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プロローグ
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ウストゥア全土に激震 指導者逃亡?
本日未明、ウストゥア社会主義共和国外務省は、同国の〇〇〇 〇〇大統領(43)が一昨日前より行方不明になっていると発表した。
〇〇氏は数々の人権侵害や問題発言によって国際的な非難を浴びており、特に昨年からのウストゥア内戦では反政府勢力への化学兵器の使用が疑われている。
同内戦では約二百万人もの人々が難民となって隣国ケニア、ウガンダに流れ、当初から泥沼化が予想されていた。しかし、合衆国と旧宗主国のフランスが反政府勢力側に立って介入し、先月末から形勢が逆転。政府軍は首都マラベに籠るのみとなった。
今回の出来事は、この悲惨な紛争を終わらせる契機になると、専門家は予想する。
「おそらく、空爆による戦死か暗殺、はたまた逃亡でしょう。いずれにせよ、〇〇氏なき政府勢力に勝ち目はありません。クリスマスまでにこの紛争は終わるでしょう」
本紙の取材に、ハ―バード大学名誉教授のポール・フリーマン氏はこう応じた。
(中略)
ウストゥアの民主主義と自由、何より人々の安寧の回復を、我々はただただ願うばかりである。
ニューアムステルダム・タイムス 二〇一〇年十二月十日号 抜粋
気が付くと、私は大の字になって空を眺めていた。視界の端にレンガ造の壁が競り出しているため、良い景観とは言い難いが。
紺碧色の、見ていると心が浄化されるような澄んだ空。
汚したくて堪らなくなるような、そんな空が見えた。
(そうだ、ここはどこだろう?)
ぼうっとした頭に、ふと疑問が起こる。たっぷり三分はそうしていた私は、ようやく身を起こした。そのまま立ち上がろうとしたが、強烈な目眩がしたのでその場に腰を降ろす。
どうやら私は、路地裏のゴミ溜めの上で、投げ捨てられるようにして寝ていたらしい。そういえば非常に臭い。軍服に臭いが染みていないか、気にせずにはいられなかった。酷い頭痛もするし、こうなる直前、何をしていたかも思い出せない。
徐々に頭に思考が戻る。自分がどのような状況に置かれているか理解した私は、猛烈に腹がたった。
何故か。私は酒を飲まないし、薬もやっていない。もちろん好き好んでこんな所に寝そべる趣味もない。となると、自分がこのような状況に置かれるのは外的要因以外あり得ないのだ。
(誰だ! 一国の主たるこの私に対し……いや、落ち着け)
私は持ち前の冷静さで、自らの激情を押さえた。
とにかく、異常な事態だ。状況を正確に把握する必要がある。そう自分に言い聞かせると、混乱する頭がすぅっと落ち着いた気がした。若い頃からの知恵だ。とにかく、何かを考えるのだ。
路地裏から出てここがどこなのか確認したかったが、まだ立ち眩みがする。それが収まるまで頭の中を整理する事にした。
(まず、昨夜は何をしていただろう? 資本主義者どもが首都に迫っていたし、寝るどころではなかった筈だ。米帝とカエル野郎に、無能な非国民どもめ……そうだ、思い出した。夕食の後、空襲警報が出たから妻と共に人民議会の地下防空壕に入って……)
先月の末あたりから、民族の誇りと偉大なるレーニンの思想を守る戦いは、我が国が劣勢となっていた。昨日は確か、敵に対する徹底抗戦を、ラジオで呼び掛けた筈だ。
まあ、後一ヶ月は持つまいという絶望的な戦争だが。それでも私は、最終的勝利を求めて国外で態勢を立て直す準備をしているところだった。決して逃げようという訳ではない。
ぶつぶつと、半分声に出しながら回想する。しかし、どれだけ頭を働かせても思い出せるのはそこまでだった。後は、夕食に食べた東部アフリカの民族料理の味ぐらいだ。
(まあいい。立ちくらみも収まった事だし、外に出て見るとしよう。)
私はゆっくりと立ち上がり、路地裏の外を目指す。目前は壁。そこを右に曲がれば通りに出るらしい。というのも、ここからでも雑踏がかすかに聞こえるのだ。
(さて、どこに出るのだろう。建物が無傷という事は、中央区のどこかだと思うが。)
東区や南区の惨状を思い出し、思わず眉をひそめる。その時の私は、自分が首都のどこかにいると信じて疑わなかった。首都は包囲されて脱出はできない。私が首都以外の場所にいるとすれば、それは敵の捕虜収容所か奪還した領土以外あり得ないのだ。
(それにしても、こんな嫌がらせをしたのは一体誰なんだろうか?目的は?)
