異世界ヘアサロン あなたの魅力、引き出します

椰子ふみの

文字の大きさ
18 / 48
第一章

変身

しおりを挟む
 部屋の外で追いつくと、侍女がエスメラルダさんに寄り添っていた。
 
「待ってください。私にその髪を整えさせてください」
 
 侍女が鬼の形相になった。
 
「お嬢様をさらに貶めるつもり?」
 
「失礼いたしました。私はデルバールの髪結師、マリアと申します」
「デルバール。……では、あなたが噂の髪結師?」
 
 噂って、何だろう。気になるけど、それどころじゃない。
 
「はい、そうです。短い髪でも、いえ、短い髪の方がエスメラルダ様の魅力が引き出せます。このままでは納得できません。エスメラルダ様の美しさは髪の長さとは関係ないことを見せつけませんか? 任せてもらえませんか?」
 
 エスメラルダさんの瞳に小さな光が宿った。
 
「あなたならできるというの?」
「はい」
 
 私は力強く答えた。
 この世界でできるのはたぶん、私だけ。ショートカットの魅力を知っているのは異世界転移してきた美容師の私だけだから。

「では、お願いするわ」
「どうぞ、こちらへ」

 控え室に案内する。

「アーネットさん、細身のドレスありますか?」
「いきなり、何よ」

 何かをつまんで食べていたアーネットさんがエスメラルダさんを見て、慌てて姿勢を正し、お辞儀する。

「アーネットと申します」
「エスメラルダ様を今までで一番、美しくしたいの。大急ぎ。そのためには細身のドレス、色は薄い色がいいと思うんだけど」
「マリア用に前、言っていたスカートのようなズボンを持ってきてるけど。白だよ」
「アーネットさん、それ、それをお願い」

 アーネットさんの顔が引き締まった。エスメラルダさんについてきた侍女に声をかける。

「手直しするから、サイズを教えて」

 私は安心して、ドレスはアーネットさんに任せる。エスメラルダさんに椅子に座ってもらう。

「髪の癖を取るために濡らさせてもらいます」

 シャンプー台もないから仕方ない。
 ケープをかけた後、水をたっぷり吹きつけ、それから、櫛を通す。イブさんに似ているストレートのしっかりした髪質。
 一番、短く切られているのが後ろで、生え際ギリギリのところもある。
 どんな髪型ならできる? どんな髪型が似合う?

「無理じゃない?」

 エスメラルダさんが心細そうな声を出す。

「辺境領を継ぐ者として一生懸命だった。男勝りだと言われても仕方ないと思っていた。でも、ブライアン様はそうは思わなかったのね」
「エスメラルダ様の魅力がわからない方は放っておきましょう」

 あ、こんなことを言ったら、不敬になるのかな。でも、今、部屋にいるメンバーだと大丈夫だよね。

「目をつぶってください。お顔をお拭きします」

 貴重なメイク落としシートを使って、エスメラルダ様の顔を拭く。わー、お肌すべすべ。

「髪を整えていきます」

 そうだ、前下がりボブだ。それしかない。
 少しタオルで押さえてから、髪の長すぎる部分はまず、肩の高さで切り落とす。前は短くなっていないので、前髪は作らない。左に短く切られてしまっているところがあるので、アシンメトリーにしよう。ブロッキングでパートごとに分けてピンで留める。

「大きい音がしますが大丈ですからね」

 バリカンで後ろの襟足を整える。
 あとは手が自然に動く。ブロッキングのパートごとにカットしていく。ああ、きれいな髪だ。
 きっと、短いままでなく、また、髪を伸ばされるだろうから、すきバサミは入れない。
 切り終わったら、少しオイルをつけて、ドライヤーで乾かす。うん、紺色の髪も綺麗。

