幸福からくる世界

林 業

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ある大陸のある国にて

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市場を歩く。
この辺りの布いいんじゃないかとサジタリスが生地を示す。
その店の奥から女将がでてきて顔を綻ばせる。
ルーンティルを見て、楽しそうにしている。
「師父か。聞いたよ。新しい子引き取ったんだって?」
「そうなんだ。挨拶して」
背中を押されて、前に出され、急いで頭を下げる。
「ハルシオです。よろしくお願いします」
「よろしく。といっても生地屋なんて早々使わないだろうけどね」
「せっかくだから、カーテンとか、この子の部屋の小物を仕立て直そうかなって思っててさ。いい生地ないかな?」
「あぁ。そりゃあいいことだね」
これこれこれと出して、ハルシオに選ぶよう促される。
あまり高くないのを、選びつつも、気に入った生地を眺めてそれもいいと購入している。
「せっかくだから生地を買ってくれたいい感じになら仕立ててあげたいところだけど」
「あれ?ミシン。どうかした?」
「この間息子がぶつかってね。悪気がないからたちが悪いってやつだよ」
「ちょっと見ようか」
「ミシン?」
「僕が作った縫い物用の魔導具」
おいでと中へと女将に案内される。
店の奥に一つあるミシン。
「僕の故郷ではよく見られたものなんだけどね。前に大量発注をしてきた工場の試作品の一つを譲ったんだ。代わりに生地を買うと色々と欲しい感じで仕立ててくれる」
「おかげで助かってるんだけどね」
ハルシオは新しい魔導具だとうきうきで眺める。
「やっぱり新しいのを買ったほうがいいかねぇ」
壊れたなら分解したいと、ルーンティルを見上げる。
だがルーンティルはミシンを眺めると微笑みを浮かべる。
「あぁ。大丈夫だよ。息子さんがぶつかたときに誤作動が起きて、糸を巻き込んだだけみたい。ちょっと今から糸を吐き出させるから」
「本当かい」
「うん」
側面のカバーを外し、指を当てれば、針が刺さった土台の下から糸が吐き出されていく。

糸が出なくなったところで、カバーを戻し、女将がミシンを動かせば、針が上下に動き出す。
「た、助かるわ。さすが師父ね」
「当然」
「お礼に、カーテンとかいろいろと作らせてもらおうかね」
「お、助かるよ」
「師父は持ってないんですか?」
「針仕事にそこまで興味ない。魔導具では、糸を縫い込むときぐらいだし、それはそれでミシンではできない」
「そうですか」
解体したかったとミシンを眺める。
「さ、次だぁ。好きなドライフルーツでパンケーキを作るから好きなの買うんだよ」
サジタリスはどれにしようかと悩み、ハルシオは何があるんだろうと気持ちをそっちへ切り替える。

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