考えても、結論は出ない。私と敵対する者であれば、既に私の命は無いとは思うのだが。
(よし、もうすぐ……)
念のため拳銃を発射できるよう準備し、通りに出た私は、もう一度気を失なうはめになった。
目の前を、人を乗せた巨大なトカゲが通り過ぎていったからだ。
「おい、あんた。大丈夫か?」
揺さぶられ、目が覚める。温和そうな老人が、道端に倒れた自分を見かね、声をかけてくれたらしい。
私は呻き声と共に起き上がり、老人の後ろに広がる景色に目を向けた。
やはり人民は自動車を使用せず、トカゲを馬のように使っている。そして、黒人が全くと言って良い程見当たらない。アラブ系とも黄色人種ともつかない、奇妙な民衆だった。それに、他にも首都とは全く趣が異なる部分がある。
街並みだ。我が国では、植民地時代の愚劣極まる西洋建築物を一掃し、より効率的、より進歩的なインフラ整備を推進していた。美しいコンクリート製建築物が建ち並ぶ、左右対称の完璧な都市が完成したのだ。
それがどうだろう。私は吐き気を覚えていた。首都は再び、醜悪な植民地時代に戻ったかのようだった。
(まさか、アメリカによる謀略なのか!?……いや、そんな馬鹿な)
そこで私はようやく、ここが首都ではないと気付く。アメリカは確かに強敵だが、私が眠っている間に首都の景観を変えるような芸当が、できようはずがない。
(では、ここはどこだ?)
私は再度、注意深く辺りを見回す。
(ベオグラードかサラエボあたりに、似ていないことも無いな)
私は学生時代、そこに留学していたのだ。
「聞こえるか?」
私の思索を、困惑気味の声が遮る。そうだ、老人の問に答えていないではないか。
「ああ、申し訳ない。概ね大丈夫だ。助けてくれたこと、感謝する」
「そうかい。まあ、困った時はお互い様さ。……いや、驚いたよ。尋常じゃない様子だったからね」
「というと?」
「路地裏から人が出てきたと思ったら、目を剥いて倒れるんだからさ。大方お上りさんで、がらの悪い連中にでも絡まれて身ぐるみはがされたんだろ?」
トカゲを警戒する私に、老人が苦笑する。
「変な服だし、竜車も見慣れんようだしな」
成る程、そういうことにしたほうが色々と聞きやすいかもしれない。
「まあ、そんなところだ。……ところで、ここはどこなんだ?」
「本当に大丈夫なのか?どこも何も、王都プラマリェイカ、宮殿前通りじゃないか」
「王都?どの国の?」
老人は絶句し、呆れたような表情をする。
「まさか、記憶喪失か何かなのか?……ここはラザト王国だよ。マルビサット三世陛下の御代で、獣皮の輸出と材木の産地として有名な。どうだ、思い出したか?」
再び考え込む私を見て、老人が更に心配そうな顔をする。
しかし、それに気遣うことができない程、私は動揺していた。
ラザト王国。プラマリェイカ。マルビサット三世。どの単語も聞いたことが無い。
更に老人と言葉を交わす内に、驚くべきことに気付いた。老人は私と同じくフランス語を話していると思っていたが、よく見ると口の動きが全く違うのだ。まるで見えない自動翻訳装置が働いているように、老人の未知の言語が私にはフランス語に聞こえ、私の言葉が老人には別の言語に聞こえるらしい。
もはや、ここがウストゥアでも首都でもないことは確定だった。
他にも、地理、歴史、政情など色々な質問をした。老人は私を哀れんだのか、懸命に答えてくれた。
