遠ざかっていった。
さすがに、ファレル艦長も魚雷攻撃は一段落したと思った頃、「コパヒー」の右舷艦尾に水柱が立ち上った。ぐるっと回って戻ってきた魚雷が空母の航跡を感知して命中したのだ。
2度の雷撃終了後は、「伊19」は、東へと位置を変えていた。欺瞞弾や魚雷の爆発で水中は雑音で一杯だ。しばらくは水中を聴音しても潜水艦の探知はできないだろう。
「魚雷の航跡誘導を有効化する時期をそれぞれずらしておく作戦は、想定以上に上手くいったな」
「ええ、魚雷を命中させるためには、敵艦が欺瞞用爆雷を爆発させた後に、爆発範囲外で航跡誘導を有効化できればいいのですが、そんな細かな調整をあらかじめ行うことは不可能でした。それで、それぞれの魚雷毎に航跡追尾を有効化する時刻をバラバラに設定せざるを得ませんでした。これならば一部の魚雷は適切な時期に誘導機能を有効化して命中させられますからね」
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小沢中将もうなずいた。
「よくわかった。流星と銀河に最後の出撃を命じてくれ」
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編隊は高度を下げながら、進行方向を東に90度変えた。そのまま西から東に一直線に伸びた縦列になると、搭載していた円筒形の物体を投下した。80番(800kg)爆弾とほぼ同じ大きさと重量の物体は、投下されると空中でやや小さな落下傘を開いた。そのまま頭部を下にして着水すると、水中に沈んでいった。航空機から投下して敷設するために開発された二式機雷だった。
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