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椰子ふみの

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第一章

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「君と会ってみたかったんだよ。こんな可愛いお嬢さんとは思わなかった」

 ロマンスグレーのイケオジにそんなこと言われてはどう反応していいのやら。しかも、徴税長官らしい。

「マリアと申します。お目にかかれて光栄です」

 デルバールの店内にお客様に呼ばれて来るのは初めてなので緊張してしまう。挨拶が合っているかとフランチェスカさんを見ると、うなずかれたのでホッとする。

「かんざしの流行はすごいねえ」
「ええ、おかげさまで」

 こつこつ、デルバールで働いているうちに冬になった。その間にかんざしはものすごく流行している。宝石じゃなく、布で作った花飾りをつけた小さなかんざしが結った髪に後から簡単にさせると平民を中心に人気が爆発してしまった。安いかんざしだから、一つ当たりの価格は安いけど、数が出たので、ずいぶん、私も儲かってしまった。
 徴税長官ということでそのお金の動きも抑えているのかもしれない。

「下着はプレゼントに使わせてもらっているよ」

 私の発案だと思われているのなら、恥ずかしい。
 デルバールで下着を見た男性が妻や恋人にプレゼントすることでかなり売れているようだ。
 ドライヤーやヘアアイロンはまだ、デルバールで使っているだけであまり、広まっていない。でも、デルバールでみんなにドライヤーの使い方を説明したので、みんな、髪はツヤツヤだし、私を仲間として見てくれるようになった気がする。

「それで頼みがあってね」

 いよいよ、本題。何が来るのか、恐ろしい。

「娘の卒業パーティーの衣装と髪結、化粧を頼みたいんだ」
「あの、申し訳ありません。髪結と化粧は大丈夫ですが、衣装は……」
「もちろん、アーネットに頼んでもらって構わない。ただ、アイデアを出してもらいたいんだ」
「なにか、特別なご希望がおありでしょうか?」
「娘が仲のいい友人二人と揃いのドレスにしたいらしい。普通の舞踏会ならありえない話だが、卒業したら、すぐに嫁入りする娘たちだ。最後に思い切って羽を伸ばさせてやりたい」

 優しいお父さんだ。

「わかりました。一度、その三人の方とお会いすることはできるでしょうか? できたら、アーネットさんも一緒に希望を聞きたいと思います」

 もう、失敗しないようにまずはお客様の話を聞かなくては。そして。

「お父様の希望も何かありましたら」

 私はメモを取り出した。

 場所はアーネットさんのアトリエに決まった。

「採寸も済ませたいから」

 ということらしい。
 戸口で待っていると、馬に乗った騎士二人を先導に立派な馬車が現れた。騎士にエスコートされ、現れたのは可愛い女の子三人に侍女らしい女性。

「ガブリエル・ボロワでございます。アーネットさま、マリアさま、本日はよろしくお願いします」

 徴税長官のお嬢さんは見事なカーテシーを披露した。クリーム色の髪を二つに分けて三つ編みにしている。ドレスはシンプルな紺色だ。

「ジャンヌ・ダーバンでございます」
「クロエ・ファゴットでございます」

 ジャンヌさんは薄い水色の髪、クロエさんは薄い黄緑色の髪で髪型のドレスもガブリエルさんと同じだ。それにしても、みんな可愛い。

 アーネットさんの優雅な挨拶の後、私はぎこちなく挨拶した。もっと、礼儀作法も勉強しないといけないなあ。

「お揃いの格好にしたいんですね」

 アトリエに落ち着くと、まずはアーネットさんが尋ねた。

「ええ、この制服も終わりですし、思い出に残るようなドレスが着たいんです」

 ガブリエルさんはハキハキと喋った。
 今、着ているドレスが制服とはわからなかった。日本の制服とはまるで違う。
 ノートに日本の制服の簡単なイラストを描いてみた。セーラー服にプリーツスカート。ジャケットにチェックのスカート。どちらもスカート丈はくるぶしまで伸ばしておく。髪は結い上げた方がいいかと思い、ツインお団子にする。

「私の国の制服だと、こんな感じなんです」

 そう言うと、みんなが一斉に覗き込んだ。

「この襟、変わってる」
「でも、この幅広いリボン、可愛いかも」
「この上着、乗馬服みたい。私、こっちが好き」
「この髪型、可愛い。これは決定じゃない?」

 喋り出すと、貴族のお嬢さんも普通の高校生のようだ。
 みんなの言葉をアーネットさんが書き留めている。

「同じ服で色違いにするとか、色も同じで差し色だけ変えるとか」

 私が付け加えると、アーネットさんが食いついた。

「差し色って何?」

 私は少し離れたところに散らばっている布に近寄った。

「お借りしますね」

 白い布にひだをよせ、そこに小さく畳んだ赤い布をのせる。

「一ヶ所だけ、違う色を入れることを言うんです。例えば、この赤なら、ガブリエルさま、この青ならジャンヌさまがお似合いになると思います」
「私は?」
「クロエさまは瞳に合わせて紫がよろしいかと」

 アーネットさんがシャッシャッとデザインを書き始める。
 ジャケットの襟をなくして、ボレロみたいな感じに。ボレロの形はレースのタイプとドレープたっぷりのタイプの二種類。中のドレスはふんわりふくらませて。さすが、プロ。可愛いのに上品になっていく。

「これ、これ」
「可愛い」
「ああ、レースもいいけど、こっちもいい」
「あの、上着と同じ生地でリボンを作り、髪飾りにするのもいいかもしれません」

 私は先ほど描いたツインお団子の片方にレースのリボンを、もう片方に布の大きなリボンを追加する。
 アーネットさんがレースや布を持ってきたので、レースと布を重ねてリボンを結んでみせた。

「レースと差し色の二色使いはいかがでしょう」
「いいね」
「お揃いで、でも、同じじゃないってのがいいね」
「これにしてもらおう」

 ドレスは差し色を入れ、ボレロはレース、髪飾りはレースと布を重ねることになった。

「あの、かんざしもつけたいんですけど」

 ああ、流行しているものね。

「レースを花のようにまとめたかんざしをつけましょう」

 わっと喜んでもらえて、私も嬉しくなった。

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