曰く、ラザト王国はフルギア大陸に存在する。そのフルギア大陸には、ラザトの他にハドアス王国、クナ=ゴーラ王国、ベナンバス帝国、神聖ファーラント森林同盟、マイドゥラティ朝トゥールズ等の国々があるらしい。ラザトより東は蛮族が跳梁跋扈する荒野、トゥールズより南は巨大な砂漠で、その先に国は無い。他の方位は果ての無い海に囲まれている。
曰く、この世界には魔法と呼ばれる物があり、ごく普通に用いられる。都市インフラ、軍事、文化等は、魔法技術に沿って発達した。また、魔獣という魔力を持つ動物は人間や亜人種族(!)に害をなす。それらを討伐するため冒険者という職業があるという。
曰く、現在ハドアスとクナ=ゴ―ラとの間では紛争が起こっている。マルビサット三世が介入する意向を示したため、両国と接する西の国境に緊張が走っている。
等、等。老人は語り終え、私の反応を待つ。
ここに来て、私は自分が「地球ではない場所」にいることを認めざるを得なくなっていた。老人は嘘を言っているように見えない。何より、空に浮かぶ白い二つの月や、通行人に混じる亜人とおぼしき人々がそれを証明していた。
私がここにいる原因は全く分からない。しかし、確かにここは地球以外の場所……敢えて言うなら異世界なのだ。資本主義者どもの見る安っぽい映画のように、私は冒険者として不思議な世界に飛ばされてしまった。ウストゥアの同志たちを見捨てる形で。
(こんなことを引き起こしたのは果たして、自然現象なのか、何者かの意思なのか……まあ、どちらでも良い)
私はここに告白しよう。私は共産主義者だ。ゆえに、唯物論者だ。しかし、この時ばかりは、居もしない神に本気で感謝していたと思う。
そう、神は私を使者に選んだのだ。専制君主に苦しめられる無知な人々に、レ―ニンの思想を広めるための。邪魔する物は何もない。アメリカがいなければ民主主義思想も存在せず、あるのは何も知らない産業革命前の純朴な人々と、憎むべき地主や倒すべき君主のみ。
私は笑みを浮かべていた。老人が驚き、気味悪げに後ずさる。
「ど、どうしたんだ?何か悪巧みでもしているような顔だが」
「悪巧み?とんでもない」
私は笑みを一層広げる。
「素晴らしいことを考えついたのさ」
本日未明、ウストゥア社会主義共和国外務省は、同国の〇〇〇 〇〇大統領(43)が一昨日前より行方不明になっていると発表した。
〇〇氏は数々の人権侵害や問題発言によって国際的な非難を浴びており、特に昨年からのウストゥア内戦では反政府勢力への化学兵器の使用が疑われている。
同内戦では約二百万人もの人々が難民となって隣国ケニア、ウガンダに流れ、当初から泥沼化が予想されていた。しかし、合衆国と旧宗主国のフランスが反政府勢力側に立って介入し、先月末から形勢が逆転。政府軍は首都マラベに籠るのみとなった。
今回の出来事は、この悲惨な紛争を終わらせる契機になると、専門家は予想する。
「おそらく、空爆による戦死か暗殺、はたまた逃亡でしょう。いずれにせよ、〇〇氏なき政府勢力に勝ち目はありません。クリスマスまでにこの紛争は終わるでしょう」
本紙の取材に、ハ―バード大学名誉教授のポール・フリーマン氏はこう応じた。
(中略)
ウストゥアの民主主義と自由、何より人々の安寧の回復を、我々はただただ願うばかりである。
ニューアムステルダム・タイムス 二〇一〇年十二月十日号 抜粋
気が付くと、私は大の字になって空を眺めていた。視界の端にレンガ造の壁が競り出しているため、良い景観とは言い難いが。
紺碧色の、見ていると心が浄化されるような澄んだ空。
汚したくて堪らなくなるような、そんな空が見えた。
(そうだ、ここはどこだろう?)
