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第一章
反省
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部屋から音が無くなったようだった。
まわりを見ると、みんな、私から目をそらす。
「ついてきな」
フランチェスカさんの言葉にふらふらと立ち上がった。
部屋に入ると、しっかり、ドアを閉めてから、フランチェスカさんは頭を下げた。
「悪かった。マリアにはこの国の常識がわからないのに、もっと、きちんと説明しておくべきだったね。この国じゃ、髪の毛を切るのは罪人か奴隷なんだ」
「いえ、私が悪いんです。実はレオさんから。罪人や奴隷だけだって聞いてたました。それを軽い気持ちで受け止めてました」
フランチェスカさんは目を伏せた。
「ミルルはね、親に捨てられた子だ。母親は昔、デルバールで働いていたんだけど、金を借りにきて、そのまま、ミルルを置き去りにしたんだ。その時のミルルの髪はこのくらいしか長さがなかったよ」
「え?」
フランチェスカさんが指で示す長さは2センチぐらいしかない。
「髪はカツラの材料として高く売れるんだ。自分の髪を切らずに子供の髪を切って売ったんだよ」
「ひどい……」
「だから、あの子には切るなんて耐えられなかったんだ。やっと、今の長さまで伸ばせたんだ」
私、何やってるんだろう。この国でサロンを開くって、目標は大きいくせに、理解は薄っぺらのまま。切ることにこだわって、切られる人の気持ちを考えようともしなかった。
お客様の笑顔を見るのが楽しみだったんじゃないの。
「謝ってきます」
「いや、まずは私から謝って、マリアの事情を話しておくよ」
そう言って、フランチェスカさんは行ってしまった。確かに今、私の顔なんて見たくもないだろうけど。
私は食堂に戻る勇気も出ず、自分の部屋に戻ると、ベッドで膝を抱えた。
帰りたい。戻りたい。
言葉が通じても、ここは全く違う世界。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「フランチェスカさん。ミルルちゃんは」
慌ててドアを開けると、そこにいたのはイブさんだった。イブさんはすっと部屋に入り込むと、鍵を閉めた。
「ひどい顔」
「ひどいのは顔じゃないんです。私なんです」
「他の子から聞いたよ」
イブさんは私の手を引っ張り、ベッドに座らせた。
「髪を切るのは私の国では普通のことだったんです。イブさんも髪の毛を切らせてくださいって、言っても断りますよね」
イブさんはドスンと隣に座った。私の方を見ずに言う。
「断るに決まってるじゃない」
「え?」
「当たり前でしょ。マリアが言ったんじゃない。私の髪が綺麗って。なのに、切るの? あなたは魅力を引き出してくれるんじゃなかったの。何をそんなに焦っているの」
そうだ、どうして。
初めて来たお客様が長さそのままでと言っているのにいきなりショートを勧めたりする?
ショートが似合いそうだと思っても、あくまでも、お客様の希望に応えるのが一番なのに。
「かんざしが売れて、お金が入りそうだから」
私は理由を考える。
「なぜ、お金が入ると、焦るの?」
「お金が入るなら、私のお店をすぐに開くことができるかもしれない」
無くしたものを取り戻せる。胸を締め付けられるような気持ち。
「お店を開くことができるなら、いいじゃない」
「私のお店は髪結だけをするお店じゃなかった。カットに自信があったから、それを売りにするつもりだった。それに全然、ハサミを使ってないから、腕が落ちてるかもしれない」
エアカットしてるけど。そんなの、練習にならない。
「腕が落ちても、また。取り戻せるでしょ。それとも、あなたの腕というのはそんなに薄っぺらなものなの?」
「そんなことない。私は……」
「なら、慌てなくてもいいじゃない。あなたには力がある。私の髪を結ってくれて、私の気持ちは軽くなったの。だから、大丈夫。ねえ、ハサミを使うのって、短い髪型じゃないと無理? 長いままで練習できるなら、私の毛先を使っていいから」
「イブさん」
私はイブさんを見つめた。優しくうなずいてくれるので、泣きそうになる。でも、泣いちゃいけない。
深呼吸してみた。
焦らない。焦ってはダメ。本当にしたいことはヘアサロンを開くことじゃない。お客様の魅力を引き出し、笑顔を見ること。
そう、一からやり直すんだから、同じだけの時間をかける覚悟を決めなくては。
「ありがとうございます。気持ちが落ち着きました。長いままでもっとイブさんに似合う髪型を思いついたら、練習を頼みます」
「もっと似合うなら、練習じゃないわね」
「はい。練習なら自分の髪を使います」
それから、カツラを買いに行って、それで練習してもいいかもしれない。
「元気出た?」
「はい」
「じゃあ、ドアを開けてみて。誰か来てるわ」
慌てて、ドアを開けに行くと、そこにいたのはフランチェスカさんとミルルだった。ミルルはフランチェスカさんの服をギュッと掴んでいた。
「叩いてごめんなさい」
ミルルに先に謝られてしまった。
「ううん、私が悪かったから。叩かれても当たり前だった。本当にごめんなさい」
「あの、―フランチェスカさんがあなたも奴隷になるところだったって言ってた。本当?」
「本当。青の騎士団に助けてもらったの」
「そっか、私と一緒だね。マリアさんも髪の毛、伸びるといいね」
ミルルがにこっと笑った。
自分のつらいことを思い出したのに無神経な私のことまで気づかってくれる。優しい子。
「ありがとう。あのね、気をつけるつもりだけど、私、この国のことを勉強中なの。もし、勘違いして変なことを言ったら、叱ってね」
