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椰子ふみの

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第一章

パーティー

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 エスメラルダさんの髪には天使の輪と呼ばれる光沢が出ている。癖もなく、真っ直ぐ。うん、完璧。

「合格です」

 私が言うと、侍女さんたちはそっと、頭を下げた。喜びを噛み締めている。
 今日の髪は私が侍女さんたちにヘアメイクを教えてきた最終試験。見事、合格だ。全員じゃないけど、二人はヘアアイロンも上手になったし、すごく努力したんだと思う。メイクも侍女さんたちの力作だ。今日は上品な感じに仕上げてある。

「ありがとう。辺境に帰るまでによく身につけてくれましたね。大変だったでしょう」
「いえ、楽しゅうございました」

 エスメラルダさんのねぎらいの言葉にみんな、ウルウルしている。

「マリアさんも本当にありがとうございます。髪を切られた時、マリアさんがいなければ、私は終わりでした」
「いえ、そんな。こちらこそ、ご招待いただき、ありがとうございます」
「開店準備は順調だとお聞きしました。このパーティーでの出席者との交流も上手く使ってくださいませ」
「ありがとうございます。来年、早々には開店しますので、その時にはぜひ、いらしてください」
「ええ、もちろんです」

 そこで、エスメラルダさんは侍女たちに向き直った。

「では、マリアさんの準備をお願いします」

 そのとたん、侍女さんたちに取り囲まれ、私はぐいぐいと引っ張られていく。
 今日はヘアメイクの最終試験として、早めに来たので、自分のドレスは普段着のままだ。だから、エスメラルダさんの侍女さんたちに手伝ってもらうことになっていたんだけど。
 みなさん、本気ですね。
 裸にされ、お風呂で洗われ、いや、そこまでしなくてもいいと思うんですが。
 最終試験合格だけあって、侍女さんは私の髪もきれいに仕上げてくれる。ドレスはアーネットさんから宣伝に使えと渡されたクリーム色のドレス。ふわふわした感じなのに、コルセットがついてる!

「無理無理無理」

 侍女さんがコルセットを締め始めたとたん、叫んだ。
 パーティーの食事も楽しみにしてるんだからさあ。
 何とか止めてもらった。

「でも、すごいですね」

 思わず、自分の胸を見下ろした。
 コルセットで締められ、持ち上げられて、見事な谷間ができているし、上部から胸がはみ出る感じになっている。
 なるほど、こういうタイプのコルセットが苦しくても無くならないはずだわ。

「マリアさんは元がいいから」

 お世辞まで言ってくれる。

「やっぱり、元祖ですから、夜会巻きにしましょう」

 他の人にヘアメイクをしてもらうのも久しぶりだ。私が自分でするより、メイクが少し色っぽい気がする。ドレスのオレンジ色と合わせているからだろうか。
 コスプレをしている気分だ。
 そういえば、えっちゃんたちはコスプレする時、私の代わりにヘアメイクする人は見つけられたのかなあ。上手い人が見つかってたらいいけど。

「エスコートは私が」

 準備ができあがると、ハロルドさんが迎えに来た。

「今日はまた、一段とお美しい」
「ありがとうございます」
「レオの奴が来るのは遅くなりそうなので、私で我慢してください」
「あ、あの、エスメラルダさんをエスコートしなくていいんですか?」
「ええ。今日はエスメラルダは誰かを飾る花ではなく、辺境伯の後継者として行動するつもりなので、エスコートは不要なんですよ」

 後継者! そうだよね。変な男を立てるより、その方がいいよね。

「でも、ハロルドさんもやりますね。侍女のみなさんの間ですごい話題でしたよ。紺色のドレスなんて」

 ハロルドさんの髪の色だ。エスメラルダさんの色の振りをしているけど、微妙な色味がハロルドさんの色なんだから。

「あれは辺境伯からのプレゼントですよ」

 でも、選んだのはハロルドさんだってわかってますから。エスメラルダさんもわかっているよね。

「マリアさんのドレスはどなたから?」
「これはアーネットさんからなんです。まあ、お店の宣伝をしてこいとのことで。嫉妬というスパイスも必要よねと言われたんですけど、意味がわからなくて」

 急にハロルドさんが笑った。

「マリアさん、気づいてないんですね。レオなら、煽られてるって、すぐに気づくのに」

 わ、わからない。あまり聞くと、常識がないと思われるかもしれない。黙っておこう。

「さ、行きますか」
「はい」

 私はパーティーに足を踏み入れた。

「はあ」

 パーティーが進むにつれ、私は疲れ切っていた。
 最初はハロルドさんがそばにいたので、エスメラルダさんが根回ししてくれていたのか、髪結師としての私に興味がある人が来てくれていた。
 新しい店の宣伝もできてよかったんだけど。
 エスメラルダさんの挨拶が終わると、ダンスを踊りにハロルドさんは行ってしまった。
 まあ、男性が群がっているから、ガードしないとね。
 ところが、それから、私の方にも人が集まってきた。
 新聞の記事を興味本位に聞いてくる人を笑顔でかわし、ダンスを誘ってくる人には足を痛めておりますのでと断る。
 きりがない。
 レオさんが来て会えたら、帰ろうと思っていたのにまだ来ないんだろうか。
 エスメラルダさんもハロルドさんも社交に忙しそうだから、尋ねづらいなあ。

「お飲み物はいかがですか」

 そこへトレイが差し出されたので、白ワインっぽいグラスを取る。
 一口飲むとけっこう甘い。

「お疲れでしたら、休憩室もございますが」

 若い男性の給仕だ。そういえば、ヘアメイクの関係で侍女さんとばかり話していたからか、見たことない人だ。

「あ、それでは案内をお願いできますか」

 ワインをちびちび飲みながら、後をついて行った。歩きながら、飲むなんて行儀が悪いけど、許してほしい。

「こちらです」

 ドアをくぐると、そこは庭だった。

「あれ?」

 ベンチも何もない。庭でも作業場のような場所だ。

「こ、は?」

 尋ねようとすると、舌がもつれた。
 酔っ払った?
 違う。こんな痺れるような感じ、違う。
 案内してきた男は薄く笑みを浮かべている。
 叫ぼうとしたが、もう声も出ず、私は崩れ落ちた。

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