ぼうっとした頭に、ふと疑問が起こる。たっぷり三分はそうしていた私は、ようやく身を起こした。そのまま立ち上がろうとしたが、強烈な目眩がしたのでその場に腰を降ろす。
どうやら私は、路地裏のゴミ溜めの上で、投げ捨てられるようにして寝ていたらしい。そういえば非常に臭い。軍服に臭いが染みていないか、気にせずにはいられなかった。酷い頭痛もするし、こうなる直前、何をしていたかも思い出せない。
徐々に頭に思考が戻る。自分がどのような状況に置かれているか理解した私は、猛烈に腹がたった。
何故か。私は酒を飲まないし、薬もやっていない。もちろん好き好んでこんな所に寝そべる趣味もない。となると、自分がこのような状況に置かれるのは外的要因以外あり得ないのだ。
(誰だ! 一国の主たるこの私に対し……いや、落ち着け)
私は持ち前の冷静さで、自らの激情を押さえた。
とにかく、異常な事態だ。状況を正確に把握する必要がある。そう自分に言い聞かせると、混乱する頭がすぅっと落ち着いた気がした。若い頃からの知恵だ。とにかく、何かを考えるのだ。
路地裏から出てここがどこなのか確認したかったが、まだ立ち眩みがする。それが収まるまで頭の中を整理する事にした。
(まず、昨夜は何をしていただろう? 資本主義者どもが首都に迫っていたし、寝るどころではなかった筈だ。米帝とカエル野郎に、無能な非国民どもめ……そうだ、思い出した。夕食の後、空襲警報が出たから妻と共に人民議会の地下防空壕に入って……)
先月の末あたりから、民族の誇りと偉大なるレーニンの思想を守る戦いは、我が国が劣勢となっていた。昨日は確か、敵に対する徹底抗戦を、ラジオで呼び掛けた筈だ。
まあ、後一ヶ月は持つまいという絶望的な戦争だが。それでも私は、最終的勝利を求めて国外で態勢を立て直す準備をしているところだった。決して逃げようという訳ではない。
ぶつぶつと、半分声に出しながら回想する。しかし、どれだけ頭を働かせても思い出せるのはそこまでだった。後は、夕食に食べた東部アフリカの民族料理の味ぐらいだ。
(まあいい。立ちくらみも収まった事だし、外に出て見るとしよう。)
私はゆっくりと立ち上がり、路地裏の外を目指す。目前は壁。そこを右に曲がれば通りに出るらしい。というのも、ここからでも雑踏がかすかに聞こえるのだ。
(さて、どこに出るのだろう。建物が無傷という事は、中央区のどこかだと思うが。)
東区や南区の惨状を思い出し、思わず眉をひそめる。その時の私は、自分が首都のどこかにいると信じて疑わなかった。首都は包囲されて脱出はできない。私が首都以外の場所にいるとすれば、それは敵の捕虜収容所か奪還した領土以外あり得ないのだ。
(それにしても、こんな嫌がらせをしたのは一体誰なんだろうか?目的は?)
考えても、結論は出ない。私と敵対する者であれば、既に私の命は無いとは思うのだが。
(よし、もうすぐ……)
念のため拳銃を発射できるよう準備し、通りに出た私は、もう一度気を失なうはめになった。
目の前を、人を乗せた巨大なトカゲが通り過ぎていったからだ。
「おい、あんた。大丈夫か?」
揺さぶられ、目が覚める。温和そうな老人が、道端に倒れた自分を見かね、声をかけてくれたらしい。
私は呻き声と共に起き上がり、老人の後ろに広がる景色に目を向けた。
やはり人民は自動車を使用せず、トカゲを馬のように使っている。そして、黒人が全くと言って良い程見当たらない。アラブ系とも黄色人種ともつかない、奇妙な民衆だった。それに、他にも首都とは全く趣が異なる部分がある。
街並みだ。我が国では、植民地時代の愚劣極まる西洋建築物を一掃し、より効率的、より進歩的なインフラ整備を推進していた。美しいコンクリート製建築物が建ち並ぶ、左右対称の完璧な都市が完成したのだ。
それがどうだろう。私は吐き気を覚えていた。首都は再び、醜悪な植民地時代に戻ったかのようだった。
(まさか、アメリカによる謀略なのか!?……いや、そんな馬鹿な)
そこで私はようやく、ここが首都ではないと気付く。アメリカは確かに強敵だが、私が眠っている間に首都の景観を変えるような芸当が、できようはずがない。
(では、ここはどこだ?)