「うん、任せて」
私はミルルを可愛くする髪型を考えようと決心した。
まわりを見ると、みんな、私から目をそらす。
「ついてきな」
フランチェスカさんの言葉にふらふらと立ち上がった。
部屋に入ると、しっかり、ドアを閉めてから、フランチェスカさんは頭を下げた。
「悪かった。マリアにはこの国の常識がわからないのに、もっと、きちんと説明しておくべきだったね。この国じゃ、髪の毛を切るのは罪人か奴隷なんだ」
「いえ、私が悪いんです。実はレオさんから。罪人や奴隷だけだって聞いてたました。それを軽い気持ちで受け止めてました」
フランチェスカさんは目を伏せた。
「ミルルはね、親に捨てられた子だ。母親は昔、デルバールで働いていたんだけど、金を借りにきて、そのまま、ミルルを置き去りにしたんだ。その時のミルルの髪はこのくらいしか長さがなかったよ」
「え?」
フランチェスカさんが指で示す長さは2センチぐらいしかない。
「髪はカツラの材料として高く売れるんだ。自分の髪を切らずに子供の髪を切って売ったんだよ」
「ひどい……」
「だから、あの子には切るなんて耐えられなかったんだ。やっと、今の長さまで伸ばせたんだ」
私、何やってるんだろう。この国でサロンを開くって、目標は大きいくせに、理解は薄っぺらのまま。切ることにこだわって、切られる人の気持ちを考えようともしなかった。
お客様の笑顔を見るのが楽しみだったんじゃないの。
「謝ってきます」
「いや、まずは私から謝って、マリアの事情を話しておくよ」
そう言って、フランチェスカさんは行ってしまった。確かに今、私の顔なんて見たくもないだろうけど。
私は食堂に戻る勇気も出ず、自分の部屋に戻ると、ベッドで膝を抱えた。
帰りたい。戻りたい。
言葉が通じても、ここは全く違う世界。
コンコン。
ドアをノックする音がした。
「フランチェスカさん。ミルルちゃんは」
慌ててドアを開けると、そこにいたのはイブさんだった。イブさんはすっと部屋に入り込むと、鍵を閉めた。
「ひどい顔」
「ひどいのは顔じゃないんです。私なんです」
「他の子から聞いたよ」
イブさんは私の手を引っ張り、ベッドに座らせた。
「髪を切るのは私の国では普通のことだったんです。イブさんも髪の毛を切らせてくださいって、言っても断りますよね」
イブさんはドスンと隣に座った。私の方を見ずに言う。
「断るに決まってるじゃない」
「え?」
「当たり前でしょ。マリアが言ったんじゃない。私の髪が綺麗って。なのに、切るの? あなたは魅力を引き出してくれるんじゃなかったの。何をそんなに焦っているの」
そうだ、どうして。
初めて来たお客様が長さそのままでと言っているのにいきなりショートを勧めたりする?
ショートが似合いそうだと思っても、あくまでも、お客様の希望に応えるのが一番なのに。
「かんざしが売れて、お金が入りそうだから」
私は理由を考える。
「なぜ、お金が入ると、焦るの?」
「お金が入るなら、私のお店をすぐに開くことができるかもしれない」
無くしたものを取り戻せる。胸を締め付けられるような気持ち。
「お店を開くことができるなら、いいじゃない」
「私のお店は髪結だけをするお店じゃなかった。カットに自信があったから、それを売りにするつもりだった。それに全然、ハサミを使ってないから、腕が落ちてるかもしれない」
エアカットしてるけど。そんなの、練習にならない。
「腕が落ちても、また。取り戻せるでしょ。それとも、あなたの腕というのはそんなに薄っぺらなものなの?」
「そんなことない。私は……」
「なら、慌てなくてもいいじゃない。あなたには力がある。私の髪を結ってくれて、私の気持ちは軽くなったの。だから、大丈夫。ねえ、ハサミを使うのって、短い髪型じゃないと無理? 長いままで練習できるなら、私の毛先を使っていいから」
「イブさん」
私はイブさんを見つめた。優しくうなずいてくれるので、泣きそうになる。でも、泣いちゃいけない。
深呼吸してみた。
焦らない。焦ってはダメ。本当にしたいことはヘアサロンを開くことじゃない。お客様の魅力を引き出し、笑顔を見ること。
そう、一からやり直すんだから、同じだけの時間をかける覚悟を決めなくては。
「ありがとうございます。気持ちが落ち着きました。長いままでもっとイブさんに似合う髪型を思いついたら、練習を頼みます」
「もっと似合うなら、練習じゃないわね」
「はい。練習なら自分の髪を使います」
それから、カツラを買いに行って、それで練習してもいいかもしれない。
「元気出た?」
「はい」
「じゃあ、ドアを開けてみて。誰か来てるわ」
慌てて、ドアを開けに行くと、そこにいたのはフランチェスカさんとミルルだった。ミルルはフランチェスカさんの服をギュッと掴んでいた。
「叩いてごめんなさい」
ミルルに先に謝られてしまった。
「ううん、私が悪かったから。叩かれても当たり前だった。本当にごめんなさい」
「あの、―フランチェスカさんがあなたも奴隷になるところだったって言ってた。本当?」
「本当。青の騎士団に助けてもらったの」
「そっか、私と一緒だね。マリアさんも髪の毛、伸びるといいね」
ミルルがにこっと笑った。
自分のつらいことを思い出したのに無神経な私のことまで気づかってくれる。優しい子。
「ありがとう。あのね、気をつけるつもりだけど、私、この国のことを勉強中なの。もし、勘違いして変なことを言ったら、叱ってね」
「うん、任せて」
私はミルルを可愛くする髪型を考えようと決心した。
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