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椰子ふみの

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第二章

ピクニック

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「きれい」

 それ以外の言葉が出てこない。
 レオさんの手を借りてドロテアから降りると、花の甘い香りに包まれた。

「子供の頃、母に花をプレゼントしたくて、ここまで来て、怒られたことがある」

 レオさんの小さい頃を想像する。笑顔が可愛くて、お花をいっぱい抱えて。お母さんは嬉しかっただろうな。

「なぜ、怒られたんですか」
「この近くは魔獣が現れることがある。それなのに一人で来たから」
「魔獣?」
「大した魔獣じゃない。ドロテアでも勝てるような弱い小さな魔獣」

 ドロテアが当たり前だというように嘶いた。

「その頃は小さかったから」

 想像の中のレオさんを小さくする。

「見てみたかったな。小さなレオさん」
「俺も見たかったな。小さなマリア」

 なんだか、恥ずかしくなる。

「湖のそばまで行こう。ドロテアは好きにしていいぞ」

 レオさんがドロテアから荷物をおろして、その背中を軽く叩くと、ドロテアはすぐに足元の花を食べ始めた。

「あ、もったいない」

 せっかく、きれいな花なのに。

「ドロテアでも食べきれないさ。それに蜜が甘い」

 レオさんが花を二つ摘むと、一つを私に渡し、もう一つをチュッと吸った。
 懐かしい。幼稚園とか、小学校ぐらいの時にしたことがある。
 私もチュッと吸った。青臭さはなく、さっぱりした甘さだった。

「おいしい。ドロテアが食べるのがわかる」
「ニオイハツカソウという花だ」

 そういえば、名前を聞くのを忘れていた。そういえば、お店に飾ってある花の名前もほとんど知らない。
 この世界に来てから、必死に生きてきた。早く自分の店を持ちたくて、働いて、勉強して、考えて。休みの日に自然と触れ合うなんて発想もなかった。余裕が無さすぎたかもしれない。

 レオさんが手を差し出したので、その大きな手を握った。エスコートよりもこの方が恋人って感じがする。

「マリアの手は小さいな」
「あ、あの、ガサガサですみません」

 ヘアメイクの仕事はシャンプーや手を洗うことが多いから、どうしても荒れてしまう。この世界ではパーマがない分、荒れはましになるかと思ったけど、ハンドクリームのいいのがないので、荒れ具合は同じぐらいだ。

「仕事で荒れるのは仕方ないさ。可愛い手だな。俺の手にすっぽり入ってしまう」

 しみじみと言われて、顔が熱くなる。

「レオさんの手が大きいから」

 レオさんの手はたこができて、少しゴツゴツしている。ずっと鍛えているからだろう。

「レオさんって、剣だけじゃなく、魔法も使えるんですよね」
「ああ、大した魔法じゃないが、剣に炎をまとわせると魔獣と戦いやすい」
「見てみたいな」
「危ないから無理だ」
「わかってるけど、かっこいいだろうなと思って」
「練習を見に来ればいい」
「見に行っていいの?」
「若い騎士を見に女性の見物客は多いぞ」
「そうなんだ」

 レオさんを好きな子が増えたら嫌だなあ。

「俺はモテないからな」

 そう言いながら、レオさんはニコニコしている。

「なんだか、嬉しそう」
「マリアが嫉妬してくれたのかと思って」
「う、うん、まあ、そうだけど」
「俺はモテない。そして、マリアしか目に入らない」
「それがおかしいと思う。私の国だったら、レオさん、絶対、モテるのに」

 湖のそばまで行くと、レオさんは荷物を置いた。
 湖の水は透明で魚が泳いでるのが見える。

「きれい」
「深いから気をつけて」

 湖をのぞき込むと後ろからウエストを抱えられてしまった。

「だ、大丈夫です」

 恋人では当たり前の距離が恥ずかしい。恋愛経験の無さがバレてしまいそうだ。

「こう見えても、泳ぎは得意で」
「そうなんだ。どこで泳いでたの?」
「プールっていう人工の水泳場で。信じられないだろうけど、水着っていう肌がほとんど見える服で泳ぐの」

 棒を拾って、ガリガリと地面に絵を描いた。

「マリアも着たの?」

 レオさんの眉間に皺がよる。

「うん。学校で習うし」

 はしたないと思われそうだ。ビキニの絵はやめておいてよかった。

「見た人がいるんだ」
「う、うん」

 レオさんがハーッと息を吐いた。

「もしかして、嫉妬してる?」

 さっきのレオさんの気持ちがわかった。嬉しい。

「ああ。これからはそんな姿を男には見せないで」
「うん」
「でも、俺も見てみたいな」

 と言ったレオさんがしまったという顔になった。

「ごめん」
「ううん」

 よく考えたら、二人っきりでまわりに人がいないのって初めてだ。家ではいつも、ミルルがいるし、食事に行く時はカジュアルなところなので個室を選ばないし。

「マリア」

 レオさんの顔が近づいてくるから、私は目を閉じた。
 思っていたより柔らかい唇。クラクラする。
 ヒヒーン。
 嘶きと共にドロテアが間に割り込んだ。

「おい、別に悪いことをしていたわけじゃないから」

 さんざん、ドロテアに押しのけられるレオさんに私は笑いが止まらなかった。

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