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セクシー

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 ジェシーさんはお昼を食べようとしていたみたいだけど、また、フランチェスカさんに睨まれて、ギルド長と一緒に帰って行った。
 お昼はトマトとナスのパスタ。実際はトマトとナスではないんだろうけど、私の唯一のチート能力で料理名はそう通訳された。

「おいしいです」
「昼と夜はバルデールの専属料理人が作っているんだ。この味のために来る貴族もいるんだよ」

 なるほど、芸者さんのいる高級料亭でもあるわけですね。

 食後すぐにフランチェスカさんにお客がやってきた。アーネットさんという男性。バルデールの衣装をデザインしている人らしい。アジア系の顔をしている。珍しい。黒髪に黒い目というのに親近感を覚える。

「下着をうちの従業員、全員分、作りたいんだ。これを参考に」

 フランチェスカさんが私の下着を見せる。うーん、洗ったとはいえ、自分の着ていた下着は恥ずかしい。それより、異世界の物を見せて、大丈夫なの? 秘密にするんじゃなかったの?

「大丈夫。アーネットとはうちの仕事全てについて秘密保持契約をしている」

 私の目線に気づいて、フランチェスカさんが言った。

「その下着を見ればわかると思うけど、このマリアは落ち人さ」

 あ、そこまで話しちゃうんだ。

「初めまして」

 ペコリと頭を下げると、アーネットさんは笑顔になった。

「まあ、まあ。じゃあ、あたしの祖父と同じね。ニューヨークというところから落ちたらしいの」

 落ち人の孫なんだ!

「そうなんですか、知ってます。ニューヨーク、憧れの街でした」

 母に出張についてくるかと聞かれたのに自力で行くからいいと遠慮したけど、行っておけばよかったなあ。

「憧れなんて、言ってもらうと嬉しいわ」

 アーネットさんは身悶えした。

「かさばるコルセットやクリノリンが無くなったのは、その祖父の方のおかげだよ」

 確かにみんなの支度を見ていても、コルセットを紐で締めたりはなかった。

「それより、この下着、セクシーでいいじゃない」

 アーネットさんは仕事モードに入った。

「まさか、こんな下着をつけていたとはねえ」

 フランチェスカさん、まじまじ、私を見るのはやめてください。

「気合いを入れる時におしゃれな下着をつけるって人も多かったんです。私の国では。赤色は勝負の色と言われていて」
「あら、そうなの。ステキな風習ね」

 アーネットさんはブラジャーの構造をチェックしている。

「祖父の伝えた乳当てより、支える構造というのかしら、しっかりしているわ。それでいて、このレースの配置がいいわね。あ~ん、イメージがどんどん湧いちゃう」

 せっかくなので、拙い知識も伝えておこう。

「ブラジャーはハーフカップと言って、上半分がないものもありました。ショーツは横を紐にしたり、あ、Tバックというのがあって」

 エプロンドレスのポケットに入れていたカルテとペンを取り出し、また、絵を描く。うーん、他にセクシーなのって、何があったかなあ。

「ちょっと、刺激が強すぎない? そのお尻のところに布が無いなんて」

 ふと、気がつくと、アーネットさんの顔が赤くなっている。

「いや、これはお尻の綺麗な子につけてもらおう」

 フランチェスカさんは目を光らせた。

「まさか、マリアがこんなセクシーな下着を知っているとはね」

 いや、このぐらいは普通だと思うんだけど。私がそんなことを言ったら、詳しい人みたいだよね。単に日本が進んでいるというか、この世界が慎ましいというか。

「あ、あの、私、自分の普段の服が欲しいんです」

 そうだ、今のうちに頼んでおかなくちゃ。

「うちで注文すると高いわよ」
「かんざしで儲かったとはいえ、それじゃ、満足できないのかい」
「子ども服を着ているんだと思うと恥ずかしくて。注文じゃなくて、こちらで女性が履いているズボンがあれば、買いたいんです」

 自分が履いてきたパンツスーツを見せた。

「すごい、こんなに伸びるなんて、不思議」

 アーネットさんがビンビン引っ張る。形崩れしそうだけど、あまりにも熱心なので、黙っておく。

「でも、これ、お尻が形のまま、わかるでしょう。こんなズボンを履くなんて、やっぱり、セクシーなのが好きなの?」

 アーネットさんに尋ねられたけど、ピンとこない。ズボンがセクシー? お尻が垂れていると恥ずかしい気はすると思うけど。

「お尻の形がわかるなんて、あけすけ過ぎて、うちではそんな衣装は着ないよ。最初、マリアがズボンを履いていたのも、色気がないから、直接、アピールするつもりかと思ったのに」

 ああ、私の第一印象って、最悪だったんですね。

「私の国では女性もズボンを履くんです。動きやすいから。じゃあ、この国の女性はズボンを履くことはないんでしょうか」
「女騎士は履くが、普通の女性は履かないね」
「女騎士のズボンを私が履いたらおかしいでしょうか」
「頭がおかしいように思われるかもね」
「お尻の形がわからなければいいんですよね。スカートのように見えれば」

 フランチェスカさんと私のやりとりの間、ずっと、黙っていたアーネットさんが絵を描き始めた。

「こんな感じでどうだい? スカートのように見えるだろう」

 こ、これは、ワイドパンツ! しかも、ギャザーをいっぱいつけて、スカートに見える。でも、シンプルでかっこいい。アーネットさん、すごい、今、思いついたの?

「すごい! 天才です」
「ふふっ、そうでしょ」
「これ、ください」

 私はアーネットさんの手を握りしめて、フランチェスカさんに確認した。

「これなら、私が売り物と間違えられることもないですよね」

 なぜか、また、フランチェスカさんはため息をついた。

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