私は再度、注意深く辺りを見回す。
(ベオグラードかサラエボあたりに、似ていないことも無いな)
私は学生時代、そこに留学していたのだ。
「聞こえるか?」
私の思索を、困惑気味の声が遮る。そうだ、老人の問に答えていないではないか。
「ああ、申し訳ない。概ね大丈夫だ。助けてくれたこと、感謝する」
「そうかい。まあ、困った時はお互い様さ。……いや、驚いたよ。尋常じゃない様子だったからね」
「というと?」
「路地裏から人が出てきたと思ったら、目を剥いて倒れるんだからさ。大方お上りさんで、がらの悪い連中にでも絡まれて身ぐるみはがされたんだろ?」
トカゲを警戒する私に、老人が苦笑する。
「変な服だし、竜車も見慣れんようだしな」
成る程、そういうことにしたほうが色々と聞きやすいかもしれない。
「まあ、そんなところだ。……ところで、ここはどこなんだ?」
「本当に大丈夫なのか?どこも何も、王都プラマリェイカ、宮殿前通りじゃないか」
「王都?どの国の?」
老人は絶句し、呆れたような表情をする。
「まさか、記憶喪失か何かなのか?……ここはラザト王国だよ。マルビサット三世陛下の御代で、獣皮の輸出と材木の産地として有名な。どうだ、思い出したか?」
再び考え込む私を見て、老人が更に心配そうな顔をする。
しかし、それに気遣うことができない程、私は動揺していた。
ラザト王国。プラマリェイカ。マルビサット三世。どの単語も聞いたことが無い。
更に老人と言葉を交わす内に、驚くべきことに気付いた。老人は私と同じくフランス語を話していると思っていたが、よく見ると口の動きが全く違うのだ。まるで見えない自動翻訳装置が働いているように、老人の未知の言語が私にはフランス語に聞こえ、私の言葉が老人には別の言語に聞こえるらしい。
もはや、ここがウストゥアでも首都でもないことは確定だった。
他にも、地理、歴史、政情など色々な質問をした。老人は私を哀れんだのか、懸命に答えてくれた。
曰く、ラザト王国はフルギア大陸に存在する。そのフルギア大陸には、ラザトの他にハドアス王国、クナ=ゴーラ王国、ベナンバス帝国、神聖ファーラント森林同盟、マイドゥラティ朝トゥールズ等の国々があるらしい。ラザトより東は蛮族が跳梁跋扈する荒野、トゥールズより南は巨大な砂漠で、その先に国は無い。他の方位は果ての無い海に囲まれている。
曰く、この世界には魔法と呼ばれる物があり、ごく普通に用いられる。都市インフラ、軍事、文化等は、魔法技術に沿って発達した。また、魔獣という魔力を持つ動物は人間や亜人種族(!)に害をなす。それらを討伐するため冒険者という職業があるという。
曰く、現在ハドアスとクナ=ゴ―ラとの間では紛争が起こっている。マルビサット三世が介入する意向を示したため、両国と接する西の国境に緊張が走っている。
等、等。老人は語り終え、私の反応を待つ。
ここに来て、私は自分が「地球ではない場所」にいることを認めざるを得なくなっていた。老人は嘘を言っているように見えない。何より、空に浮かぶ白い二つの月や、通行人に混じる亜人とおぼしき人々がそれを証明していた。
私がここにいる原因は全く分からない。しかし、確かにここは地球以外の場所……敢えて言うなら異世界なのだ。資本主義者どもの見る安っぽい映画のように、私は冒険者として不思議な世界に飛ばされてしまった。ウストゥアの同志たちを見捨てる形で。
(こんなことを引き起こしたのは果たして、自然現象なのか、何者かの意思なのか……まあ、どちらでも良い)
私はここに告白しよう。私は共産主義者だ。ゆえに、唯物論者だ。しかし、この時ばかりは、居もしない神に本気で感謝していたと思う。
そう、神は私を使者に選んだのだ。専制君主に苦しめられる無知な人々に、レ―ニンの思想を広めるための。邪魔する物は何もない。アメリカがいなければ民主主義思想も存在せず、あるのは何も知らない産業革命前の純朴な人々と、憎むべき地主や倒すべき君主のみ。
私は笑みを浮かべていた。老人が驚き、気味悪げに後ずさる。
「ど、どうしたんだ?何か悪巧みでもしているような顔だが」
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