「マリア、手直しできたよ」

 いつのまにか、フランチェスカさんも手伝っていたらしい。

「エスメラルダ様、ここで先にドレスに着替えていただきます」

 アーネットさんがパンツタイプのドレスを着せる。ああ、このドレスは私より、エスメラルダさん向きだったかもしれない。すごく似合う。トップスはコンパクトなオフショルダーだ。アーネットさん、流石だ。エスメラルダさんの美しい首が目を引く。靴はドレスと完璧には合わないが、ほとんどズボンの裾で隠れるから大丈夫だろう。

「エスメラルダ様、お綺麗です」

 侍女が泣きながら、笑いながら言う。
 もう一度、座ってもらって、ヘアアイロンでさらに真っ直ぐに仕上げる。
 それから、メイク。
 透明感の出るラベンダーの下地を塗る。パウダーは軽く。リップも赤いグロスで透明感を重視。

「目をつぶってください」

 銀ラメのアイシャドウに髪と同じネイビーでアイラインは長めに引く。まつ毛はビューラーでカールさせず、マスカラもネイビーで目尻側を長く。最後に肩にも、ラメのパウダーを少し振る。
 うん、我ながら、いい出来。
 男装の麗人。いや、もう少し中性的な感じ。透明感があって、神秘的で、色気も少し感じる。

「髪の長さとエスメラルダ様の素晴らしさは関係ないんです」

 鏡を見せると、エスメラルダさんは目を見張った。顔がゆっくりと紅潮していく。

「私は婚約破棄された哀れな女ではない」
「はい、そうです」
「一人でも辺境伯として生きていく」
「エスメラルダ様ならできます」
「恥ずかしがることはない」
「もちろんです」

 エスメラルダさんが立ち上がる。さらりと髪が揺れる。

「あ、待ってください」

 私は予備のかんざしから細長い飾りがぶら下がっているものを取り出した。つながっている輪を無理やり広げてはずす。髪の長い方のピアスにつけようと苦労していると、侍女が代わりに付けてくれた。

「片側だけですか?」
「ええ、髪が動いた時だけ見えるのがいいんです」

 エスメラルダさんが深々とお辞儀した。

「マリアさん、ありがとうございます」
「それより、お早く。パーティーが終わる前に」

 エスメラルダさんが顔を上げ、歩き出す。私たちもあとを追った。
 優雅な音楽が流れているが、楽しそうに踊っているのはブライアン王子とシャーロットだけだ。
 みんな、ひそひそと小声で話している、その中にエスメラルダさんが入っていくと話し声がピタリと止まった。
 凛々しくエスメラルダさんがその中に進む。まわりの視線を集めても臆することはない。視線は冷たいものではない。好奇心とそれから、憧れ。

「エスメラルダ様、なんて、素敵なの」

 口を切ったのはガブリエルちゃんだった。ガブリエルちゃん、グッジョブ。

「貴女は今日はまた、いつもより可愛らしいね」

 エスメラルダさんが微笑むと、まわりの女の子から悲鳴が上がった。もちろん、男の子もエスメラルダさんから目が離せない。
 ただ、一人にスポットライトが当たっているようだ。

「マリアさんという髪結師にお願いしましたの」
「なるほど。貴女に感謝しないといけないな。私の髪も彼女が切ってくれたんだ」

 スタイルに釣られるようにエスメラルダさんの言葉遣いが男性っぽくなっている。
 髪を片手でかき上げると、ピアスの飾りが見え、それから、サラリとその髪が落ちてくる。
 さっきより大きい悲鳴が上がった。

「エスメラルダさま、私と踊ってくださいませ」

 女の子たちが押し寄せる。先を越された男の子たちが慌てて、手を差し出す。

「エスメラルダさん、俺と踊ってくれないか」「いや、俺と」「いえ、私と」

 自分たち二人だけの世界に浸っていたブライアン王子とシャーロットがやっと、まわりの変化に気づいたのか、キョロキョロまわりを見渡した。
 エスメラルダさんに気づいたブライアン王子の顔が紅潮する。目が離せないみたい。怒りじゃなく、魅了されているけど、今さら、魅力に気づいても手遅れだから。
 ブライアン王子の視線に気づいたシャーロットの顔は醜く歪んでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

処理中です...