鬼は精霊の子を愛でる

林 業

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セレスタイトは、山の中にいた。
吹雪く山の中をのんびりと見ていれば、隣に立つ髪の長い女性。
人目でその人物が誰かを理解する。
「お母さん?」
生まれてすぐ、いなくなったと父から聞いた。
だから、すれ違ってもわかるはずないと思っていた。
だが、何故だろう。
見ただけで、彼女が自分の母親とわかるのだ。

「あぁ。我が子、セレスタイト。何故あの山を離れたの?」
「だって、街を見たくて。教えてくれたんだ。いっぱい楽しいところがあるんだって」
そういえば、誰に教えてもらったのだったっけ。
悩みながら、それでも笑顔で告げるが、母は少し怒ったように、見つめてくる。
そして、左右に頸を振り、手を出す。
「おいで。やはり、人の世に置いてくるのではなかったのね。力が不安定で、今にも消えて無くなりそう」
その手を掴むべきか悩む。
「何を悩んでいるの?人の世の体などもういいのよ。私とあの山で暮らそう。二度と人の世など気にしなくとも良いの。あの人を殺した人の世など、どうなったっていいじゃないの」
彼女が言葉を紡ぐたびになにか一つ失われていく。
そもそも、どうして、街に降りたのだろうか。
祖父と、父が亡くなって。
ずっと、山小屋に住んでいた。
其処から、動くつもりはなく、そのまま死に絶えてもいいと思っていた。

一人ぼっちは嫌だった。
だけど、家族を殺した、人は嫌いだった。

真っ暗な闇が目の前に広がっている。
母の手だけが、目に入る。
その手を取ってしまえば、一人じゃない。
母がいる。

母が自分を、守ってくれる。
ずっと、側にいてくれる。
そうだ。
あの雪山で寂しい思いをして、毛布に包まって夜が開けるのを待たなくてもいい。



「ーーーーー」


歌が聞こえてくる。
「愛し子!何故。邪魔をするの!」
母の金切り声に頭が痛む。

歌が、痛みと一緒に頭の中に流れ込む気がする。

そうだ。
雪の中で倒れていた彼。
白ばっかりの世界で黒い色が目立った。
白の世界に初めて見つけた色。
綺麗だと思った。

真っ白より、黒い色がとても鮮やかで輝く色が綺麗に思えた。
元気になったモリオンと一緒に暮らそうと提案したのは、僕からで。
一緒に暮らすうちに、モリオンの優しさが、とても嬉しくて。
そんな優しさに惹かれる人は多いんだろうと思ったら、浮気するんじゃないかと不安になった。
モリオンは不器用な自分にも優しい。

「お母さん、モリオンがいるからそっちに帰る」
笑顔を返せば母が、困ったように見つめてくる。
本当にいいのかと何度も繰り返されて頷く。

「わかった。もし、私のもとに来たくなったら、山に向かって呼ぶといいよ」
「うん」
満面の笑顔を返せば、母が頭を撫でてくれる。
さぁ、帰ろうと歌の元へと向かう。

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